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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第5章 家族のような存在
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第104話 焦りは禁物

 グラタンのお替りを作りに行ったレイと入れ替わるように、エレノアがティーポットとティーカップを持って食堂に入ってきた。


「リクレール君……じゃなかったわ、ご主人様♪ 今日はずいぶんとお疲れのようね。あんなに食が細かったリクレール君がお替りするなって、私も嬉しいわ」

「こちらこそ毎日あんなにおいしい料理を作ってくれて本当に助かります。わざわざ作ってもらわなくちゃいけないから、レイには少し申し訳ないけど」

「うふふ、そんなことないわ。レイさんったら凄く嬉しそうにルンルン気分でお料理してたわ。まるで新婚さんが大好きな旦那様のために美味しいものを作ってるみたいだったのよ」

「そ、それは流石に大げさというか……」


 エレノアの言っていることは話半分に聞くとしても、レイにとってはリクレールに頼られるのが嬉しいということは確かなようだった。


「でも、毎日たくさん食べられるようになったからと言って、無茶は駄目よ。毎日あっち行ったりこっち行ったりですごく忙しそうだし…………やっぱり、臣下の方が戻ってこないのが不安なのかしら?」

「はい……ガムランたちが出発してから、今日で13日目になります。往復で10日以内には戻ってくると言っていたんですが、まだ何の音沙汰もなく……マティルダとベルサが付いていったから、滅多なことはないと思うけど」


 リクレールが忙しいのは元からではあったが、近頃は急いでやる必要のないことまで予定に組み込んで、まるで不安から逃げるかのように仕事に打ち込んでいる。

 その不安というのが、北方に木材の買い付けに行ったガムラン率いる行商人たちや、護衛についていったマティルダやベルサなどのコンクレイユ家騎士団の一部が、予定の期日を過ぎても帰ってこないということだった。

 何もしていない時、ふと彼らに何かあったらと思うといてもたってもいられず、出来ることなら自ら探しに行きたいと思うほどだ。

 そんなリクレールの気持ちを察したのか、エレノアが彼の前にそっとティーカップを置くと、ティーカップからゆっくりとお茶を注いだ。

 白いティーカップに注がれたお茶は薄く澄んだ黄色で、まるでブーケのような優しい香りがする。そして、一口飲めば……不思議と不安な気持ちが和らいでいくような気がした。


「私特製のハーブティーよ。レモングラスをベースにしたスッキリ爽やかな味だから、お仕事で疲れた体にもいいと思うわ」

「ありがとうございます。うん……本当に美味しいですね、これ! どこで買ったんですか?」

「ふふふ、買ったものじゃないわ。私が趣味でずっと育てていたハーブをミュレーズ家から持ってきたから、それをブレンドしたのよ。それに、このハーブは精神の異常を静める効果もあるから、もっと品種改良すれば、薬として使えるようになるかもしれないわ」

「へぇ~……それは凄いですね」

「でしょう♪ でもね、やっぱり一番いいのは……きちんと休むことよ。リクレール君は、明日は特に急ぎの予定はないでしょ?」

「う、うん……だから傭兵の斡旋所を見ておこうかなと思って」

「それは駄目よ、リクレール君」


 エレノアは「めっ」っと言いながらリクレールの顔に人差し指で軽く触れた。


「たまには気分転換して、ゆっくり休まなきゃ。お仕事しすぎて出征式本番に体調を崩したら、セレネが悲しむと思うわ」

「セレネが悲しむ……」


 エレノアの言葉にリクレールはハッとした。

 エスペランサのおかげで昔に比べて精力的に動けるようになったが、リクレールは元々平均以下の体力しかなかったのだから、これ以上無茶をすればいつか体調を崩すかもしれないし、そうなったらセレネも安心できないだろう。


「……エレノアさんの言う通りです。僕はちょっと焦りすぎていたかもしれません」

「よしよし、聞き分けのいい子ねリクレール君は。せっかくだし、お仕事以外で何かしたいことがあれば、今のうちにしておくといいわ。リクレール君は昔から本が好きで、よく古本市を覗いていたりしたわよね」

「古本市か……そういえば、長いこと見に行ってないなぁ」


 エレノアの言葉をきっかけに、帝都での楽しみをすっかり忘れていたリクレールの脳内に、古本市の物色を初め、やりたいことが次々と思い浮かんでくるのだった。

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