夕暮れのガーダー橋
ある夏の日、僕らは車を走らせて故郷の町に向かっていた。助手席と後部座席にいるのは幼なじみの悠太と篤志だ。高速を使えば暗くなる前にあの場所に到着できるはずだ。
「俺たちの思い出の場所に行ってみないか?」
突然言いだしたのは悠太だった。
子供の頃、北海道の日高地方にある厚賀という町に住んでいた。日高地方の海沿いには、苫小牧から様似まで鉄道が伸びている。全長一四〇キロメートルに及ぶ、JR北海道の日高本線だ。とは言っても単線で一日に数回、一両か二両の気動車がゆっくり往復するだけのローカル線であった。
老朽化で長らく休止状態だったけれど、赤字路線だったこともあり、ついに正式に廃線が決まってしまった。それで、この機会に三人で故郷を訪れてみることにしたのだった。
家の近くにあった厚賀駅と大狩部駅の間には大きな川が流れていて、そこでよく三人で泳いだり、釣りをしたりして遊んだものだ。河口には、鉄道のガーダー橋が架かっていたのだけれど、遊びつかれると僕らはよく線路の上にのぼって橋を渡り、その橋のまん中で海に沈む夕日を眺めて語り合った。列車がやってきたら逃げ場所もないから、一斉に川に飛び降りるしかない。近くには踏切もなかったから波の音がうるさい時は列車の音に気づかずに、大きな汽笛の音を鳴らされることもあった。
橋が見渡せる丘に到着すると、僕らはゆっくりと車を降りた。夕暮れ時の空のグラデーションが川面に反射して、ガーダー橋のシルエットが浮かび上がる。この思い出の橋に、もう列車が走ることはない。
聞こえるはずのないディーゼルエンジンの低い振動音を身体で感じながら、僕らはいつまでもその場所に佇んでいた。
(了)