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5.石の上にも

 およそ60年が経った。


 年齢はおそらく75歳くらいになったようじゃった。

 棒を60年間振り続ける日々。


 近頃の若者は忍耐力が足りないと言っている近頃の老人に言いたい。

 お前は60年、棒を振り続ける日々が過ごせるかと。


 驚くことに、60年経ったが、身体はこちらに転生してきた状態とあまり変わらなかった。

 もちろん、多少の筋肉はついたし、贅肉も落ちた。

 しかし、老いるという感覚はない。

 実際、見た目も15歳くらいのままだった。

 最初の頃は、色々考えて棒を振っていたが、流石に60年も経つと考えることはなく、無心で振り続けていた。


 初めの頃は、棒を振ると、ブン、ブンみたいな音を立てる感じだったが、徐々にシュッ、シュッと鋭い音になっていった。

 今では、振った時に音が鳴らない。


 他の二人を見ても、棒を振ってはいるものの音はならない。

 信じられないことに足で土を蹴る音もしなくなった。

 また、二人は棒を振ってはいるものの、振ってることを認識するのが難しくなってきた。

 これは恐らく、二人が棒を振るという意識が限りなく希薄なんだと思う。

 何か行動するときは何かしら意識をする必要があり、それは外から見てる人も何となく感じる。

 しかし、今の二人は(恐らく俺自身もだが)、限りなく無意識に近い状態で棒を振れているのだと思う。


 やり続けることで可能となる。


 かつて、おっさんは言っていたが、確かに60年程やり続ければ、その境地に達するのだと実感した。


 そして、ついにおっさんは言った。


「やめい!」


 60年程経った、ある日の昼過ぎのことだった。


「次の段階に移行する。」


 おっさんがそう言った途端にマルオは言った。


「モウムリデスゥ」


 マルオやめろ、殺されるぞ、と俺は思った。

 60年程棒を振り続ける日々を過ごしたにもかかわらず、無理という感情を持ってることに俺は驚いた。

 しかし、意外にもおっさんの反応は違った。


「マルオはやめるのか?」


 長い沈黙が訪れた。

 俺もサトシもマルオを見続ける。


 60年続けたことを止める。

 これは投げ出したとは思わない。

 続けたところで最強になれるとは思っていない。

 ただ、今更他の道を考えるというのはよくわからなかった。


 途方もない時間、棒を振り続けた。

 やっと次のステップにいけると考えるのか、まだ次があると考えるのか。

 次の中身はまだ聞いていない。

 棒を振るより辛いかもしれないし、それよりは楽なのかもしれない。

 棒を振るだけで最強になれるわけがないとは思ってはいた。


 マルオは、最初は泣きそうな顔をしていたが、次につらそうな顔をしていた。

 そして、決意を固めたようだった。


「卒業します!」


 なるほど、ものは言いようだなと思った。

 卒業。

 綺麗な言葉だと思う。


「マルオはやめるのか?」


 しかし、おっさんはドライだった。

 やめるという言葉を使わせたいようだった。

 正直、どちらも変わらないと思ったが、逃げることを認めて逃げろ、と言ってるかのように聞こえた。

 しかし、60年続けたことを途中でやめたことは逃げることになるのだろうか。


「やめます!」


「そうか。では、次の段階に移行する」


 もう、おっさんの目にはマルオは映ってないようだった。

 正直、長い付き合いなので、もう少し温かい言葉をかけてもいいんじゃないかと思った。


 マルオの方を見るとホッとしたような表情をしていた。

 マルオは木の棒を持ち、去っていった。

 振り返ることはなかった。


 三人が二人になった。

 おっさんを含めて、四人分だった食事は三人分となり、三人で少し狭さを感じた寝室は、二人だと少し広く感じた。

 トイレの待ち時間は短くなった。

 三人のときはあまり気にならなかったが、二人になると寝る前の空気が重くなったように感じた。


 外には何があるのだろうか。

 ずっと疑問に思っていたことだが、仲間が行くとなると、より気になった。





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