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第三話

 俺たちがいるダンジョン最下層から一段上がった場所が99階層


 攻略する側の人たちが来た場合にどうやって階層間を移動するのかを聞いたところ、なんと階層ボスを倒した直後に自動的に魔法で転送されるらしい。


 では俺たちが階層間を移動するときもその転送システムを用いるのか


「いえ、各階層のボス部屋に転移魔法陣が刻まれているのです。それによって簡易的な階層間の移動を可能にしています」


「ほえー……それは便利だなぁ。けどさ、いちいちその転移魔法陣?、で移動して会うのってちょっと大変じゃないか?それを使わないと他の仲間と顔を合わせることもないなんて、やっぱり少し窮屈に感じるな」


 簡単に転移することができるんだろうけど、どうしても壁というか、階層間の隔たりがあるわけで。転移しなければその階層のボスさんたちは独りぼっちなわけだろ……?それじゃあ寂しいってもんだ。


「マスターの考えることは分かります。ですが、私たちにはそういった感情はありません。個々が階層ボスとして役割を全うするのみ。そこに私情はいらないかと」


「それだよ。そんな機械みたいに役割を果たしても楽しくないだろ?だったら楽しくなるように工夫するべきだと思うんだよね」


 ダンジョンという一括りの空間の中で仲間同士が笑いあえるようにしていけたら理想だ。


 さて、そろそろ99階層へ上がる。


「立ち入るだけで危険に冒される修羅の場とかではないよな……?」


 小さきこの身をアリスに抱きかかえられながら転移されていく。


 一見すると100階層とそう変わらぬ外装の壁


 一つ違うのは、フロア全体がボス部屋となっている100階層とは異なり、フロアの一角にボス部屋があるということ。100階層以外の全ての階層がこの作りなのだろう。


「むしろマスターの考える逆です。深層ほどいたって平凡な環境であることがほとんどなのです。フロアごと環境を変えてしまうのは未熟者である証、己の力のみで圧倒してこそ強者なのです」


 おぉ……階層ボスのみんなに対して厳しいアリスさん


 すると突然、周囲の空気が凍てつくように変わった。急激に温度が変化したせいか、大気中にもやが発生しだした。


「お初にお目にかかる…………新たなる王よ」


 低く威圧するような声がボス部屋全体に響き渡った。


 そしてどこからともなく、もやの中から姿を見せたのは、とてつもなく巨大な竜……だった。


 首を曲げて見上げなければいけないほど大きく、その姿は全身が真っ黒くゴツゴツとした鱗で覆われていた。


「貴様、マスターを上から見下ろすとは不敬だぞ」


 おっと、アリスの汚い口調を始めて聞いた。


 清楚に見える美人メイドから発せられる暴言は概ねご褒美のようなもの……じゃなくて、ギャップがあってこれも悪くない、じゃなくて……


 アリスに言われ、それを聞き受けたのかみるみるとその巨体が縮んでいく。


 およそ三階建てのアパートくらいの高さまで縮んだが、それでもデカいことに変わりはない。さっきは、言うなれば16階建てのビルに相当する大きさだった。


 50メートルはあったんじゃないだろうか。


「マスター」


 耳元で薄く囁くアリスに押され、一応は新たに就任したダンジョンのトップとして挨拶的なことをしよう。


「えーっと、黒の……ドラゴンさん、初めまして。このダンジョンのラスボスをやることになりました、ハヅキです。どうぞよろしく」


 立場的には俺の方が上になるが、ダンジョンにいる歴としては段違いにこのドラゴンさんが上だ。そこを勘違いするバカではないのだ。


「マスター、古代竜種(エンシェントドラゴン)です」


 アリスに耳元で囁かれると背筋がゾワッとして伸びる。


「でもその名前ちょっと長すぎないか?呼びずらいし、クロでいいんじゃないか?」


 ていうか、そもそも黒の古代竜種(エンシェントドラゴン)は名前ではないだろう。毎回種族なのか称号なのか分からない単語で呼ぶのもどうかと考える。


「黒のドラゴンさん、もしかして別にしっかりとした名前あったりするー?」


「い、いや……特にはないが」


「じゃあクロでいいよね。あだ名ってことで、これからはこう呼ばせてもらうよ」


 仲良くなるにはあだ名からって言うしな


「フッ……我に名前か、面白い……」


 あれ、少し強引だったかな……?あだ名から入るのはモラハラだっただろうか……


「ご、ごめん!そちらが嫌だったら無理にとは──」


「気に入った。いや、感謝いたす我が主よ。我にそのような名誉ある贈り物、誠に恐悦至極に賜る」


 巨体の首を曲げて深く頭を下げた。


 どうやら気に入ってくれたようでよかった。


「羨ましい……私もあだ名が欲しい……」


 なにやら頭上からそのような声が聞こえてきた。俺を抱きかかえながらぶつぶつとボヤいているアリス


「何言ってんだよ、お前にはアリスっていう名前があるだろ?たった三文字からどうやってあだ名を作れって言うんだよ」


 そもそもクロは名前らしい名前がなかったから黒の古代竜種エンシェントドラゴンからとってクロというあだ名をつけたんだ。アリスからとってあだ名を作ろうものなら二文字、果てには一文字になってしまう。


「アリスっていう名前で俺は十分可愛いと思うぞ?実に”アリス”っぽくてピッタリの名前だ」


 名前とその人の外観が合うのは中々ないものだ。相手から『〇〇〇(自分の名前)っぽくない』と言われるのはやっぱり少しショックだ。


 俺はまさにそれを言われ続けた過去がある……葉月なんて名前はどうしても女の子に間違われてしまう。


「我が主よ、少々お耳に入れてもらいたい情報があるのだが……」


 アリスの腕元から離れ、さらに目線が小さくなった俺に合わせるようにして、クロは身体を低くして伏せの姿勢でさらに顎を地面につけた。


 まさに犬の伏せの体勢をドラゴンがしてみせたのだ。


「なんだ?」


 すぐそこにクロの顔があることで見上げる必要はなくなった。


「我が主がダンジョンにきてからまだ日が浅いように思う。知らなくて当然なのだが、ここは他のダンジョンとは異なり迷宮化した深層ダンジョンであるがゆえに、人間からは少々厄介な目で見られている」


「迷宮化……?ほかのダンジョンは100階層までないってことか?」


「うむ。これまで一度たりともこのダンジョンが人間による侵攻を許したことはないのだが……」


「一階層を突破される恐れがある……と言いたいのか」


 クロは頷いた。


 以前アリスは、このダンジョンが一階層を攻略されたことはないと言っていた。


「──勇者の出現」


 アリスが唐突に、そう言った。


「わっ」


 再びアリスに捕まり、両腕と背後から伝わる柔らかい感触に包まれて抱かれた。


「やはりお主も気付いていたか、アリスよ」


「当然。しかし、勇者がダンジョンを攻略しに来る可能性は極めて低いはずだ。恐れることではないのではないか?」


「そう考えるのが妥当、されど王国からしたら領土に佇む異質な存在は早々に排除したいと思うのが必然であろう」


「国王が勇者に命じるというのか……ダンジョン攻略を」


「そういうことだ」


 ちょちょちょっと、お二人さん……俺を置いて話を進めないでくれよ


 勇者が現れた……?国王……?ダンジョンが攻略されるだ?


 何が何だかさっぱりなんだが……

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