3.身につけるとは
「身につけるとは何だ?マルオ、答えよ」
30日目にして初めて、名前を知った。
というか、こいつはいつ名前を知ったのだろう。
指定されたのは、名前の通り、坊主頭で、目が糸目の男の子だった。
「え~っと、あれ」
およそ30日間ほぼ喋ってなかったわけだから、うまく喋れないらしい。
即答できなければ、ぶっ飛ばされるかと思ったが、待ってくれるらしい。
どうやら、そういった些細なことに優しさを感じるようになってしまった。
「できるようになること……?」
と不安気にまるおは答えた。
「身につけるとは何だ? サトシ、答えよ」
違うのか、あっさり流された。
マルオは泣きそうな顔をしていた。
次に指定されたのは、ジェットモヒカンのような髪型で、やんちゃな感じの少年だった。
「完璧にすることです!」
「身につけるとは何だ? 答えよ」
マルオ同様に流され、サトシは悔しそうな顔をしていた。
このおっさん、ドライだな。
しかし、俺は名前すら呼ばれなかった。
期待すらされてなさそうだった……
「無意識でもできるようにすること……? でしょうか」
「その通りだ! 呼吸に非常に近い状態だ。 何か他の作業をしてるときでも、呼吸はしているだろう? 棒を振るという動作でその状態を目指すのだ」
「そんなことは可能なのですか」
サトシは言った。
「やり続けることで可能となる」
一体、どれだけやり続けるのか。
途方もないように思うぞ。
「いっいっ、一体どれくらい続けるのですか?」
マルオは絶望した表情で言った。
「できるようになるまでだ」
脳筋だった。
つまり、できなければ永遠に棒を振り続けるのか。
そもそも、身につける状態をどうやって判断するのだろうか。
「あの」
俺が疑問に思っていることを聞こうとすると、
「では、再開せよ」
「「「はいっ!」」」
俺だけ名前も呼ばれず、質問すらさせてもらえなかった。
およそ30日にして、ようやく違うことを始めると思ったら、さらに途方もない日々、棒を振り続けることが決まってしまった。。。
起きて、食事をし、棒を振り、食事をして、寝る。
もし、宿題に日記があるなら、これほど楽に書ける日々はないだろう。
ただ、棒を振り、棒を振り、棒を振り。
一振り毎に人生を棒に振ってるかの如く、棒を振り続ける日々。
この棒にあたる犬すらいないのである。
しかし、忠実な3匹の子犬はここにいる。
誰も弱音を吐かない。
一度言ってしまうと心が壊れそうに感じるからだ。
マラソンの途中で歩くようなものだ。
一度歩いてしまうと、次に走るのがよりつらく、走り続けることもつらくなってしまう。
走り続けないといけない。
思えば、1つのことをこれほど徹底してやり続けることはなかった。
何も才能のない凡人だと思っていたが、単にやり続けるだけの忍耐力がなかったのではないか。
ただ、棒を振っているだけなのに、不思議と自省をしていた。
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