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第二話

 要は精霊の力を借りて得たものが魔法であるとアリスは言う。


「自然界を守る精霊の力から得た魔法には火、水、風といった多様な種類が存在していますが、所詮は自然現象を自ら顕現させているだけに過ぎないのです。これがスキルに適わない魔法の性質です」


 それからは、あまりこの世界の人間についての話はなく、人以外の多くの種族がいるという話になった。


 てっきりアリスは人間なのだとばかり思っていたのだが、実はそうではないということに驚いた。


「人間の姿かたちをしているのでそう思われても仕方ありませんが、これはやり方を覚えればこの姿になることは簡単です。私の種族はフェンリルです」


 フェンリルというと、神獣とかいうのを聞いたことがある。


「ちなみに、このダンジョンに人族はいません。むしろダンジョンを攻略してくる側が人間であり、私たちは根城を襲われる側なのです」


 そうか、そうだよな。ダンジョンと言えば冒険者とかそういう部類の人たちが攻略を目指して入ってくるものだよな。


 ……あれ?ということは、もしかしたら俺も人間に殺される対象になっているってことか!?


 そう思ったのだが、どうやらこのダンジョンはそう簡単なものではないようだ。


「100階層まであるこのダンジョンですが、一階層のボスを倒し二階層にたどり着いた侵略者は過去一人もおりません」


「キュッキュキュキュゥ……?(このダンジョンが難しく作られているってことか?)」


「それもありますが、ここは階層一つのフロア面積が異常に広いため、階層ボスまでたどり着くことすらできないのです」


 そんなことでは心が折れて攻略する気が失せてしまうだろうな。


「先ほどマスターが魔法について興味を示していたので言っておこうと思うのですが、このダンジョンには精霊本体も階層ボスとして居ますよ」


「キュッ!?キュキュッキュゥー!!(マジで!?え、会いたいんだけど!!)」


 精霊っていったいどんな見た目しているんだろうか……


 妖精だと、なんかこう小さいのかなとか想像できるんだけど、精霊というとその外見の想像もあまりできない。


 でもきっと天使みたく可愛いんだろうな。あ、でも精霊って会話できるのかな?


「キュッ、キュキュッキュキュキュゥ……?(そういえば、アリスっていつからそうやって喋ることができたんだ?)」


 元々はこの姿ではなくフェンリル本来の四足歩行の姿のはず。


 それならば、いったいいつからこうして人語を介するようになったのか。


「生まれた直後からできましたよ」


 生まれた直後!?すごいな……


「キュッ……?(んん……?)」


「あっ…………」


 確信犯だなこの美人メイドめ。


 完全にやらかしてしまった者の「あっ」なんだよそれは。




「あー……あ、あー……!出た、声出たー!!」


「キュ」だけの言語からいつも通り言葉を発することができたことで、語彙力皆無の喜び方になった。


 言いたいことを難なく言えることのありがたみを今一度知ることができた気がした。


 アリスに教えてもらった方法は、なんでも、魔素をコントロールして声帯を変化させるのだとか。


 言っている意味がさっぱり分からなかったが、代わりにアリスがコントロールしてくれたため、こうして人語を介することが叶った。


「あぁ……あまりにも短すぎる期間でした………。もう少し、あの初々しくなんとも愛おしいマスターを傍で見ていたかった……」


 どうやらアリスはあの「キュ」しか言えない俺が好みだったのか、人語が喋れるようになって少し落ち込んでいた。それでこんな裏技があることを隠していたのか。


 まあ、アリスがぼろを出してくれたおかげでこうして喋れるようになったんだが。


「またいつかやってやるから、そう落ち込むなよ。な?」


「ほ、本当ですか!?ありがとうございますありがとうございます!!じゃあ次回そのときにはぜひ私には母親役をさせてください!」


 おいおい……ごっこ遊びをするとは言ってないぞ。


 ぶっちゃけた話、この幼体ドラゴンの姿ではさっきまでの喋り方のほうがしっくりくると言えばそうなってしまう。


 これはただの俺の考えだが、この体の姿で人語を話すのは少し違う……気がする。


「───……!マスター、よろしいでしょうか」


「んぁ、なんだアリス?」


 少し怪訝な表情をしているアリス。何かあったのだろうか。


「いえ、その……彼──黒の古代竜種(エンシェントドラゴン)がマスターに会いたいと申しているのです」


「黒の古代竜種……?どこのどいつなんだ、そいつは」


 ネーミングがすごい強そうだが、一応……俺もドラゴンなんだよな。


「黒はこの階層の一つ手前──99階層にてダンジョンを守護する者です」


 99階層ともなると、ダンジョンのラスボスを目前に控えた最後の難関だ。


「そ、そうか……。でも同じダンジョンにいる以上、挨拶くらいはした方がいい……よな?」


「それはマスターにお任せいたしますが……彼がマスターに対してどういった顔を見せるか、正直私には分からないのです」


「え……それってどういう意味?」


 怪訝な表情をしていたのはこれが原因なのだろうか。


「その……彼は非常に気まぐれな性格でして、マスターの下につかないと決めてしまえば何をしでかすか……。も、もちろんマスターに従わないなどこの私が許しはしません!!しかし、流石に古代竜種(エンシェントドラゴン)相手では私も軽々……とはいきませんので」


 軽々いけなくとも、負けないとは言わないのねこの娘は……


 俺は目の前にいるこの美人メイドの強さが計り知れない。


「とりあえず会ってみてもいいんじゃないか。そのときにどうするかを決めればいいわけで、その人がどういう判断をするか今考えても仕方がないでしょ?」


 俺のことが気に食わないってなっても、さすがにいきなり殺しにかかるなんてことにはならないだろう。


「……そうですね、マスターのおっしゃる通りです。私が不甲斐ないばかりに申し訳ございませんでした。”もしも”の時が来ようとも、この身をもって全力でマスターをお守りいたします」


「おう、頼んだぞアリス」

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