25.ある冒険者の、渇き
親友が亡くなった時のことを思い出すと、涙が流れた。
喉が渇いた。
そう思い、水差しからコップに水を入れ、飲んだ。
まだ、喉が渇いてるな。
もう1杯飲む。
まだ、渇きを感じた。
もう1杯飲もうか悩み、やめた。
親友が亡くなった日の夜、一人でDランク昇格の打ち上げをすることにした。
悲しみ続けることを望んでいないとわかってはいても、悲しみは尽きることなく溢れ出ていた。
そんな中、二人組の男が話しかけてきた。
「分かるぜ」
そう言って、茶色い、キノコの様な髪型で、細身、身長は160㎝くらいだろうか、冒険者にしては低めの男が話しかけてきた。
手には2つのエールが入ったジョッキを持ち、片方を俺に差し出してきた。
どうやら、この二人もメンバーを一人亡くしたしたばかりのようだった。
二人ともEランクの冒険者のようだ。
ついこの間までは俺もそのランクだった。
互いに親友を亡くした悲しみを共有した。
親友との思い出を語り合い、過去の喜びを分かち合った。
驚くほど話が合った。
もっと早く出会えればとも思った。
きっと神様が哀れな男たちにささやかなプレゼントをくれたのだろう。
俺たちはパーティーを組むことにし、明日から一緒に活動することになった。
喉の渇きから、現実に引き戻された。
俺はもう一度水差しからコップに水を入れ、飲んだ。
渇きはまだ消えないなと苦笑する。
幸福な出会いがあっても、不幸な別れが必ずしも完全に癒されるわけではないんだと思った。
渇いているのはきっと身体じゃなくて、心なんだと。
過去への時間をほどほどに、冒険者ギルドへと俺は向かった。
冒険者ギルドの建物に入ると、どうやら先に着いて、待っていたようだった。
ちゃんと時間を守る人たちで安心した。
信用できると思った。
笑顔で二人は俺を迎えてくれ、俺も笑顔を返した。
さあ、これからの無限の可能性に向かって、頑張ろう、そう思った。
クエストの受諾をし、俺たち3人は冒険者ギルドの建物の出口に向かった。
出口は光に満ちていた。
まるでこれからの俺たちの未来を祝福してくれているかのようだった。
暖かい気持ちになり、未来への期待感を持ち、俺は建物の外に出た。
朝、目が覚めるとそこはいつもの天井が見え、いつものベッドの上で寝ていた。
そして、いつものように布団はどこかに飛んで、上にはなかった。
寝相の悪さもいつも通りだった。
朝日で眩しさを感じる。
喉が渇いたなと俺は思った。
俺はいつものように冒険者ギルドの建物に入った。
「よう」
フランクが声をかけてきた。
「よう。 今日も手伝えばいいのか?」
「そうしてくれるとありがたい」
「分かった。 行こうか」
そういって、俺たちは冒険者ギルドの建物を出た。
フランクは森の方に向かって歩き出した。
森に入り、10分ちょっと歩いたところだろうか。
「アンデッドの目撃情報がある」
「アンデッド?」
「元は人だと言われてるな。 昔、お偉い神官様に教えてもらったんだが、人が死ぬと肉体から魂が離れ、その魂はひと時の安らぎの後、浄化され、新しい魂の一部となり、新たな生命に宿るらしい」
「随分と具体的に死んだ後のことが分かってるんだな」
俺は転生前に神様に会ったときのことを思い出していた。
「まあ、実際にそうなるかはわからないがな。 死後、肉体に魂が束縛される場合にアンデッドになるらしい」
「だから、火葬とかするわけだな」
「そういうことだ」
「アンデッドは強いのか?」
「元の肉体による」
「そこそこのランクの冒険者がアンデッドになったわけだな?」
「俺はそう考えている。 最近、Dランク冒険者が行方不明だ」
「そうか……」
「俺はな、こいつの事をよく知っている。 元々、3人組の冒険者パーティーだったんだが、活動を始めてすぐに一人亡くなってな。 それでも二人で長年頑張って、少し前にDランク冒険者になったんだ。 しかし、すぐに一人はホブゴブリンに殺されている。 どうやら新人冒険者を庇って、犠牲になったらしい」
俺は黙って聞いていた。
「そのことは、こいつと助けてもらった新人冒険者パーティーから話されたから間違いないだろう。 その後、そいつは別の二人組とパーティーを組んだと聞いている」
「その二人は怪しいのか?」
「怪しい。 だが証拠がない。 その二人組と組んだ冒険者は全員死んだり、行方不明になってるんだ」
「それがおかしいのか?」
「メンバーが欠けて、新しいメンバーが入ること自体珍しくない。 新しいメンバーは連携がまだ取れないため、死にやすいというのも事実だ。 ただ、こいつらと組んだ冒険者は20人近くになる」
「でも、冒険者は危険な職業なんだろ?」
「だからこそだ。 そんな死神みたいなやつらとなぜ組みたがる? 普通は避けるぜ」
「確かにそうだな」
「ここからは噂なんだがな、どうやらメンバーを亡くしたばかりの冒険者を対象にしているらしい」
「卑劣だな」
「とはいえ、証拠がねぇ」
「もし、アンデッドが被害者ならできるだけ、傷つけずにってことだな?」
「そういうこった」
「それで、どこにいるかはわかっているのか?」
「以前、スライムを倒しただろ? あの辺らしい。 そして、あそこの近くで、被害者の親友は亡くなっている」
「そうか……」
個人的にはあの場所はあまり好ましい場所ではなかった。
フランクと話しながら、歩いていると、例の場所に着いた。
「いるな」
以前スライムと戦った場所から、さらに森の奥に入った暗い場所にそいつはいた。
銀髪の髪は薄汚れていた。
鎧は着てなかった。
肌は真っ白で、もう生きてはいないことがわかった。
首の後ろには刺されたであろう穴が開いている。
傍には新人冒険者らしい遺体があり、それを貪っている。
渇いた、渇いたと言っている。
どうやら俺たちに気づいていないようだ。
「頼んだ」
「わかった」
俺は肺にあった空気を全て絞り出すように、息を吐いた。
そして、ゆっくりと空気を吸い込んだ後に、細長く息を吐き続ける。
次第に色と音が消えていき、目の前の哀れなアンデッドと俺だけの空間が出来上がる。
アンデッドの肉体の中には白い光があった。
また、黒い塊のようなものもあり、それが白い光を縛っているように見えた。
俺は、丁寧に白い光を傷つけないように、これ以上彼が苦しまないように、黒い塊だけを斬った。
渇いた…
そう最後に言って、アンデッドは倒れた。
肉体から白い光がゆっくりと飛び出した。
すると、近くに別の白い光がやってきて、一緒に空へと飛んで行った。
俺は空をずっと眺めていた。
今日も空は青かった。
今日も哀色だった。
いや、橙色に感じた。
親友か……
フランクの方に目を戻すと、彼はアンデッドであった者を調べていた。
「やはり、殺されてるな。 魔物にじゃない、人間にだ!」
フランクは激しく怒っていた。
目には明確な殺意が宿っていた。
この哀れな冒険者は自分が騙されていたことに気づくことはなかったのだろう。
親友を亡くした悲しみを利用され、新たなパーティーを組んだ。
きっと、悲しみを乗り越えようとし、これからの未来に期待感を持っていたはずだ。
亡き親友に恥ずかしくないように生きていこうと誓っていたかもしれない。
そう考えると、フランクの怒りは当然だと俺は思った。
その後、新人冒険者の遺体は火葬した。
アンデッドであった者の遺体に布を被せ、それを抱えて、フランクは冒険者ギルドへと歩き出した。
彼の魂に安らぎが与えられることを祈り、俺も歩き出した。
朝、目が覚めるとそこはいつもの天井が見え、いつものベッドの上で寝ていた。
そして、いつものように布団はどこかに飛んで、上にはなかった。
寝相の悪さもいつも通りだった。
朝日で眩しさを感じる。
ドアをノックされた。
扉を開けると、亡くなったはずの親友が立っていた。
そうか、俺も死んだのか。
俺は気まずそうに頬を掻いた。
いつものように親友が手を上げると、俺はその手をいつものように叩いた。
親友が外へと歩き出した。
そこは眩しくて、外はどうなっているか全くわからなかった。
いつもの光景があるはずなのに、そのいつもがもう来ないことがわかっていた。
でも、不安はなかった。
もう、一人じゃないから。
喉の渇きが消えてることに気づき、俺は親友の後を追い、光の中へと歩いて行った。
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