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5.魔法使いの実戦

 急いで一階に降りて、店の外に出た。初めての異世界の外出がこんな形で叶うとは思わなかった。

 しかし悠長にしてられない。


「サーチだと魔力を持ってないと特定の人物は探し当てられない……なら」


 店の敷地外はアスファルトではなく砂の地面だ。昨日雨でも降っていたのか足跡がしっかり付くぐらいにまだ湿っていた。

 マリアの足跡を含めると三、四人がここに来ていたことがわかった。


「──〈足跡魔法(ピスト)〉」


 追いたい足跡を魔力を使い形を覚えさせる。そして、サーチも併用して同じ足跡を探させる。


「よし。これなら追える」


 店の前は人々が頻繁に行き交う大通り。朝の時間帯、鳥が何羽も飛び、大勢の人が居て、馬車も何台も走っている。なのに客足が少ないのは単純に商売下手なのか需要がないのか……。


「あ、いやそんなことより。探さないとな」


 こんなに人が居る前でどうやって拐ったかはわからないが、犯人の足跡は難なくと探し出せた。残念ながらマリアの物は無かったが、担ぎ上げられて連れていかれたのだろう。

 ウィリアムは、一心不乱に犯人の足跡を追う為走り始めた。店を出て左に行き、大通りを進む。途中、大通りから逸れて路地裏へと行った。家と家の細い道だったが、いかにも悪人が通りそうな薄暗い道。

 サーチは足跡を探す他、周りの警戒にも使用している。何があっても不意打ちでやられることがないように。それと、視界が悪くて見えづらくてもこれのお陰で明かりが付いてるのと同様に見える……いや、感じ取れる。


「魔法様々だな──と。ここで途切れてる」


 不自然な足跡の途切れ方。歩幅を変えた訳でもなく、飛び飛びに足跡を散らした訳でもない……そう思考している直後、背後からこちらに長細い棒で振りかぶる者が現れた。


「ふんっ──がはっ!?」


 ウィリアムの体に当たった、と思われた瞬間、振りかざした棒は己に跳ね返ってきて、突然その者の額から血が吹き出す。


「あ、ごめん。これカウンター機能も付いててさ、相手から受けるダメージをそのまま反射するんだよな」


 そう言って振り返り、相手の顔を見る。全身真っ黒の服装で、顔も黒い布で覆われていた。

 この者一人な訳がない。ウィリアムはすぐに防御魔法を掛け直す。次は一回のみではなく何度も守ってくれるものを。


「〈プロテクション(防御魔法)〉」


 体全体に薄い魔力の膜が出来る。よく見れば何かがあるとわかるが、この薄暗い場所では見えるはずがない。

 そしてこの男が過去に一人しか現れなかった魔法使いであるだなんて知る由もなし。

 ガサッ、と物音を立て何処からともなく現れた二人の黒ずくめはさっきの者と同じ長細い棒でウィリアムに襲いかかり───ガキンッ。

 防御魔法の膜に長細い棒が当たる。それは鉄と鉄をぶつけた様なそんな金属音がした。サーチでは細かくは見れないためわからなかったが、この音を聞いてわかった。こんな異世界に来たのだ。この者達が持っているのは──剣。


 "剣か。防御魔法があるから怪我することはないけど、武器向けられるのって怖いし早めに終わらせよう"

「なに……!?」

「どんな体してやがるこいつ!」

「部屋で寝たきりだった奴がどうして!!」


 何やら気になることを言ったが、ひとまずこの二人をどうにかすることにする。


「──眠れ」

「……っ!?」


 言霊魔法。魔力を半分消費して、発動者の言葉を聞いた者に一つ命令を下すことが出来る。

 二人はウィリアムの魔法によりその場に崩れ倒れて眠る。


「ちっ!使えぬ者共が……!」


 肉眼で姿は見えないが、路地裏の奥から男が声を発した。すぐにサーチで姿形を捉えるも更に奥へと逃げていった。ウィリアムも急ぎ路地裏の奥へと走り、犯人を追う。

 道中、犯人の男は道端にあるゴミや木箱を乱雑に退かしてウィリアムの邪魔をする。だが、ウィリアムはそれらを軽々と躱していく。


「何も見えなかったら危ないし何よりこの体……かなり動けるな」


 まだ体には防御魔法しか掛けてないのにこれだけ走ってもまだ息を切らしていない。本物のウィリアムはそこまで体を動かすことが得意ではなかったし、体力もそこそこしかない。魔法使いなのを除けば普通の一般男性なのだ。


「俺がやってきたせいか……?わからないけど、一応身体強化魔法も掛けとくか」


 疲れは吹き飛び、体が軽くなったように感じられる。

 そして、走るスピードを上げて犯人にもう少しで追い付く───というところで突如、犯人の姿が消えた。


「にゃろう……こんな抜け道を」


 犯人が消えた地点までやって来て、足元を見つめる。そこには四角い穴があった。

 恐怖心はあった。けど、ここで立ち止まってもいられない。ウィリアムは覚悟を持ってその穴に入る。


「なっ!わあぁぁぁぁ!!!?」


 穴の先は真っ暗な滑り台の様になっており、水無しのウォータースライダーを滑ってる気分だ。こんな風になってるなんて思わず大声が出てしまった。

 幸いなのは、滑る用に作られているのか中は滑らかで、摩擦で痛い思いはそれほどしなかったこと……。

 少しの間滑っていると、暗闇の先に小さな光が見えた。


「っ!いってぇ……」


 勢い余って飛び出したウィリアムはお尻を強打して、明かりのある部屋へ着いた。

 そこは小さな部屋だった。中央にテーブルが一つ、滑り落ちてきた反対側に扉が一つ。それ以外は何もない変な部屋。


「き、貴様……!こんなところまで来るとは!!」


 キンキンとうるさい声で話しかけてくる犯人の男。この者も黒ずくめの服装。肥え太った体で、麻袋を担いでいた。その麻袋は何かが入っているのかモゴモゴと動いている。


「母さんを返せ。その袋の中に居るんだろう」

「はっ、黙れ!死に損ないがここまで来て何が出来る!出来損ない共を相手して体力ももうないだろう?」

「……」


 もう隠す意味がないとなったのだろう。男は顔を覆っていた布を取り、その不細工な顔を晒す。髪は薄く、天辺がバーコードのようになっていて、大きな鼻が特徴的。


「やっぱハゲてんじゃん」

「ゲーハだ!!」

「ハーゲだろ」

「この……平民がっ!!」


 ゲーハは怒髪天になり、懐に隠し持っていた短剣を取り出して無防備になっているウィリアムへと突き刺す。

 しかし、短剣はウィリアムには届かず、防御魔法の壁により阻まれる。


「ぐぬぬぬっ!どうなっているのだ!?」

「現実逃避ばっかりするからハゲるんだよ。──母さんは返してもらうぞ」


 ウィリアムは視線をマリアが入った麻袋に向けて、体内の魔力を集め練り上げる。すると、突然麻袋が消えた。


「ふぅ……」

「な、なななな………何をした貴様!?」

「転移魔法。母さんは今家に居るよ。しっかし、言霊よりかは消費する魔力は少ないけど、それ以外の魔法と比べたらまだまだ消費が激しいな。改良の余地あり、だ」

「魔法!?何をほざいている!」


 現在のウィリアムの魔力残量、残り二割を切る。だが問題は無し。

 何故なら────


「俺の魔力って、底が尽きそうになると魔力の自動回復が急速に始まるんだ。一秒で一割てところか。しかも一度限りではなく魔力が無くなりそうになれば何度も急速の自動回復が起こる。これもレイシス・エヴァンジェリンから引き継いだ力の一つね」

「れ、れ、れ、レイシス……エヴァンジェリン!?まさかまさかまさか!いやだがさっきの現象を見たら……」


 ゲーハの顔から汗が頻りにあふれる。脳内がパンクしかけているのか焦点が合ってない。動転しているとも言える。


「さぁ、十秒過ぎたぞ。そろそろ───眠れ」


 ゲーハは深い眠りに陥り、顔の正面から倒れた。そのせいか、立派な鼻が潰れ血が流れ出てきた。


「……奥の部屋。気になるけど、今は帰るか」


 やることを終えたウィリアムは転移魔法は使い、すぐに家へと帰る。場所は二階のリビング。先に送ったマリアもそこへ飛ばしている。レイラが既に麻袋から出しているだろう。

 マリアを助けられて一安心した。けれど、不思議に思ったことが一つ。それは───。


「俺、なんでこんなに動けてるんだ?」


 肉体的に、ではなく精神的に。平和な暮らしをしている元日本人が武器を持った人間と対峙し、平然として且つ冷静に対処出来ていた。これは、天野優樹の精神ではなくウィリアムの精神の強さが大きく作用したのか。

 憑依して出てくる影響が未だわからないことが多いが、何にせよ今日の出来事に関してはとても助かった。

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