5~発送4~
幸せな日を終え、僕はまた新しい一日の初めに立っていた。
ベッドから起き上がり、銀色を見つける。
たった二日しか経っていないのに、僕の中で何かが変わっている。
一週間で効果が見られる、なんていうキャッチコピーもまんざら嘘ではないのかもしれない。
根本的名部分での相違点は大いにあるが。
いつもの通り、制服を着る。
僕の高校は、伝統的名詰襟などではなくブレザーである。
真っ白いシャツも、今では僕の肌とは同化しなくなっていた。
・・・色が違った。
今まではシャツに腕を通しても、着ているのか着ていないのか分からないくらい僕の肌は白かった。
そして、細かった。
今は違う。全てが違う。
そういえば、体も重いような、それでも軽いような気がする。
急いで鏡を見る。僕の部屋にはないため、洗面台まで駆けて行った。
足も軽かった。
思わず息を呑む。
これは、どうしたことだろうか。
人間はこんなにも簡単に、そして短時間の内に変われるものなのか。
肌は日に焼けて色素が濃く、腕も足も腹筋も逞しいものになっていた。
明らかに今までの僕ではなかった。
足元で銀色が笑う。その亀裂を規則的に歪ませて、僕に微笑みかける。
妹が今にも透き通りそうな肌をまとって僕の前に現れた。
以前の僕のように、白い肌をしている。
「お兄ちゃん、おはよう・・・いつの間にそんなに強靭になったの?」
「・・・寝ている間?」
僕にはよく分からなかった。
きっと、通販の効果に違いない。
通販でやって来たのはただの銀色の奇妙な生き物である。
それが二日で僕をここまで変えたのだろうか。
ありえない、そう思いながらもそれしか答えが見当たらなかった。
学校に着けば、心なしか活気が無かった。
朝練をしているはずの野球部は誰一人として校庭に出ておらず、細くなった体を引きずるようにして校舎に吸い込まれていく。
いつもと勝手が違う体で来たせいか、僕の方が騒がしいくらいだった。
「もやしっこ」と呼ばれていた二日前の僕には考えられないほど、高揚していた。
運動部でこんがりと焼け上がった肌をしていたはずのクラスメイトも、ホネと呼ぶのに相応しい体をしている。
いつも一緒にいる友達だけは変わらず、以前からのその軟弱な体を保っていた。
「これは、どうなってるんだ?」
僕が言う。
友達は首をかしげて、お前が一番おかしいと言った。
確かに、彼の言うとおりである。
その友達と僕の間に、銀色が座った。
何かを待っているようで、そして何も期待していないような雰囲気が窺える。
僕は意を決して銀色を掴みあげた。
ソレは、壊れた。
僕は、銀色の腕と足の間を、つまり胴体の部分を掴み、持ち上げた。
前にいた友人は不可思議な顔をしていたが、確かに僕は銀色に触れた。
体温のない、つるつるとした感触だった。
しかし、その接触が最後だった。
持ち上げた瞬間、銀色は亀裂を大きく開け、そこから僕にだけ聞こえる悲鳴をあげて崩れてしまったのだ。
胴体の部分が粉々に砕け、床に散らばる。
もちろん、その破片さえも誰にも見えていないのだろう。
僕は力なく床に座り込んだ。
銀色の残骸を目の当たりにして、ソレが行ってきた行動をようやく知る。
銀色の砕けた腹部には、赤い繊維が詰まっている。
――それが、誰かの筋肉だ。
大きく裂けた口の中には、薄黒い色素が詰まっている。
――それが、誰かの焼けた健康的な肌の色なのだ。
そして、僕にそれを植えつけていたに違いない。
僕は銀色の頭部を手に取った。
銀色から与えられた強靭な筋力で壊してしまわないように、優しく、抱えた。