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26.ある冒険者たちの、始まり

 口の中には湿った土が入っており、土の味がした。

 歯で口の中を切ったようで血の味もする。


 今、僕はうつ伏せに倒れていた。


 初めてのクエストは、土と血の味がした。

 初めてのクエストで自由がないことを知った。




 僕は、いや、僕たちは元々貧しい農村に生まれた。

 兄弟が多く、末っ子だった。


 そして、それは将来の苦難を意味していた。

 

 運よく職に就けなければ、冒険者になるか野垂れ死にするしかない。


 小さい頃からそう言われ続けていた。


 そのため、元Dランク冒険者である父に、農作業の仕事の傍ら、冒険者として最低限のノウハウを教えられていた。


 特に、薬草採取、ゴブリンとスライムへの対処は徹底して教えられた。

 新人冒険者が生きるため、死なないために必要なことだった。

 

 旅立ちの日、父は言った。


「何をしてでも生きろ。 生きていれば必ず良いことがある」


 そう言った、父の目は昏かった。


 今なら分かる。

 あれは生きるために人を犠牲にし続けてきた人間の目であると。


 なぜなら、僕達も同じ目をしているから。




 冒険者になり、初めてのクエストは当然、薬草採取にすることにした。

 十分に訓練を続けてきたこと、同じ農村出身で、親友と一緒だったことから不安はなかった。


 むしろ、これからは自由だと、成り上がってやるんだと、夢を見ていた。


 薬草採取は無事に終わった。

 いや、出来過ぎだと言っても過言ではないくらい順調に採取ができた。


 皮袋には全て入らず、捨てるのも勿体ないため、両手に抱えて帰っているときのことだった。


 男の冒険者が、林の中から声をかけてきた。


「今から研修をやるからこっちに来い!」


 まだ10代半ばの自分たちからしたら、熊のようにでかい男だった。

 黒髪は長く、雑に後ろに結んでいるがフケで汚かった。


 相手は屈強な冒険者、それに対し、こっちはひょろひょろの新人冒険者2人、逆らう理由はなかった。


 言われた通り、男のいる林に入っていった。

 男は満足そうに頷いていた。


「沢山あるな。 でも、困るんだよなぁ。 困るんだよ」


「あ、あの、何がですか?」


「おい、話しをするときは許可を取れ! 次はないぞ!」


 男は剣を抜くと、それで俺の頬を叩いた。


「はい、すみません……」


「新人冒険者がよくやる間違いなんだが、これは全部薬草じゃないな。 雑草だよ」


「え、でも、僕たちは薬草は小さい頃から採取してたので間違いないです!」


 僕は頬に衝撃を感じ、吹っ飛ばされ、うつ伏せに倒れた。


「許可を取ってから話せ! 全部雑草だ。 俺が処分してやる」


「冒険者同士の私闘はダメなんですよね?」


 僕の親友が震えながら言った。


「お前らが寝てるとき、糞をしてるとき……、そして、今、守ってくれる奴はいるのか?」


 僕と親友はようやく理解したのだった。

 親友が僕の方を見た。


「あの、雑草です。 処分をお願いいたします」

 

 そう言って、親友は手に持っていた薬草を全て渡した。


「その袋の中もだ」


「全部渡したら僕たちの宿代と食事代がなくなります! 勘弁して下さい!」


 親友は土下座をして、懇願した。


「新人冒険者が宿に泊まれて、飯が食えると思うなよ」


 親友の頭を何度も踏みながら男は言った。


「「お願いします! 勘弁してください!」」


 僕と親友は必死に頭を下げて、何度も懇願した。

 男は剣を抜くと、その剣で僕と親友の頬を撫で、ゆっくりと体に沿って、下に下ろしていった。


 皮袋が繋いでいる紐を切り、僕たちの皮袋を手に取って、中身を見た。

 満足そうな顔をし、奪った薬草を袋に押し込み、去っていった。


 僕と親友はしばらく放心していた。


 気がつけば、もう一度薬草採取に向かい、僅かばかり見つけた薬草を手に、冒険者ギルドへと戻った。


 結局、量が少なすぎて、宿代にも、食事代にも足りず、その日は空腹と、疲れと、屈辱と、怒りと色んなものが混じりあった感情と共に夜を過ごすこととなった。


 そして、翌日から搾取される日々が始まった。




 転機が訪れたのは僕たちが5匹のゴブリン達を見つけた日だった。


 流石に危ないと思い、離れて薬草を採取した。


「いつもより少ないな」


「発言してもよろしいでしょうか?」


「許す」


「5匹ほどのゴブリンがいたため、いつもの場所で採取ができませんでした」


 それを聞くと、男はニヤニヤしだした。


 場所を聞くと、男はそこへ向かって歩き出した。


 僕たちも黙って、後ろを歩いていく。


 どうやら、男にとって美味しい獲物の様だった。


 僕たちが見つけた場所から、少し離れたところにゴブリン達はいた。


 男はそれを見つけると、一気に駆け抜け、斬りかかった。

 4匹のゴブリンが一瞬で倒された。


 残り1匹はこれから地獄を見ることになることが僕たちにわかった。


 男は残り1匹のゴブリンの足首を斬り落とした。

 ピカピカの黒曜石のような黒い目から涙が流れる。


 僕たちにとってこの男は魔物と変わらないが、ゴブリンにとっても魔物の様だった。


 ゴブリンの指を1本ずつ切り落としていった。

 男はニヤニヤしながら切り落とした指をゴブリンの口に入れる。


 そして、頭を蹴り飛ばし、うつぶせに倒れたゴブリンの頭を潰さないように足で何度も踏んだ。

 

 男は満足したのか、ゴブリンの横っ腹を蹴り、仰向けにした。


 ゆっくりと剣をゴブリンの頭に突き入れていった。

 じっくりと死ぬまでに苦しみの一滴もこぼさせないように慎重に。


 僕は気づいた。

 こいつは魔物だと。

 きっと、いずれ僕たちはゴブリンと同じ目に遭うだろうと。


 そして、今油断していることに気づいた。


 苦しむゴブリンの顔に男は夢中になっていた。


 音を立てないように、気配を殺すようにし、ゆっくりと男の背中に近づいた。


 男がゆっくりと剣を刺すように、僕もゆっくりと近づいた。


 ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと。


 10mも離れていないのに、まるで果てしない距離のように感じた。

 

 ゴブリンが痙攣をし、ピカピカの黒曜石がくすんだ色になっていく。

 

 最後に大きく痙攣した瞬間、僕は男の背中を持っていたショートソードで突き刺した。


 男は即死したようだった。


 運よく心臓を突き刺せたようだった。


 ゴブリンも最後に目から涙を流し、絶命した。


 僕と僕の親友は何度も男が死んでるかを確認し、持ち物を奪った。

 元々は僕たちが稼いだお金だったから罪悪感はなかった。


 死体は見つからないよう、林の奥に穴を掘り、埋めた。


 男に弄ばれたゴブリンも男とは違う穴を掘り、埋めてやった。


 他のゴブリン達の討伐部位である耳を切り落とした。


 男の装備を森に隠し、冒険者ギルドへと戻った。

 

 僕たちは冒険者となって、初めて宿に泊まることができた。

 十分な食事を食べることもできた。


 明日からの自由を胸にぐっすりとその日は寝ることができた。

いつも読んで頂きありがとうございます。


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