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23.哀は愛より出でて愛よりも愛だった

 20代前半の若い二人の女性が向かい合っている。

 傍には5歳くらいの少女と少年がいた。


 顔を真っ赤にした少女は母親らしき人の後ろに隠れている。

 人見知りというわけでなく、目の前の少年に一目惚れしたからだった。


 少年も少女に一目惚れしていた。

 今まで見た何よりも可愛いと思った。


 少年は短い人生の中で精一杯の勇気を振り絞り、笑顔で手を差し出して少女に言った。





 10年後


「ねぇ、まだ奥に行くの? 危ないし、帰ろうよ」


 金髪で、青い目、髪の長さはミディアムで、15歳くらいの少女が言った。


「大丈夫だって! もうすぐ、採取場所に着くよ。 冒険者になった俺たちの初仕事だぜ。 お金を稼がないといけないだろ」


 茶色い短髪の髪は立っており、目は二重で、意志の強そうな眉をした、15歳くらいの少年が返事をした。


「そうだけど……」


 少女は二人で村を出た日に、少年からもらったナイフを右手に持ち、大事そうに胸に抱えている。


「ほら、もう見えてきた! 採取してすぐに帰ろうぜ!」


 そう言って、少女の方を少年は振り返った。


「危ない!」


 少年は少女を手で押し飛ばした。

 少女の上に粘性のある液体のようなものが落ちようとしていたからだ。


「んーー! んー!」


 代わりに少年の頭にその液体は降り注いだ。

 少年の目は焼け、あっという間に視力がなくなった。

 どうやら、その液体には酸のような性質があるようだった。


 暗闇の中、少年はますます混乱した。


 コポッコポッ。


 少年は声を上げるが、まるで水の中にいるように音が出なかった。

 息もできず、少年は苦しみもがいた。


 少女はすぐに立ち上がった。


「誰か助けて! お願いします! 誰か助けて下さい!」


 しかし、森の奥に人はいるはずもなかった。

 少女は少年の頭についている液体を取ろうと左手で触ったが、火傷をしたような痛みが走った。


 目の前で苦しむ少年をただ見ているだけしかできなかった。


 目が見えないはずの少年は奇跡的に少女の方に手を差し出した。

 少女はすぐにナイフを少年に渡した。


 これできっとなんとかなる、そのとき少女はそう思った。


 少年はナイフを手に取ると、液体に突き刺そうとするが、滑って刺さらなかった。


 焼けるような痛み、息ができず、地獄のような苦しみが続く。


 このままではダメだと思い、少年は自分の頭に向かって、ナイフを突き立てようと思いっきり力を入れた。


 少女は何をしたらいい変わらず、少しでも近くにいたいと思い、少年に近づいた。

 

 タイミングが悪かった。


 ナイフを持った少年の右手に熱いような、冷たいような液体が広がっていくのを感じた。

 その液体の感覚は、少年に少女の事を思い出させた。


 少年はどうして少女の事を今思い出すのだろうと不思議に思った。

 今はそんなときではないのに、と。

 

 少女の胸から、彼女の命が流れていた。


 少女の瞳孔はゆっくりと開いていく。


 目の輝きが薄れていく。


 少女は深い水の底に意識が沈んでいく中、少年が最初に言ってくれた言葉を思い出そうとしていた。


 思い出そうとして、何度も思い出そうとして、少女を一番暖かい気持ちにしてくれた言葉を思い出そうとして、そして、意識が消えていった。


 少年は少女に自分のナイフが突き刺さったことに気づいた。


 コポッ、コポッ。


 少年の慟哭は音にならなかった。


 もう、少年に動く気力も体力もなかった。


 少しでも少女の傍にいるように、少年は少女だったものの上に倒れた。


 目は見えなくても、少女を確かに感じ取っていた。

 

 焼けるような痛みをいつの間にか感じなくなり、少年の意識もまた薄れていった。

 




 朝、俺は起きると、顔洗った。

 昨日、斬らずに斬れたことを思い出していた。


 成長を実感することで、やる気がみなぎってきた。

 今日も、クエストを消化しようと決意し、冒険者ギルドに向かった。


 ボードに貼られている依頼を見て、何にするか悩んでいた。


「よお」


 フランクが話しかけてきた。


「よお」


 同じように返事を返した。


「今、時間あるか? ちょっと話がある」


 深刻そうな顔をして、フランクは俺に言った。

 俺が話を聞くと思ったのか、フランクは建物の端の方に向かって歩き出した。


 人に聞かれてはいけない話というわけではないようだ。


「俺の仕事を手伝わないか?」


「どんな?」


「主に調査だな」


「手伝おう」


「詳しくは、歩きながら話すぜ」




 町を出て、森の中を二人は歩いている。


「俺の仕事は、さっきも言ったが調査だ。主に冒険者の死因のな。 受注すると、クエストに期限があるだろ? その期限までに報告に来なかった冒険者、要は行方不明の冒険者の調査をするんだ」


「行方不明といっても、大抵死んでるのか?」


「そうだ。 だから、死因の調査もすることになる。 可能であれば、その排除といっても、主に魔物の討伐もある」


「大変な仕事だな。割に合わないだろ?」


「まあ、Bランク冒険者くらいになるとそもそも金に困らないからな。 なんつーか、新人冒険者ってよく死ぬだろ? なんとかしてやりたくてな」


「あんたもすごいんだな」


「そういってもらえると嬉しいぜ!」


 人懐っこそうな笑顔でフランクは言った。


「ところで、なんで俺なんだ?」


「お前が強いからだ。 それに今はしたいことはないんだろ?」


「心配してくれたんだな」


「勿体ないってことさ」


 少しの間、沈黙が訪れた。

 二人とも黙って森を歩く。


「今回は、新人冒険者二人の調査だ。 俺が研修したからどんな奴らかよくわかってる。 15歳くらいの少年と少女で、幼馴染だ。 少年の方は親の跡を継げば安泰だったが、どうやら冒険者になりたかったようでな。 少女は少年と離れたくないから、一緒に冒険者になったらしい。 少年からもらったナイフを大切に胸に抱えてたぜ」


「可能性はないんだな?」


「恐らくな。 まあ、原因は予想はついてる。 最近、スライムの目撃情報があったんだ」


「スライム? 強いのか?」


「Dランク以上の冒険者なら相手にならんな。 中堅冒険者は見かけたらできるだけ討伐するよう推奨されてる。 昔と異なり、スライムに関しては特別褒賞もつくから、中堅冒険者にとって結構美味しいんだ。 とはいえ、数は少ない。ただ、新人殺しだ」


「そういうタイプか」


「新人冒険者は気配探知が甘いからな。一人のときに遭遇したら絶望的だな」


「今回は二人なんだろ?」


「そうだ。 だが、スライムの核を壊す程度の腕がなければ一人と変わらん」


「つまり」


「絶望的ってことだな」


 その後、フランクからスライムについて話を聞き、適宜質問しながら現場に歩き、現場に着いた。

 

 少女と思わしき服の胸辺りに穴が開いていた。


 近くにナイフが落ちている。


 少年と思われる服は少女の服と重なっていた。


 荷物はあるが、少年と少女の肉体はなかった。


「たまらんな」


 フランクは空を見上げて、言った。

 今日も空は青かった。



「悲しいな」


 なんとなく、二人がどういう状況で死んだかを想像できてしまい、俺は思わず言ってしまった。


 自分より大切な存在なのに、自分を優先してしまうから……

 失って、初めてもう取り戻すことができないことを実感のしたのだろうか。


 少しの間、沈黙が訪れた。



「さて、わかるか?」


「ああ、少し離れた木の上にいるな」


 俺がそう言うと、スライムは木から落ちてきた。


 悪趣味としか言いようのない見た目をしていた。

 粘性のある液体で、決して可愛らしい見た目ではなかった。

 液体の中には人間であったであろう肉片が漂っていた。


 血で染まったであろう、赤黒い色をしており…… 中に二つの頭蓋骨がくっついて、漂っている。


 ハートのように見えなくもない。


「悪趣味だぜ」


「そうだな。 あの中か?」


「恐らくな」


「俺ならあのままできる。 それに、スライムを観察したい」


「わかった」


 醜悪な液体に近づくと、液体の一部が触手のような形状に変化し、俺に襲い掛かって来た。


 確かに、強くはないなと思った。


 一応、上下左右と同時に攻撃する知能はあるようだった。


 しかし、攻撃間隔は単調だし、フェイントも特にない。

 通用しないことが分かっていないようだった。


 もう、十分だと思った。


 何より、死んでもなお二人を引き裂こうとするこの邪悪な塊を生かしておく気にはならなかった。


 一度、俺は距離を取った。


 深い呼吸をする。


 鼻から空気を吸い、口から細長く吐く。

 余分な情報が消えていく。

 

 音と色が少しずつ薄れていき、消える。


 今、目の前の醜悪な魔物と自分しか空間に存在しないような錯覚に陥る。


 そして、自分の身体の境界がなくなり、まるで液体になったかのような浮遊感がやってきた。

 この感覚はとても好きだった。


 暖かい水のベッドの中で寝ている感覚だ。


 ずっとそうしていたい誘惑を振り切り、ゆっくりと、丁寧に、初めて包丁を持った時のような慎重さで、右手に持っている木の棒を振った。


 距離は関係なかった。


 単なる入れ物同士の距離に意味はあるのだろうか。


 そんなことを考えていると、邪悪な液体が少しずつ広がり、地面に吸収されていく。

 液体の中に漂っていた、肉片と、骨の欠片、くっついた頭蓋骨が外気にさらされていく。


 ゆっくりと、ハートのような形に見えるものが転がっていく。


 もう、彼らの魂は転生したのだろうか。

 次こそ、幸せな日々を過ごせると良いなと思った。


「フランク!」


 放心していたフランクに俺は、この理不尽な世界から二人を早く保護する意図で名前を呼び掛けた。


 意図が分かったのか、彼は骨を皮袋に丁寧に入れていく。


「帰ろうか」


 フランクが袋に入れ終わり、袋に対し祈りを捧げ終わったタイミングで俺は言った。

 

「そうだな」

 

 少年少女の荷物も収納し、二人は冒険者ギルドへと歩き出した。


 今日も青色の空だった。

 哀色の青だった。





 薄れゆく意識の中、少年は思い出せた。

 少女が思い出したかった言葉を。


「おれのおよめさんになってください!」


 少年は少女の手を取り、春の匂いを感じる、青色の空の下を二人で走り出した。

 愛色の青だった。


 そんな幸せな過去を思い出し、乳白色の入浴剤がお湯にゆっくり溶けるように、優しく意識が消えていった。


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