7.マジックショー
「───さぁ見ていってください!これより始まるショーは摩訶不思議な現象っ!今!ここでしか見れないものをお見せします!」
街の中央、噴水広場にキツネの仮面を着けた男女二人組が居た。
一人は黒の衣装。スーツと呼ばれる服を着ている。
もう一人は赤色が目立つ華やかな衣装のワンピース。
二人が立つ目の前には人一人が立って入れる程大きい木箱が二つの置かれている。
人々はその二人組を最初は奇妙な目で見ながら素通りしていったが、何が行われるのか気になる者が現れ始め次第に二人組を囲むように集まった。
「これくらい集まればいいかな」
「集まりすぎだよ……緊張する……」
この二人は、ウィリアムとレイラである。
ウィリアムがやりたいことを宣言したその後日、ウィリアムはこの目で足で街のことを知る為に数日使って街を散策した。
本物のウィリアムの記憶があるお陰で世界の一般常識は知れている。
平民暮らしにしては生活水準は高い。窓にはガラスが使われ、街中に捨てられるゴミは少なく臭いも全く酷くない。衛生面がしっかりしている印象だ。
異世界の平民暮らしと言えばもっと酷いものを想像していたが、ウィリアムの記憶と実際に見た街の情報によればそんなことは無いことがわかった。
所々中世の要素はあるが天野優樹が暮らしていくのになんら苦労はしない。
そんな暮らしに驚きつつ、ウィリアムのこの散策の目的は平民の生活を知るそれだけではない。
大きなことをするのに打ってつけの場所は何処かそれも探していた────。
「皆さん!お待たせしました。これより行うのは『瞬間移動』!この木箱の中に私のパートナーが入り、ものの数秒で別の木箱へと移動します。───誰の目にも入らないように」
観衆はその言葉に騒然とする。「何を馬鹿げたことを」、「そんなこと出来るわけないだろ?」、「でも本当に出来たら凄いよね」、「出来たら銀貨五枚くれやるよー!」など、人々の反応は様々。
キツネの仮面の男はニヤリと唇を歪め、ショーを始める為女性の手を取った。
「レイラ嬢。中へどうぞ」
「……はい」
レイラ嬢と呼ばれる女性は男の手を借りながら一つの木箱の中に入る。
「レイラ嬢。中に居ることを証明する為、中から木箱を叩いて音を出してもらえるだろうか?そして、定期的に音を出しててくれ」
ドンドンッと、確かに先程入った木箱から音がする。
「では、ここから出られないように紐で縛っておきましょう。………そこのお二人。きつく縛ってもらってもいいでしょうか?」
「え?あ、俺達か?」
キツネの仮面の男は前列に居た男性二人に手伝いを申し込む。
二人は知り合いのようで、どうするか少し迷っていた。
「私がやるより、無関係の貴方達にやってもらった方がいいでしょう?私が縛ってる時に仕込みをしたんだろうと言われたくはないので」
「ま、まぁ確かに……?」
「やってやるか」
二人は仮面の男に紐を渡され、レイラ嬢が入った木箱に近付く。言われた通りに木箱の周りを紐できつく縛り、女性の手では絶対に脱出出来ないようになった。
縛られる間も木箱を叩く音はしていた。
「よし。かなり縛ったぞ。建築で木材を運ぶ時に使う結び方だ。簡単に外れないぞ」
「お二方ありがとうございます!───それでは」
紐で縛られた木箱を見た仮面の男はズボンのポケットからマッチを一箱取り出す。
そして次の瞬間、間を置かず仮面の男はマッチに火を付け、木箱へ放つ。
「お、おい!?」
「何やってんだよ!」
「瞬間移動なんて出来やしないのに殺すつもりか!!」
観衆はその行為に驚愕して、仮面の男に罵声を浴びせる。
木箱からは依然ドンドンッ、と中から木箱を叩く音がしている。今ではその音が中に入っている証明ではなく助けてほしいという合図に聞こえる。
だが仮面の男は冷静そのもの。仮面のせいで表情はわからないが焦り一つしていない。
「皆さん?何を心配しているのか知りませんが、既に瞬間移動は成功していますよ?」
「───は?」
よく耳を澄ますと音が聞こえるのは燃え始めた木箱からではなく、もう一つの木箱から。
そして、ギィと木が擦れる音を立てながら燃えていない木箱から一人の女性が出てきた。
「ま………まじか」
「嘘っ!?」
「おいおい、あの女が出てきた瞬間誰か見たか!?」
「すっげー!本当にやりやがったよ!」
「こんなの生まれて初めて見たぜ!」
人々は驚き、歓喜した。
仮面の二人組はその歓声に深々と頭を下げる。
「さてっと」
仮面の男がパンッと手を叩いた。その瞬間、木箱を燃やす火が突然消える。
「い、今のも何か仕掛けがあるのか……?」
「もちろんです!本当に火を付けて万が一があるのは怖いですからね」
「すげぇ……これって何て言うショーなんだ!」
「よくぞ聞いてくれました!これは仕掛けはあるけど、それが何なのかは全くわからない……その名も『マジック』!」
「おおぉーー!!」
最後に両手を横に大きく広げてこのショーの名前を告げる。
こうして、この街……いやこの世界で初めてのマジックが行われた瞬間である。
「……兄さん後で説教ね。火を付けるなんて知らない」
「ごめん。でも言ったらやってくれなかっただろ……?」
「当然でしょ」
そんな二人の声は観衆の大きな声によってかき消され、二人以外には聞こえなかった。
このショーを見ていた人はこの場に集まった人だけではなかった。噴水広場の周りに住む住人は家の窓を開けて見ていたり、ある者は遠くから馬車の小窓から見ていた……。
「ふっ、何が行われるか気になって見ていれば……実によい余興だ。貴様はどう見た?」
「……わたくしのお茶会でお友達に披露してもらいたいくらいですね」
二頭の白馬に引かせる豪華な馬車。
それに乗っている男女二人がマジックショーを小窓から見ていた。
青を基調とした貴族の衣装、銀髪で青い瞳の男。見た目は若く、二十歳といったところ。その尊大な口調とは似つかわしくない年齢だ。
黄色と白の高級な糸で仕立てたドレスを着て、向かいの男と同じ銀髪で長い髪は頭の上で一つにまとめ、綺麗なロングヘアーを背中に流す。そして、ルビーのように光輝くその瞳。
男もかなり眉目秀麗ではあるが、それ以上に美を磨いたであろうその容姿は人々の視線を一身に受ける。
「貴様の茶会でか?よほど気に入ったと見える」
「わたくしのことはいいでしょう。───それで、あの者達をどうなさるおつもりで?お兄様」
「何、二十歳になってもたまには玩具を欲する時もあろう?」
「はぁ……他領の民を勝手に連れ去ることなどしませんように」
「わかっている。この後の奴との交渉はそのことも含めておこう」