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16.「10年以上だ!」と、ゆでたまごは言った。600wで10分だと丁度良い感じでした。

「はぁはぁ」


 ゆで卵のような綺麗な頭に大粒の汗が光っている。

 手には長い棒が握られている。


 俺は冒険者ツルだ。

 今年15になり、冒険者登録のために講習を受けている。

 3歳くらいだろうか、それからずっと冒険者になるために訓練をし続けてきた。


 10年以上の厳しい鍛錬だ。

 決して妥協はしてないし、鍛錬を始めてからは誰にも負けないだけの努力をしてきた。

 現役の冒険者と手合わせしても十分即戦力として前線で戦える力があると言われた。

 もし、パーティーに興味があるなら、一緒にやろうと誘われたこともある。


 新人の冒険者程度なら負けるはずがないと思っていた。

 しかし、実技講習(講習生同士で戦う)で戦っているこいつは何だ。

 確か、ツヨシという名前だったな。


 既に可愛い女の子の冒険者二人とパーティーを組んでるなんて、なんてクソなやつだと思っていた。

 女の子と話をしたことなんて、ここ10年ないぞ。

 というか最近は、かーちゃんとしか話してないぞ。


 3~4歳ぐらいのときだろうか、よく話していた女の子がいたな。

 ただ、その子は今では彼氏がいるのだ。

 こいつ、あの彼氏にちょっと似ているな。

 そう考えると、怒りが湧いてきた。


 しかし、怒りでは能力が発揮しきれないことを俺は既に知っている。

 戦いで大切なのは冷静さだ。

 相手をしっかり見ること、自分に何ができるのかを正確に把握しておくこと、これができなくなった奴から脱落していく。


 冷静になったからこそわかる。

 今まで戦った誰よりも、どんなモンスターよりもこいつは強い。


 俺がわずかに重心を変えても反応をしない。

 どう攻めるかの意志を変えても反応をしない。


 分かってないから反応しないわけじゃない。

 全てわかった上で反応をしてないのだ。

 こちらがどのように動こうが、反応する価値すらないのか。


 ツルのプライドに亀裂が入った。

 絶対的な自信が崩れようとしていた。

 努力で埋まらない差を確かに感じていた。


 恐らく、俺が一生かけて、全てを費やして、鍛錬し続けても到達しえない場所にこいつはいる。

 なぜ、これほどの強者が新人冒険者なのだろうか。




 10分前

 

「ツルだ」


「ツヨシだ」


 たまご頭の男の子はツルというらしい。

 もしかして、つるっぱげから来ているの?


 そんな思いが伝わったのか、ツルは顔を険しくして、構えた。

 普段は槍を使うのか。

 手に持つ獲物は2m弱の棒だったが、槍を持ってるかのように錯覚した。


 来る。


 閃光のような十数発の突きが放たれた。

 まるで光が襲ってきたかのようだ。


 しかし、俺には1発1発、はっきりと見えた。

 見事な突きだと思った。

 しっかり、急所を狙っている。

 それだけじゃない、狙った急所を相手が避けたら、どう動くかを予想した上での攻撃もしている。

 相当戦い慣れていること、実践を想定した鍛錬をしていることがわかる。


 俺が突きを避け切ると、次は、棒が円を描くように薙ぎ払い、切り上げからの薙ぎ払い、そして突きを連続して放ってくる。

 点と線の動きが見事に組み合わさり、全ての攻撃があまりにも滑らかに繋がりを見せいる。


 俺が全て避けると、ツルは6m程距離を取った。

 小手調べが終わったようだ。


 ツルは深呼吸をし、目を一瞬閉じると、俺を鋭く睨んだ。

 いよいよ、本番が始まるようだ。


 6m程の距離を一瞬で詰めると、先ほどと同じ流れの攻撃をしてきた。

 しかし、速さは段違いだ。

 ツルは、俺が修行していたころの第一段階を10年近く繰り返していることがわかる。

 ただ、速く、正確ではない、その行為が体の一部となるような、無意識化で動かせるレベルを目指した鍛錬だ。


 また、速いだけではなく、フェイントも入れつつ、円の動きして、絶え間なく、緩急をつけ、攻撃をし続けてきた。

 薙ぎ払い、切り下げ、切り上げ、薙ぎ払い、突き、フェイント、突き、フェイント、突き、突き、薙ぎ払い……


 動きに切れ目がないため、まるで舞っているかのようだ。

 10分弱の舞が終わった。


 彼が費やした、時間と労力、思いを想像し、1つ1つ丁寧に、そして敬意を持って、俺は避けた。


「はぁはぁ」


 ゆで卵のような綺麗な頭に大粒の汗が光っている。


「10年以上だ!」


 ツルは言った。


「?」


「10年以上だ! 俺は妥協せず、鍛錬をし続けてきた。 お前は何なんだ!」


 ツルは叫んだ。

 俺は修行を始めて10年だとまだ棒を振っていたかなと思い出した。


 しかし、感情を表に出している割にツルはかなり冷静なようだった。

 重心を変えたり、攻撃の意志を出したりとフェイントをし、こちらの反応を見ようとしている。

 一通り試して、無駄だと思ったのか、一瞬身体の力を抜くと、一気に間合いを詰めてきた。


 ツルの攻撃のキモは円の動きにある。

 あれが攻撃の繋ぎの役割を果たしている。


 じゃあ、それを止めてしまえばどうか。


 俺はツルの薙ぎ払いを避け、丁度繋ぎの動作に入ったところで、ツルの棒を切り上げた。

 流石にプライドが許さなかったのか、ツルは棒を離さなかったが、一気に飛ばされた。


「なんで自分が飛ばされたかわからなかったぜ」


 ツルがそういうと、今度は突きを連発してきた。

 もう何度も見た。

 フェイントの突きをしたときに、また棒を切り上げた。


 今度は吹っ飛びはしなかったものの、ツルの棒は砕け散った。


「武器がない!! 俺の負けだ!!!」


 ツルは砕けた棒を見て、悔しさの余り、唇を強く噛んだ。

 そこから血が流れ始めた。

 彼はこの後、すぐに鍛錬に戻るであろうことがわかった。


 こうして、ツルと俺との初めての戦いが終わった。



「一応、判定は俺がするんだがな…」


 フランクは呆れていた。


「ツルは既にCランク相当の戦闘能力だな。 ツヨシはわからねぇ。 ツルが手も足も出なかったのはわかるが、俺もツヨシが何をしたのか認識できてないからな。 今年は色んな意味で豊作だぜ」


 フランクはため息をついた。


「とりあえず、実技講習は以上だ。 ツルはEランクから、ツヨシはDランクから始めれるがどうする? 俺の裁量ではDまでだ。 両方Dだとツルは納得しねえだろ」


「俺はFからでいいよ」


「俺より強いこいつがFならも俺もFだな。 Gでは討伐クエストできないしな」


「わかった。 他の新人はGからだ。 後はレイさんのところで手続きをしてくれ。 以上解散だ!」


「「「「ありがとうございました!」」」」


「それでは手続きをしますので、こちらへ来てください」

 

 レイさんは笑顔で言った。

 俺と目が合うと、レイさんの目がきらりと光った。


 こうして、俺は冒険者になった。

 やはり、農民二人と、長大な詠唱をしていた魔法使いの女の子は冒険者にはならない方がいいとレイさんに言われたようだった。

 もちろん、強制力がないわけだが…


 いよいよ、冒険者としての活動が始まる!

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