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第4話・魔王ついに討伐される

「つか、この世界にもテレビとか映画みたいなものがあるんだな」


 映像を目にした俺の第一声はそれだった。


「最上位の『念話』スキルの賜物です」


 セーラが言った。

 ちなみに俺たちがいるユニティアはオレルス大陸の南端に位置している。

 そして勇者パーティーがいる魔王城は、大陸の北限に位置している。


「この映像と音声を送ってきているのが、杖を持った青い髪の女性【賢者】エレイン殿です」


 セーラがスクリーン内の、ゆったりしたローブを身に着けた女性を示した。


「同じく杖を手にした赤毛の少女が【大魔導】アイシス殿」


 こちらはトンガリ帽子と赤のマントをまとった、背の低い少女だ。


「斧をかついでいる茶髪の男性が【重戦士】ラズロ殿」


 髪と同じ色のヒゲを生やした、身長二メートル強の大男である。


「そして、真ん中に立つ金髪碧眼の青年こそが、我らが【勇者】ユウト様です!」


 顔と名前は思いっきり日本人なのに、髪と瞳の色は日本人離れしている。

 この世界にもヘアマニキュアやカラーコンタクトがあるんだろうか?

 とまあ、俺はわりとどうでもいい感想をいだいた。


 勇者はくるりとふり返ると、スクリーンにむかって語りだした。


『オレルス全土のみなさん! 今日この日、ついに僕たちはここまでたどり着きました!』


 よどみない口調で話す勇者。

 ずいぶんと演説慣れしている。

 そのせいか、なんだか俺には役者じみて見えた。


『思い返せば、長く苦しい道のりでした。これまで何度くじけそうになり、諦めようと思ったかしれません。ですが、そんなとき支えてくれたのが、旅の途中で出会った多くの人たちでした。僕たちはたくさんの人の想いと願いを背負ってここに立っている。だから負けられない。正義の心は必ず悪に打ち勝つと信じて、僕たちは最後の戦いに挑みます!』


 猛烈な歓声が巻き起こる。

 隣のセーラにいたっては、感極まって涙ぐんですらいた。

 

 ……逆フラグにならないといいんだけど、とは思いつつも、さすがに空気を読んで口にはださない。


『エレイン、アイシス、ラズロ! 準備はいいな!?』

『はい!』『うん!』『おうよっ!』

『よしっ、いくぞ!』


 勇者がスクリーンに背をむけ、『地獄門』とやらに両手を押しつける。

 ギギギィ! 物々しい音をたてて、扉はゆっくりと左右に開いた。


 勇者一行が魔王の間へと入っていく。

 果たして部屋の最奥部には王座があり、座して待ち構える者がいた。


「あれが……魔王か」


 魔王の姿が映しだされたとたん、広場にはどよめきがひろがり、誰もが固唾をのむ気配が満ちた。

 魔王が発する威圧感のなせる業だった。


 巨大な怪物でも、人外の化物でもない。

 外見もサイズも見た限り人間と変わらない。

 

 右手には骸骨をあしらった杖を持ち、全身を漆黒の衣装でつつんでいる。

 表情や顔つきはうかがえない。

 というのも、真っ白な仮面が顔を完全に覆い隠していたからだ。

 

 それにしても不気味な仮面だ。

 真ん中に大きな真紅の「一つ目」が描かれているだけで、ほかの意匠はいっさいない。

 漆黒の衣装とあいまって、闇の中に一つ目の白い顔がボゥッとうかびあがったようだった。


『ッ……! 魔王エスカディアだな!』


 魔王のプレッシャーに負けじと、勇者が声を張りあげた。


『僕の名は勇者ユウト! 覚悟しろ、魔王エスカディア! 今日がお前の最後の――』


 カツンッ! 魔王の杖が床を打ち、勇者の口上を途切れさせた。

 ゆっくりと立ちあがる魔王。

 骸骨杖の先端には、早くも魔法の火球が生みだされていた。


『問答無用か。いいだろう、望みどおりにしてやる! エレイン、アイシス、ラズロ、陣形を組め! いくぞ、これが最後の戦いだッ!』


 勇者がいうところの最後の戦いが幕を開けた。

 勇者パーティーは陣形を組んで魔王に立ちむかっていく。

 

 最前線は重戦士ラズロ。

 巨大な盾と斧を装備し、魔王の激しい魔法攻撃を防いでいく。

 

 勇者はラズロと連携を取りつつ、攻撃に専念。

 魔王に隙が生まれると、すかさず飛びこんで剣撃を見舞う。

 

 大魔導アイシスは、やや後方から魔法攻撃を繰り返す。

 前線のラズロと勇者は、彼女の詠唱時間をかせぐ役割もになっているようだ。

 

 最後方にひかえるのが賢者エレイン。

 彼女は回復と補助のエキスパートで、治癒魔法と防御魔法を駆使してパーティーの土台を支えていた。


 序盤は魔王の猛攻に防戦一方となり、広場は悲鳴と嘆きに満たされた。

 しかし、勇者パーティーはしだいに態勢を立て直し、主導権を奪い返す。

 

 ザシュッ! ゴォゥッ! 剣撃と魔法がつぎつぎに魔王へ直撃し、確実にダメージをあたえていく。


 こっちの広場の盛りあがりも最高潮。

 俺の隣のセーラも両手を組みあわせて、


「神よ、どうか勇者様たちに加護を……! 闇を打ち払う光の導きをっ……!」


 一心不乱に祈りをささげていた。

 ……そんな中、たぶん俺一人だけが、かすかな違和感をおぼえていた。


 なんつーか……魔王のやつ、もしかして手抜いてたりしないか?

 いや、なんでそう思ったかっていうと、ぶっちゃけ根拠は特にない。

 スクリーンに映しだされる光景が、映画さながらに見えたから?

 

 映画なら、結末は最初から決まっている。

 最終的には正義が勝ち、悪は敗れ去る。

 そういうシナリオにそって登場人物たちは行動するのだ。


 ――魔王は、人間に倒されたがっている。


 いやいや、馬鹿な、だからそんなはずないっての。

 真面目に観戦しよう。

 なにせスクリーンのむこうで起きているのは、世界の命運を決する戦いなんだからな。


 ――そして、終局の時は訪れた。


 ズゾゥッ! 勇者の突きだした剣が、魔王の胸を一直線につらぬいた。

 致命的な一撃。

 剣が引き抜かれると、魔王は後方へとよろめいた。

 くしくも魔王の背後には、最初に座っていた王座があった。

 くずれるように王座に腰を落とし、力なく四肢を投げだす魔王。


『終わりだ、魔王』


 切っ先を仮面へと突きつけて、勇者が問いかける。


『最期になにか言い残すことはあるか?』


 これまで終始一貫して無言だった魔王は、


『――永かった』


 はじめて仮面の下から声をもらした。

 思いがけないことに、声の感じは若い女性のものだった。


『勇者よ、お前には感謝している。やっと私を殺せる者が現れたくれた』


 そして、驚愕の発言が飛びだした。

 驚愕――?

 たしかに、ほかの人間にとってはそうだったかもしれない。

 だけど、俺にとってはどうだ?

 むしろ心の奥底で、やっぱりそうだったかと納得してるんじゃないのか?


『私は呪われていた。死にたくても死ねなかった。だがようやく救われた。解放された』

『な、なにを言っている……!?』


 困惑する勇者。

 彼のみならず、この光景を目にしているすべての者が、同じ気持ちでいたに違いない。


『人間よ、今度はお前たちの番だ』


 笑っているような、泣いているような、なんとも形容のしがたい口調で魔王はつげた。


『さあ、呪われるがよい――』


 ――シュボッ!

 それは突然のことだった。

 なんの前触れもなく、魔王の全身が赤黒い炎につつまれた。


『なッ……!?』

 

 異様な事態に、勇者は後方へ跳んで距離をとる。


『エレイン、全力で防御魔法を張れっ!』

『はいっ! 「フラーレン・シェルター」!』


 賢者エレインが防御魔法を発動。

 ドーム状の魔力障壁がパーティーを覆った。


 おそらく勇者は、魔王が最期の悪あがきで自爆でもすると思ったのだろう。 

 だが、そうはならなかった。

 魔王をつつんだ赤黒い炎は燃えひろがることもなく、魔王の肉体を黒い塵へと変えていった。


 ――パキンッ!

 硬質な音を残して、魔王の仮面が真っ二つに割れる。

 その奥から現れたのは、世にも美しい少女の顔だった。

 声と同じく、泣いているような笑っているような、奇妙としかいいようのない表情をかいま見せて――

 

 次の瞬間、魔王の体は焼きつくされて跡形もなく消滅した。

 それで終わり。

 魔王の最期は、実にあっけなく淡々としていた。


 拍子抜けしたのか、勇者たちもしばらく呆然と立ちつくしていた。


『や、やったぞ……!』


 勇者がつぶやく。

 その表情がじょじょに歓喜の色に染まっていく。


「ついにやったんだ! 成し遂げたんだ……! 」


 勇者は体ごとふり返り、スクリーンに顔をむけた。


「オレルスの民よ! この世界に生きるすべての者よ! 戦いは終わった! この僕が、勇者ユウトが魔王を討ち果たしたんだ――」


 その、直後だった。

 赤黒い炎が、突如として勇者の全身をつつんだ。

 魔王を焼きつくしたのとまったく同じ、正体不明の炎が。

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