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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ポン子

作者: ネモフィラみき

このお話を書こうと思ったのは、本当につい最近のことでした。ポン子という犬と邦男君の話を聞いたときに、ぜひともこの話を・・・。

あえて、物語風に書かず、邦男君視点で話は進んでいきます。

読んでいただいて、何かを感じていただければ幸いです。

これは、今から50年ほど前『ポン子』と呼ばれた犬と俺のお話・・・。




 俺の名前は邦男くにお。俺には、忘れられない犬がいる。


それが『ポン子』だった。


ポン子は、柴犬で、俺が小学校5年生の時に住んでいた借家の近所に住んでいた犬だった。


 なぜかポン子は、いつも俺の家に来ていた。多分、俺を友達だと思ってくれていたんだろう。


いつも一緒に遊んで、いつも一緒に昼寝して、いつも一緒にご飯を食べた。


俺はポン子が大好きで、ポン子もきっと俺が好きだと思う。


 ポン子は近所の人気者だった。本当は犬を飼いたかったが、借家では犬を飼ってはいけなかったし、俺んちが貧乏だったこともあって引越しもできず、そういう理由も相まって俺はポン子を可愛がっていた。


 ポン子はいろんな人の家に遊びに行っていた。当時は結構そういうことも多くて、ポン子は野良犬みたいな飼い犬だったようだ。なぜそういう状況になっていたのか、子供の俺にはわからないけれど、何か理由があったんだと思う。


 そんなある日のことだった。


白い野良犬が近所に来るようになった。その犬はみんなから安直にだけれど『シロ』と呼ばれるようになり、人懐こい性格だったこともあって、たちまちみんなの人気者になっていった。


 ポン子が遊びに来ても、みんなシロを構っていたから、誰もポン子を構わなくなった。


俺だって、シロを触ってみたい気持ちもあったけれど・・・ポン子が可哀想だったから、ポン子だけとあそんだ。




 ある時、ポン子がなかなか遊びに来ない日があって、そんな時にシロが遊びに来ていた。


俺はチャンスだと思った。ポン子がいない時なら・・・と、俺はシロを撫でた。野良犬だけど、とっても柔らかい毛並みだった。


 俺は夢中になってシロを撫でていたが、なにやら視線を感じて手を止めた。そして、後ろを振り返るとそこにはポン子がいた。


 ポン子は、驚いた顔をしていた。俺が自分以外の犬を撫でていたのが原因だろうけれど。


その時だった、ポン子はいきなりシロに噛み付いた。


「キャイーン!」


と、シロは痛そうな声を上げた。俺も気が動転していたのだろう。


「ポン子!ダメだよ!!そんなことをしちゃダメなんだよ!!」


俺は、初めてポン子を叱った。今まで一度も叱ったことがなかったのに、ポン子がした事が許せなかった。ポン子は優しい犬だったけれど、俺がシロを撫でて、それにやきもちを妬いたからって噛み付くのはいけないことだと思ったから。


ポン子も、初めて俺がしかったことに驚いたのか、しばらく微動だにしなかった。


ハッと、気がついたポン子は、俺の方をジッと見つめてから


「クーン・・・」


と、悲しげに一声鳴いてその場から走り去っていってしまった。


ポン子が悪いんだ・・・ポン子がいけないことをするから・・・。


でも、俺が思っていたよりもポン子は傷ついていたんだろうか、次の日もまた次の日も、ポン子は遊びに来なかった。


ポン子の気持ちも考えずに叱ってしまったから・・・でも、子供の時分に相手の気持ちを察するなんてこと、出来なかったのだ。




 それからしばらくして、友達が数人で遊びに来た。


「今日は、何して遊ぶ?」


すると、1人がこんなことを言い出した。T君という子で、よくみんなを仕切っていた。


「今日は、みんなの隊長を決めようぜ。」


隊長といっても、いうなればガキ大将のことだ。


候補がT君と俺だった。俺はみんなをまとめたりとかはしていなかったけれど、なぜかみんな俺を指名した。


「でも、何で隊長を決めるんだ?」


平等に選ばれる方法をあれこれ考えていた・・・その時だった。


ポン子が、フラッと現れたのだ。


すかさず、T君はこう言った。


「そうだ!ポン子のことを呼んで、ポン子が選んだ方を隊長にするのはどうだ!」


みんなもそれは面白そうだと、T君の提案に賛成した。


俺は、ひとり勝ったと思った。


ポン子と一番遊んでいたのは俺だったし、ポン子は絶対に俺のほうに来ると確信していたからだ。


T君と俺は、少し離れた所に移動して、せーの!の合図とともにポン子を呼んだ。


「ポン子!おいで!俺だよ、わかるだろ?ポン子!!」




 ポン子は、しばらく俺とT君を交互に見たあと何かを思い出したような表情を見せた。


俺は、俺のことを思い出したような気がしたんだ。確かに何かを思い出したんだろうけれど、それは決して良いことではなかったと分かったのはポン子がスッと歩き出した。




ポン子が向かったのはT君の所だった。


俺は愕然とした。ポン子が俺の方に来ないなんて思ってもみなかったから。


ポン子は俺の方をちらりと見たが、すぐに撫でてくれているT君に向き直っていた。


そして、T君は得意げな顔をしながら俺に


「お前は所詮その程度だ。」


と、嫌味たっぷりに言い放った。


あの時ほどの屈辱が今までにあっただろうか・・・。


結局、当初の話し合いの通りにT君が隊長となった。


 それから、またポン子は俺の前に姿を現さなくなった。




それから、あっという間に1年が過ぎ、俺は6年生になった。




ポン子は相変わらず遊びには来なかった。


 そんな時、野良犬のシロが来た。10匹の新顔を連れて。


体の大きな犬、シロみたいに真っ白な犬、そして俺の印象に残っているのが・・・片目がつぶれている犬。聞いた話によると、野良犬だからと近所の悪ガキが棒でいじめまわし、たまたまなのかわざとなのか片目をつついてつぶしたという。


野良犬にもいろんなやつがいるから、人間に危害を加える犬もいるからと一緒くたにして犬たちに酷いことをするようだ。シロだって、他の野良犬だって、好きで野良犬になったわけではないのに・・・。


そんな目にあったのに、なぜか俺だけには懐いていた。俺は、そんなこいつが好きになっていった。




 それから、しばらくたった頃、事件が起きた。




片目の犬が、公園で遊んでいた子供に噛み付いてしまったのだ。


子供すべてを許せなかったのっか、理由はわからないけれど事件の発端になってしまったのだ。




野良犬狩り・・・。誰かが保健所に通報して、10匹の野良犬たちを狩りにきた。


 シロたちは必死に逃げたが、結局逃げ切ることができなくて捕まってしまった。

保健所のトラックに乗せられ、金網越しにシロは俺のほうを見て必死に鳴いた。

「クーン、クーン!!」

子供だった俺にいったい何ができるというのだろうか、ただ鳴いて助けを求めているシロを見ていることしかできなかった。

俺は、ふとポン子のことが気になった。飼い犬だけれど、この騒動で間違って捕まってしまったんじゃないかと気が気じゃなかった。

「ポン子!ポン子!!」

俺はポン子の名前を呼んだ。もし、ポン子が捕まってしまっていたら・・・。

その時、俺の肩を誰かがポンポンと叩いた。

振り返ると、そこには母ちゃんがいた。

「黙って、こっち来い。」

俺は、母ちゃんの言う通り黙ってついていった。しばらく歩くと、うちの裏の物置に着いた。

母ちゃんは物置の引き戸を静かに開けた。

そこには、ポン子がいた。隅の方で怯えながら丸まっていた。

「ポン子!良かった!」

しかし、俺の声を聴いてもポン子は怯えたままだった。

ポン子は、まだ俺のことを許してくれていないと、なんとなくそう思った。

ポン子はビクビクしながら外に出ると、そのまま走り去ってしまった。

ポン子が無事でよかった。でもその時、シロたち捕まった野良犬たちはどうなったのかと心配になった。引き取り手が現れない以上、結果は決まっている。俺は、その後シロたちに会うことは二度となかった。


冬が来て、春が来て・・・俺は中学に上がったが、ポン子は姿を現さなかった。

そして、俺はポン子のことを忘れていった。もう会えないならと忘れることにしたのだ。


それからあっという間に3年生になり、受験も控えていたある冬の日、雪もすっかり積もって帰るのに苦労していた。


雪道に一匹の犬が現れた。ポン子だった。

「ポン子!?俺だよ、わかる?」

ポン子は、静かに俺の方に近づくと俺の匂いをしきりに嗅いでいた。そして、しっぽを振ったのだ。

ポン子が許してくれた。俺は、なぜかそう感じた。

しかし、それを証明してくれるかのように、ポン子は俺に撫でられてしっぽを振っている。

俺は、ポン子と遊ぶことがなかった4年間を少しずつ埋めていくように、ポン子とずっと遊んだ。

雪玉を投げればポン子はそれを追いかける。一緒に走って競争もした。

さっきまで憂鬱だった雪景色がキラキラと輝いていた。

また明日も会えたら遊ぼう。そうポン子に約束し、俺は親に怒られることも気にしないでポン子が見えなくなるまでずっとポン子をチラチラと振り返りながら帰路についた。

 家に帰って、興奮しながら父ちゃんと母ちゃんにポン子と会ったことを話した。

「そうかあ、よかったなあ。よかったなあ。」

二人は怒るどころか、ポン子と遊んだことを喜んでくれた。


 

 それから、ほんの数日経って母ちゃんが俺にこう言った。

「そういえばなあ、ポン子・・・死んじまったんだと。」


俺は、母ちゃんの言っていることが一瞬理解できなかった。


ついこの間俺と一緒に遊んだポン子が…死んだ。


俺は、ハッとした。もしかしたら、ポン子は自分が死ぬのを知っていたのかもしれない。

動物の本能なのか、きっと自分が長くないことを知っていたのだ。

そして、最後に俺のことを許してくれたんだと・・・。


俺んちの飼い犬ではなかった。俺がほかの犬を撫でただけでヤキモチを妬いた。俺をずっと許してはくれていなかったのに、最後の最後に俺を許してくれた。


「ポン子・・・。ごめんね。ポン子・・・ありがとう。」


このお話に出てくる邦男君は、私の父です。ポン子の名前を聞いたのは、今から20年以上も前に一枚の写真を見つけたのが始まりです。

その写真に写っていたのが、ポン子でした。父は、ポン子っていう犬だということ・・・。それ以上は、はぐらかすばかりで、詳しくポン子の話をしてくれたことはありませんでした。

そんな父も、今年で還暦を迎えることとなり、ポン子のことを書いてほしいと、私に言ってきたのです。

父からポン子のことを聞き、父視点でのお話にしようと思いました。


親愛なるポン子と敬愛する父へ

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