24.ある冒険者の、いつものように
朝、目が覚めるといつもの天井が見え、いつものベッドの上で寝ていた。
そして、いつものように布団はどこかに飛んで、上にはなかった。
寝相の悪さもいつも通りだった。
朝日で眩しさを感じる。
クリスと、友人がもう俺の名前を呼んでくれない現実もいつものようにやってきたようだ。
俺は起き上がり、水が入った器が置いてある机に向かった。
水を掬い、顔を洗う。
ぼーっとしてきた意識が少しずつ覚醒していく。
意識が戻ると、これまでのことを思い出して、これからのことに備える。
これは冒険者になり、あるときからずっと習慣としてやってきたことだ。
最初は、理不尽に向き合いたくなかった。
辛い事実から目を背け、何も考えず、次の理不尽に遭う。
その繰り返しに心が折れたものは冒険者を辞めていくし、身体が折れたものは生きることを辞めていった。
そんな状況を目の当たりにしてきて、一つの真理に気づいた。
どんなに嫌なことであっても、きちんと向き合えば、いずれ乗り越えれると。
だから、今日も向き合わなければならない。
先週、冒険者になってからずっとパーティーを組んでいた親友が死んだ。
俺や親友がやっとDランク冒険者になれ、油断していたのかもしれない。
ランクが上がれば、今までできなかったことができるようになると錯覚していたのはいつからだろうか。
ランクが上がり、軽めにクエストを消化して、打ち上げをしようという話だった。
いつものようにクエストを消化した帰り道だった。
3人の新人冒険者がゴブリンの群れに襲われていた。
男の子が二人、女の子が一人だった。
昔の俺たちの構成と同じだった。
親友の方を見ると、親友も俺を見ていた。
ゴブリンの群れ程度、Dランク冒険者の敵じゃない。
そう思っていた。
実際、Dランク冒険者一人ならゴブリンが10匹いようが敵ではない。
気をつけるべきは毒のついた武器だが、当然毒対策もしている。
急所は当然防具で覆われている。
もちろん、彼らの力では傷をつけることが難しい防具でだ。
そうして、俺たちは新人冒険者のパーティーを助けに向かった。
あっという間にゴブリンの群れは駆逐できた。
そこで、すぐに去るべきだったのだ。
しかし、新人冒険者たちを気遣い、怪我を丁寧に治療し、対策を教示していると、巨大なゴブリンがやってきた。
そう、ホブゴブリンだ。
ホブゴブリンはゴブリンの亜種であるが、その強さはゴブリンの比ではない。
そもそも、身体が巨大で小さくても2mは越える。
大体3mが多いらしい。
腕や足は成人男性の銅と同じくらいがそれより太く、牙は大きく鋭い、手には巨大な木の棒を持っている。
Dランク冒険者が3人組めば、なんとか1体は倒せるレベルではある。
もちろん、かなりの危険を伴うが……
しかし、今いるのは2人だ。
しかも、足手まといもいる。
この状況なら、足手まといを犠牲に逃げるのが基本だ。
そもそも、彼らが弱いことが悪いからだ。
本来失っていたであろう命が、ほんの僅か失われないでいただけだ。
いくら新人とはいえ、ゴブリンの群れに遭遇する(自分たちの力で解決できない)状況作ること自体あってはならないことなのだから。
しかし、俺は逃げたくなかった。
折角、ランクが上がったのに無力な自分のままでいたくなかった。
親友の顔を見ると、俺と同じ目をしていたと思った。
二人なら倒せる、そんな根拠のない自信があった。
実際、かなり健闘していた。
丁寧にホブゴブリンの攻撃を避け、確実に足を傷つけていく。
一人に攻撃が向かえば、もう一人が足を攻撃する。
地味だが決して無理はしない。
まともにくらえば、一撃で死ぬのだから。
ついに、ホブゴブリンが片膝をついた。
しかし、このときすぐに攻撃するのでは俺たちは生きてはいない。
追い込まれたときこそ、チャンスを演出し、逆に絶望に追い込むこと、それは魔物たちがよくやる行動だからだ。
俺とカイルはじっと様子を見ていた。
そこに今まで何もやってなかった新人冒険者の一人が剣を持って、ホブゴブリンに突っ込もうとする。
そして、彼はホブゴブリンの間合いに何の覚悟もなく入ってしまった。
ホブゴブリンがじっと彼を見ると、すぐに立ち上がった。
ようやく彼は気づいたようだ、演技であることに。
なぜ、俺たちがすぐに攻撃をしなかったのかに。
そして、彼は立ちすくみ、姑息な魔物に命を捧げようとしていた。
そんな彼をカイルは助けに走った。
彼の身体を押し飛ばすと同時に、ホブゴブリンの一撃がカイルの頭に突き刺さる。
俺は気づけばホブゴブリンに向かって走っていた。
彼が命を犠牲に作ったチャンスなのだから。
ホブゴブリンの首に俺の剣が深く刺さり、さらに俺は剣をひねった。
ホブゴブリンの身体から力が抜け、横に倒れた。
どうやら絶命したようだった。
俺は棒を親友からどけた。
顔面が完全に潰れていた。
即死だったようだ。
そこには命の気配はなかった。
ホブゴブリンの討伐部位である耳を斬り落とし、袋に入れた。
親友の亡骸を綺麗に整え、顔に布を被せた。
そして、アンデッドにならないよう、火葬した。
燃える親友に対し、俺は祈りを捧げた。
新人冒険者達も同様に祈りを捧げ始めた。
燃え切るまでの長い時間誰も言葉を発しなかった。
親友が召される儀式が終わり、俺は親友の剣と布袋、Dランク冒険者から付与されるタグを持って、冒険者ギルドへ報告しに戻った。
今日はいつものようにとは行かなかったようだ。
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