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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第5章 家族のような存在
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第105話 明日僕と一緒にお出かけすること

 リクレールが物思いに耽っていると、ちょうどレイがお替りのグラタンを運んできた。


「お待たせしましたご主人様。お替りのグラタンをお持ちしました」

「ありがとう! ふふっ、人生初のお替りってなんだかワクワクする…………いただきます」


 リクレールがグラタンをスプーンで掬い、アツアツの具を「ふーっ」と吐息で冷ましながら、口に運ぶ。


「お! なんだかさっきと味が違う……かも? でも、すごくおいしい」

「その……ご主人様に少しでも美味しく召し上がっていただけるよう、スパイスの種類を変えてみたのですが、いかがでしたでしょうか?」

「スパイスを変えるだけで、味ってこんなに変わるものなんだ……不思議だ」


 アルトイリス侯爵家が位置する西帝国は、食糧事情が悪いうえに文化的にも粗食が尊ばれるせいで、料理の文化が壊滅的だった。

 リクレールもその味が当たり前だと思っていたから、昔から食が細く、食事も苦痛に感じていたのだが……味付けにこだわった料理は、これほどまでに変化に富むものなのかと、改めて驚いた。


(それに……ここまでおいしく作るのも、並大抵の努力じゃないだろうな。前仕えていた主人は厳しい人だったって聞いたけど、それで料理も手を抜かずに全力で作ってくれたんだろうな)


 リクレールはグラタンを口に運びつつ、なんとなく周囲を見渡した。

 彼が帝都についたばかりの頃は、どの部屋も埃や染みだらけで、館は豪華なのにどこか殺風景に感じたものだった。

 しかし、レイをはじめとするメイド三姉妹とエレノアが館に来てから、あっという間にすべての手入れが行き届き、今までとは比べ物にならないくらい快適に過ごせるようになった。そして、それを成し遂げるには、並々ならぬ労力が必要だっただろう。


「ねぇ、レイ。明日なんだけど、僕は気分転換に町のあっちこっちを見て回ってのんびり過ごそうと思ってる」

「はい、ご主人様。お天気もよさそうですし、気分転換には絶好の一日になるかと」

「うん、そうだね。それで……良かったら一緒に行かない?」


 レイはリクレールの言った一言に一瞬目をぱちくりさせ、それから意味を理解すると、顔を真っ赤にしながらうろたえた。


「わわっ! お、お戯れをっ! 私がご主人様と一緒にお出かけだなんて、そんな恐れ多いこと……」

「あ、そ……そうか」


 レイが顔を赤面くして手をワタワタするのを見たリクレールは、本気で拒絶されたと思って残念そうにしたが――――


『主様……レイさんは遠慮しているだけですわ。前にも言いました通り、女性相手は1に押し、2に押し。むしろ、もっと強くお誘いした方が、レイさんは喜びますわ』

(え、でも……レイは前仕えていた人から……)

『前に仕えていたというどうしようもない屑男と、主様を比べるのは烏滸がましいですわ。それに、彼女たちも主様も、この機会にもっと見聞を広めるのもよろしいかと存じますわ』

(エスペランサがそこまで言うのなら、信じてみるか)


 一旦は誘うのをあきらめようとしたリクレールだったが、エスペランサに後押しされたことで、少し強く迫ることにした。


「いいや、君も……ユナやメルも、ここに来てから今日までずっと毎日働きっぱなしだっただろう。僕にも、君たちにも休みが必要だ。だからほら、付き添いのお仕事ってことで」

「ですが……」

「いいから! これは主命だ、君たちは明日僕と一緒にお出かけすること。いいね?」

「……かしこまりました。では、恐縮ながら、ご同行させていただきます」


 レイが了承すると、リクレールの後ろで話を聞いていたエレノアも嬉しそうに声を上げた。


「レイちゃんもまだ若いんだから、たまには思い切り楽しまなきゃ損よ。遠慮はいらないから、行ってきなさい♪」

「は……はいっ、メイド長っ!」


 こうして、リクレールとメイド三姉妹は、明日一日だけは仕事のことを忘れて、帝都の楽しみを満喫することとなる。

 寝る前になると、リクレールは明日何をしようかという想像がとめどなく湧いてくるので、ワクワクでなかなか眠れなかった。


(ふっふっふ、明日はどこに行こうかな? やっぱり古書店巡りは外せないよね、久しく行ってないから掘り出し物が出てくるといいな。ああそうだ、久々と言えば朝市を覗いてみるのもいいかもしれない。あの大勢の人がごった返して、物が飛ぶように売れていくのは見ていて楽しいし、今ならレイたちが美味しいものを見分けてくれるかもしれない。そうなれば、東区の公園の花園を見に行くのもいいかもしれない。この寒い時期は、逆に珍しい花が見れそうだから――――)

『主様、夜も更けておりますわ。そろそろお休みになられてはいかがでしょうか』


 思考があまりにもうるさすぎて、エスペランサも窘めるほどだった。

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