第110話 帰還の支度
「ははあ、これがお金を儲けるということか。士官学校ではこんなことは学ばないから、理解が難しいな」
「あたしはもうノートを見ても何が何だかさっぱりです!」
「お前たち……貴族だったら少しは経済的観念を持った方がいいぞ」
紫鴉学級の生徒たちも商売のことについてはてんでさっぱりのようだったが、唯一モンセーだけは経済に理解があるらしく、最近の貴族たちの金銭感覚のなさにあきれていた。
ともあれ、ガムランたちが無事に戻ってきたことで大きな懸案事項は消えた。
運搬のために雇った傭兵を引き続き雇用するかや、ガムランの体重が爆増したことなど、確認したいことは山ほどあったが、今は一刻も早く西帝国に戻れるように準備を進めるべきだ。
「リク、出征式には参加するということでいいんだよな」
「うん。出征式は3日後だから、当日の出席はするとして、終わったらすぐに出発できるようにしておきたい」
「わかった、それまでに私たちも荷造りをまとめておくわ」
当初の予定通り、リクレールとシャルンホルスト、ヴィクトワーレの3名は出征式に参加し、セレネたちの出陣を見送ることにした。
ただ、その間にもガムランやエレノアたちが帰還の準備を進めておき、式が終わってすぐに出発できるようにする。
一方で紫鴉学級の生徒たちもまた、急いで遠征準備に取り掛かることになるのだが、元担任だったウルスラがある提案をしてきた。
「ブレヴァン侯爵側には3学級が付いたわ。ならばこっちも、可能な限りほかの学級に声をかけて、一緒に来てくれないか説得してみるわ」
「ありがとうございます、ウルスラ先生! すごく助かります! あ、そうだ……ほかの学級と言えば」
リクレールはふと何か思いついたことがあるらしく、やるべきことを記した紙にそのことを記載しておく。
やること一覧にはすでにかなりの項目が書き加えられており、そろそろ紙の裏を使わなければならなそうだ。
「リク、俺たちは何をしたらいい? 俺は荷物が少ないから、行こうと思えばすぐに出発できるぜ」
「ゼークトたちは、可能であればほかに協力できそうな人を探してほしい。ここから先は一人でも、戦力になる人が欲しいんだ」
「くくく、その程度であれば造作もない。私の闇のネットワークは士官学校以外にも存在する。盟友の頼みとあらば、彼らにも契約を持ち掛けることとしよう」
「だからどうしてお前は無駄に物騒なんだ……要は魔道学校のツテも頼るということだろう。私はそうだな、力になれるかどうかわからんが、知り合いに声をかけてみる」
こうして、行動方針が決まった一同は一斉に動き出したが……
『主様、わたくしたちが行動する前に、少々お時間いただきたく存じます。よろしいでしょうか?』
(……わかった。一度、僕の部屋に行こう)
リクレールだけは踵を返して、自室へと向かったのだった。




