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22.空は青かった

 日曜日に、午前中に友達の家に遊びに行き、お昼ご飯を食べるために家に帰る。

 昼からまた遊べるんだというワクワクを持って、帰る道は楽しかった。

 帰り道に空を見上げると青かった。



 朝起きたとき、今日から本格的に一人で活動することに寂しさを感じた。

 やる気が出ないなと思いつつも、金銭的に余裕がないので、冒険者ギルドに行くことにした。


 冒険者ギルドに着き、ボードからゴブリンの討伐クエストを選ぶ。

 以前と異なり、一人で申請しにいくことに寂しさを感じた。


 受付の女性に承諾をしてもらい、冒険者ギルドを出た。

 

 町を出て、以前通った道を歩き続ける。

 

 よく冒険者が通るためか、森とはいえ、道ができている。

 密に木が生えているわけではなく、森の中なのに随分と明るかった。


 早朝の森林浴としてなら最高の環境だなと思った。

 そんなリラックスできる環境だったためか、今まで起きたことを思い出しながら、かなりの距離を歩いていたようだ。

 

 少し薄暗く、木々だけでなく、草が沢山生えている道から外れた場所、その奥から声が聞こえた。

 いつもなら気配を感じる距離ではあったが、随分と考え事をしていたようだ。


 改めて、気配を探る。

 5匹程だろうか、人型で小さい気配を感じた。


 気配を消し、音を立てないように静かに近寄った。


 5匹の醜悪な見た目のゴブリンがいた。

 腰に小汚い布を巻き、手には小さめではあるが頑丈そうなこん棒のような形状の木の棒を持っている。

 

 顔は汚れがひどく、歯は尖っていて、不規則に生えている。

 黄色っぽい眼球に、細長い瞳孔はまるで蛇の様だった。


 決して、人と相いれることのない存在なのは見ればわかった。


 ふと、一人でよかったなと思った。

 今日は魔物の動きをゆっくりと観察できる。


 今までは人の動きを想定して修行をしてきた。

 しかし、生物として人が最も強いわけではない。


 肉体的素養で言えば、人はかなり弱い種なのは明らかだと思った。

 あのゴブリン達も、醜悪な見た目はともかく、体つきを見ると、貧層ではなく、筋肉が十分発達している。


 毛を剃られたチンパンジーの凄まじい筋肉に似ている。

 生まれついての肉体強者たちなのだ。

 

 

 俺は、わざと音を立てた。

 今日はよく観察したかったからだ。


 5匹は、俺に気づいた。


 そこからは早かった。

 3匹は顔を見合わせ、頷くと、襲い掛かって来た。

 2匹は様子見のようだ。


 以前のときも感じたが、彼らは知能が全くないわけではない。

 一人に対し、1匹で襲い掛かることはしてこない。

 必ず数的有利を作る。


 しかし、こちらの力量を測らずに襲い掛かってくるあたり、髙い知能があるわけではないと思った。


 ただ、正面に1匹、左右に2匹で、死角を上手くつく動きだ。

 やはり、ファンタジーの世界で言われるような弱い魔物という感じはしなかった。


 正面の1匹は飛びかかって来た。

 もし、1匹だけでなら悪手だが、左右から同時に攻めてくる場合、正面から飛びかかられるのは厄介だった。


 掴まれれば動きが大きく制約されるし、避けるにしても、大きく避けないといけない。

 

 通常であれば、対応に困る動きを彼らは元々知っていたのだろうか。

 それとも学習したのだろうか。


 飛んできたゴブリンを紙一重で避け、左右のゴブリン達を見た。

 すると、左右のゴブリン達は立ち止まり、距離を取った。


 飛んできたゴブリンは避けられると思っていなかったのか、勢い余って木にぶつかった。

 しかし、すぐに起き上がり、こちらを見る。


 前に1匹、左右に1匹ずつ、後ろに2匹いる形で、ゴブリン達には非常に有利な立ち位置となった。


 こうなると、次は同時に5匹が襲い掛かってくるのだろうか。


 離れていた2匹の内、1匹も走って向かって来るようだ。


 その到着を待たず、先ほど飛びかかってきたゴブリンが襲い掛かって来た。

 同じように避けようとすると、今度はそこに左右にいたゴブリンが飛びかかってきた。


 どうやら、学習したようだった。

 1匹でもいいから身体にまとわりつくことを考えているようだ。


 ギリギリで避けるには流石に掴まってしまうため、少し遠めに俺は跳んで、避けた。


 ゴブリンの歯ぎしりが聞こえる。

 どうやら、2度も避けられ、苛立っているようだ。


 正面から飛びかかってきたゴブリンは地団駄を踏み、粘性のあるよだれがまき散らした。


 そして、俺の顔を見ると、醜悪な顔がより一層醜悪になり、瞳孔はさらに細くなった。


 口から垂れているよだれを拭わず、そのゴブリンはまた飛びかかる態勢をとった。

 筋肉の収縮が凄まじく、まるでギチギチと音が鳴ってるようだ。


 きっと避けられたときのことを考えていないのだろう。

 溜めの力すごいのか、足の指が土に少しずつめり込んでいく。


 荒かったゴブリンの呼吸が静かになっていく。


 それと同時に、風が木々を通り抜ける音が聞こえた。

 

 とても気持ちの良い風だった。

 2月頃に感じる、寒い中でも春を感じる心地よい風に似ていた。


 ふと、空を見上げると木々の隙間から光が差し込んでおり、とても幻想的だった。


 もう1度、目の前のゴブリンの顔を見ると、先ほどの怒りは消えていた。

 荒かった呼吸も整い、細長く息を吐いている。


 瞳孔は相変わらず細いが、その目に怒りはなかった。

 対称的に、足の筋肉はより張り、足の指は完全に土にめり込んでいた。


 ヒュ~っとゴブリンは細長く息を吐いた。

 そして、スーッと息を吸い込み呼吸を止めると同時に風が静まった。


 静寂が訪れた。


 ドンッと地面が弾けた。


 先ほどの比ではない速度で、ゴブリンが文字通り飛んで来た。

 まるでロケットだ。


 避けられることを考えてない、生きることを考えていない。


 きっと、燃料はその命、魂なのだろう。


 目はまっすぐ俺を見据えている。


 俺の視線とゴブリンの視線が確かに交わった。


 この瞬間、醜悪な獣と俺は一体となったように錯覚した。


 この一体感は何だろう、懐かしさを感じた。

 夏祭りのときだろうか、遠足のときだろか、友達と遊んでいるときに感じる一体感だった。


 そして、すぐに寂しさがやってきた。

 一緒にいたことで、一人になった時の孤独感が一層強まる、あの瞬間だ。

 最初から一人でいれば感じなかったかもしれない。


 それでもまた味わいたいと思った。


 ブシューッと、小汚い噴水が赤い水を出す。

 

 頭は宙をくるくると回っていた。

 1回転ごとに、目の瞳孔が大きくなっている。


 どうやら、燃料が切れたようだ。

 

 先ほどの一体感を思い出していた。


 近くにいた3匹の頭も宙に舞う。

 

 ジャグリングをしているときの玉のようにくるくるくるくると、廻っていた。


 4匹の時計の針は止まった。


 

 風の音がまた聞こえた。


 そして、呼吸音だけでなく命の音が聞こえる。


 ドクッドクッドクッと命の鐘が獣から聞こえる。


 今、音も色もはっきり感じていた。


 そして、公園を散歩し、自販機でコーヒーを買って、ベンチで座って飲んだときのように落ち着いていた。

 目を瞑り、自然を感じていたあのときのように、リラックスをしていた。


 今、目の前にいる獣は俺と似ていた。


 互いに孤独。


 どうやら、腰に布を巻いている小汚い身体は震えてるようだ。


 呼吸は荒く、瞳孔は開き気味だ。

 

 目を逸らしたいのに、逸らせない、そんな矛盾を抱えた表情を獣はしていた。


 荒い呼吸が少しずつ落ち着き、諦めの表情になっていった。


 どうやら、獣も感情豊からしい。


 口は三日月の形になっていた。


 余命を宣告された人間の様だと思った。


 もう助からない、死にたくない、そう苦悩する。

 時間が経つと、もう確かに助からないのだと実感する。

 

 死がもうやって来るという考えから、もう死と一緒にいるしかないに変わるように。


 気がつくと、先ほどとは打って変わり、音と色が消え、目の前の獣しか目に入らなかった。


 予感はあった。


 修行してるときに思っていたのは、斬るとは何かだった。


 何を斬るかは選べても、何を斬るかは選べれなかった。


 何を斬らないかを選べても、何を斬らないかは選べれなかった。


 斬ると斬らないは一緒にあっても良いのではないか。


 そう思っていたが、結局、修行しているときには実現できなかった。

 

 今は集中していると思っているところからさらに集中できている。


 気持ちの良い風が強く吹いた。

 さっき、感じた、春を感じる風だ。


 獣はゆっくりと空を見上げた。


 この心地よい風を感じているのだろう。


 獣の瞳孔がゆっくりと開いていった。

 鐘はもう鳴っていなかった。


 風が吹いた。

 今度の風はとても優しかった。


 夏の暑い日に、木の陰で休んでるときに感じる風だ。


 火照った身体の熱を冷ますように、獣の熱を冷ましてくれるだろう。


 もう命の火は消えたのだから、身体を温めるものはないのだ。

 

 獣の身体はゆっくりと倒れた。


 5つ目の時計の針も遂に止まった。

 

 

 俺はゴブリンたちの耳を切り取り、冒険者ギルドへと歩き出した。。


 帰り道、ふと空を見上げると、まだ青かった。


 昼から遊びに行く友達は、今の俺にはいなかった。

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