表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

第1話・外れスキル

「アサギリ・レイジさん、鑑定の結果をお伝えします。あなたに付与されたスキルは『呪い耐性【EX】』……以上です」


 召喚の巫女ミスマルカ・セーラは、気まずそうに目線をそらして言った。


 ちなみにこの世界では、日本と同じく名字が先で名前を後に表記する。

 よって、彼女の名前はセーラとなる。


 長い銀色の髪に紫色の大きな瞳。

 顔立ちは尋常じゃないくらい端正で、体つきもスマートながら出るところはしっかりでている。

 とまあ、容姿は完全無欠の美少女なのだが、どうも感情を隠すのは苦手らしかった。


「もしかして外れだったりする?」


 のんきに俺はたずねた。


「の、呪い耐性はたいへん希少性の高いスキルで、最高レベルの【EX】となると過去に一度も確認されていないのですよ!」


 誤魔化すような口調のセーラ。


「ちなみにこのスキル、具体的にどんな効果があるんだ?」

「ええと、それは……読んで字のごとく『呪いを軽減または無効化する』と推測されています」

「推測されてる……?」

「レイジさん、たいへん申し上げにくいことなのですが」


 意を決してセーラは言った。


「この世界には、呪いというものが存在しないのです」


「……マジで?」

「少なくとも、現在まで確認されたことはありません」

「……ガチで?」

「実はこのわたしも『呪い耐性【1】』を所持していますが、スキルが発動したことはこれまで一度も……」

「えぇ……?」


 俺は少し考えて、


「素朴な疑問なんだけど。呪いがないってのに、なんで耐性スキルだけがあるんだ?」

「わたしにも詳しいことは……。スキルとは神が与え給うた恩寵、人智を超えた奇跡の御業ですから」

「ふぅん。ま、神様もうっかりミスしちまったってことかな」


 かるく笑い飛ばす俺だったが、セーラはますます深刻な顔になる。


「いやでも、こういうのってアレだろ? 修行とかすれば新しいスキルをおぼえられたりするんだろ?」

「異なる系統のスキルが後天的に発現することはありません。スキルが成長や進化、あるいは枝分かれすることはありますが、『呪い耐性』の場合はそれも……」

「あー……」

「ほんとうに申し訳ありませんっ!」


 ついにセーラは深く頭をさげてしまった。


「こちらの都合でレイジさんを召喚しておきながら、このような結果になってしまうなんて……なんとお詫びしたらいいか……」

「べつに謝んなくてもいいって。セーラが俺を召喚したわけでも、スキルを付与したわけでもないんだろ?」

「そ、それはそうですが、わたしには召喚の巫女としての責任がっ……!」

「なあ、そんなに深刻にならねえでさ。とりあえず顔あげてくれよ」

「はい……」

 

 やっと顔をあげてくれたセーラだが、その表情はうかないままだ。

 俺は話題の転換をこころみた。


「それよか、俺はこれからどうすればいいんだっけ? 事前にうけた説明だと、スキルを付与されたら冒険者として旅にでるって流れだったよな」

「はい。ですが、強制では決してありません。町でふつうに生活したいというのであれば、その意思は最大限尊重されます」

「ちなみにだけど、俺は冒険者としてやっていけそうか?」

「それは……。戦闘系のスキルを持たないレイジさんでは、無謀というより自殺行為ではないかと……」


 言いにくそうに、だが最後まで言いきるセーラ。

 感情を隠すことも苦手なら、嘘をつくことも苦手なようだ。


「すみませんっ! 召喚者になんて失礼なことをっ……!」

「いや、俺はぜんぜん気にしてないぜ」


 ううむ、どうも深刻なムードは苦手だ。

 ここはひとつ――アレをやるとするか。


「だから、セーラももう気にすんなって」


 俺は人差し指をセーラの顔にむけると、気障ったらしい口調で言った。


「そんな顔してると、せっかくの美人が台無しだぜ?」


 俺のばあちゃん直伝「女を落とす一〇〇の口説き文句」からの引用だ。

 ばあちゃん曰く、若かりしころじいちゃんから実際に言われた文句とのことだが……俺は二万パーセント、一〇〇句ぜんぶが創作だと確信している。

 こんな芝居じみた文句で落ちる女なんて、実際にいるわけがない。

 

 ちなみに断っておくが、俺がこの場で口説き文句を使ったのは単なるギャグだ。

 だってそうだろう、セーラみたいな超美人が、俺みたいなやつの口説き文句を真に受けるわけがないしな。


「きゅ、急になにをっ? び、美人だなんて、そんなっ……!」


 セーラは顔をそむけてうつむいてしまう。

 ……ありゃ、あんまウケなかったみたいだ。気まじぃ……。

 

 とはいえ、深刻なムードは多少やわらいだので良しとしよう。


「しっかし、せっかくのスキルが使い道のない死にスキルなんてなぁ。こんなことってあるもんなのかね?」

「前例がないわけでは……。あの、レイジさん」


 おそるおそる、といった感じでたずねてくる。


「この世界、オレルスに召喚されたことを、後悔してますよね……?」

「いんや、ぜんぜん」


 あっけらかんと俺は答えた。

 ポカンとするセーラに、ありのままの気持ちを口にする。


「じいちゃんもばあちゃんも死んで、家族は一人もいなくなっちまったしな。せっかく異世界に来れたんだ。こっちで楽しませてもらうことにするぜ。あ、スキルがなくてもふつうに生きていくには問題ないんだよな?」

「はい。召喚者の生活に関しては、万全のサポートをお約束していますが……」

「なら安心だぜ。いやぁ、まさかの異世界ライフ、なにが起こるか楽しみだな!」


 強がりでもなんでもなく、俺は笑みをこぼして言った。

 つられてセーラもプッとふきだした。


「そんなことを言う召喚者ははじめてです。レイジさんは変わっていますね」

「わりとよく言われるわ、それ」

「やっぱり!」

 

 そんなに変わってるかなと、小首をかしげる俺。

 まあ、セーラが笑ってくれたことだし、細かいことは気にしないでおくか。

 

   ◇◇◇


 異世界オレルスには、定期的に召喚者が現れる。


 召喚されるのは、現代の地球に住む人間。

 年齢は一〇代が大半を占め、性別は八:二で男性が圧倒的に多い。

 人種はほぼ日本人に限定される。

 なんでも、一〇代の日本人男性がもっともオレルスと「波長が合う」とのこと。

 わかるようなわからんような説明だ。


 とにかく召喚は強制的で、召喚者には意思決定の自由はあたえられない。

 気がつけば異世界。そして、元の世界に戻る方法はないと伝えられる。

 ずいぶんと理不尽な話だが、激怒する召喚者は少数派だという。

 

 召喚者は無作為ではなく、ふさわしい者が選ばれているからだ。

 元の世界で不平不満を持つ者、生きにくいと感じている者、逃げだしたいと切望している者、代わり映えのしない日常に退屈しきっている者――召喚者になるのはそういった「動機」の持ち主ばかりだった。

 さらに大半の召喚者には、強力なスキルが複数あたえられる。

 

 スキルとは、異世界オレルスの神の恩寵。

 強大な「力」そのものだ。

 

 そんなわけで召喚者のほとんどは、みずからの意志で冒険者となることを選ぶ。

 命の危険はあるが、功績をあげて一流の冒険者となれば、地位も名誉も金も女も思いのままとなるからだ。


 ところで冒険者というのは、具体的になにを生業とするのか?

 魔獣の退治やアイテムの回収、未開領域の調査などさまざまだが、最終的には一つの目的に収束する。


 すなわち、魔王の討伐だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ