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第7話・捜索

 セーラの鑑定は、魔法の効果まで明らかにしてくれた。


・光魔法『ライト・アミュレット』【1】

解呪の指先。直接触れることで対象にかけられた呪いを解く。


・光魔法『ラディカル・ブースト』【1】

錬磨の呼吸。自身の身体能力を飛躍的に向上させる。


「ふぅん。二個目のほうは、地味だけど使い勝手のよさそうな魔法だな。って、おいセーラ、どうしたんだ? 鯉がエサ食うときみたいな顔して?」


 セーラはパクパクと口を動かしながら俺の顔を凝視していた。


「どうしたもこうしたもありませんッ! ひ、光魔法ッ!? 本当に、間違いなく、嘘偽りなく真実たしかに光魔法なんですかッッ!?」


 すごい形相でせまられ、俺はちょっとタジタジになった。


「いや、セーラの鑑定でそうでてるんじゃ……?」


 情報の真偽を俺に求められても困るところではある。


「そ、そうですけど――」


 落ちつきを取り戻すため、セーラはその場で深呼吸をくり返して、


「レイジ。どうか落ちついて聞いてください」

「お、おう」

「光魔法とは、神にのみ許された奇跡の力です」

「は……ええっ?」


 今度は俺が驚かされる番だった。


「創世神話には、次のようなエピソードがあります。創造神オレルスは光の魔法によって無限の闇を打ち払い、しかるのち天地を創造し生命を宿らせたと――」

「いや……! いやいやいやいや、ちょっと待てって! 俺の魔法は無限の闇を打ち払うだとか天地を創造するとか、そんなことは一文字も書いてねえぞ!?」

「着目すべきは、光魔法という分類そのものです。いいですか、レイジ。あなた以前に光魔法を習得した者はオレルスの歴史上、一人としていません。これは厳然たる事実です」

「マジかよ……」


 セーラが噛んで含めるようにうなずいた。

 光魔法。この世界の神話にでてくる、神にのみ許された奇跡の力。

 ……そんなすごい魔法が手に入ったんだから、ここは素直に喜ぶべきなんだろう。

 だけど俺の胸にあるのは、どこか釈然としない気持ちだった。


「なんだって突然、俺にそんな魔法が……。そもそも呪い耐性と光魔法って、なんか関係があるのか?」

「……わかりません。光魔法はもちろん、呪い耐性【EX】も前例のないスキルですから」

「ふぅむ。思い返してみると、呪いをうけた瞬間に光魔法をおぼえたみたいなんだよな。って考えると――やっぱこれは、あらかじめ仕組まれていたのかもな」

「どういうことでしょうか?」

「光魔法の習得は、広い意味で『呪い耐性』の範疇じゃないかってことだよ」


 あたりを見渡して俺は言った。


「この呪われた世界を生き抜くには――神様の力でも借りなきゃ厳しそうだからな」

「あ――」


 セーラが言葉を失う。

 あらためて、呪いがもたらした甚大な被害に意識がむいたんだろう。


「……消えてしまった人たちは」


 セーラがぽつりとつぶやいた。


「本当に、亡くなってしまったんでしょうか?」

「キツいけど、そう考えるしかないだろうな。そして死んじまった人間は、光魔法でも生き返らせることはできない……」


 試してみるまでもなく、俺には確信があった。


「それでセーラ、これからどうする?」

「どうすると言われましても……」

「こんな状況になっちまったけど、俺はまだ死にたくねえから生きることにする。セーラはどうだ?」

「わたしは――」


 セーラが考えたのは、ほんの一瞬だ。

 数分前の彼女なら、絶望に背中を押されて「後を追う」ことを選択する可能性も少なからずあっただろう。

 だが、いまは違うはずだった。


「わたしも、生きていきます。亡くなった人たちのぶんまで、精一杯、レイジと一緒に……!」

「よしっ。最初の方針は一致したな」


 俺はひそかに胸をなでおろした。


「それじゃ、生きるための行動をはじめるとするか」

「はいっ! って、あの、具体的にはなにをすれば……?」

「第一は食い物の確保だな」


 俺は言った。

 万が一、呪いが人間だけでなくほかの動植物にもおよんでいたら――

 

 そのときは、セーラと仲良く二人で飢え死にするしかない。


   ◇◇◇


 結論からいうと、食料問題はまったくの杞憂だった。

 乾燥パンをはじめとした穀類、チーズなどの乳製品、さまざまな種類の肉や魚。

 いずれも消えておらず、腐ってもいない。

 実際に食べてみても変な味はせず、体が異常をきたすこともなかった。


 考えてみれば、呪いの発動後も広場周辺の樹木は健在だったし、空では鳥がのんきに飛んでいた。

 呪いは人間だけを死滅させるもの、と考えてよさそうだ。


 当面のあいだ餓死の心配はない。

 ひとまず安心した俺たちは、次の行動に移ることにした。


「俺たち以外の生き残りがいないか、町中を探してまわるんだ」

「ユニティアの住人のほとんどは、あのとき広場に集まっていたはずですけど……」

「ほとんど、つまり全員じゃない。勇者と魔王の決戦っていう一大イベントにシカトきめこむようなひねくれ者の中に、呪い耐性のスキル持ちがいる確率は……ま、ゼロじゃねえことはたしかだろ」

「スキルといえば――召喚の神殿に、ユニティアの住人のスキルを記録した資料があったはずです」

「んじゃ、セーラは資料にあたってスキル持ちがいないか探す役だな」

「わかりました。レイジは?」

「歩きまわってしらみつぶしに探す役だ」


 ということで俺たちは二手に別れた。


「おーい! 誰かー! 生きてるやつはいないかー!」


 町の地図を片手に俺は歩く。

 手始めに人口密度の高そうなエリアをあたってみたが、いくら呼びかけても反応は返ってこなかった。

 念のため家の中にも入って確認していく。

 

 仮に生存者がいたとして、返事ができない状態である可能性が高い。

 呪い耐性のレベルが低ければ、呪いを完全には防げない。

 セーラのように痛みに苦しんでいるとしたら、見つけだして助ける必要があった。

 

 しかし、歩けども歩けども生存者は発見できない。

 町には静寂だけが満ちている。

 住人と一緒に、町も呼吸することをやめてしまったかのようだ。


 昼前から日が暮れるまで捜索をつづけたが、結局その日は収穫ゼロだった。


   ◇◇◇


 完全に暗くなる前に、俺はセーラが待つ神殿へとたどりついた。


 太陽はすでに沈み、まもなく町は闇の底へと沈む。

 個々の建物はもちろん、街灯すら光をともすことはない。

 町の照明はすべて魔道具で、住民から広く浅く吸いあげた魔力をエネルギー源としていた。

 いまのユニティアは、闇を払うすべを失っている。

 ただひとつの例外は、俺とセーラがいる召喚の神殿だった。


「どうでした、レイジ?」


 顔をあわせるなりセーラはたずねてきた。


「……残念だけど収穫はなしだ。そっちは?」

「目を通せたのは資料の三分の一ほどですが、いまのところスキル所持者はいないようです……」


 セーラの顔は疲労の色が濃く、目は赤く充血していた。

 ただでさえ彼女は、俺とは比較にならないほど精神にダメージを負ったのだ。

 あまり根を詰めすぎると倒れてしまいかねない。


「よし、晩飯食ったら今日は早く休もうぜ。捜索はまた明日だ」

「そう……ですね。わかりました」


 意外にもセーラはあっさり同意した。

 彼女自身、限界だと感じてたのかもしれないな。


 こうして、世界中に呪いがばらまかれた「終わりの日」は、終わりを迎えようとしていた。

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