表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第2話 幽霊は湯気の中

 そこには、大阪弁のイントネーションで話す――ボクがいた(いや、少し色が白くて、髪が長いかな……?)。

 でも、これは……

「で、でた……ドッペルゲンガー!!」

 すごい声で叫んでしまった。

「うわっ……ちょ、鼓膜がやぶれてまうやん。大声出さんといて」

 大阪弁で、耳をふさぎながらしゃべり続けるドッペルゲンガー。

「あんた、ほんとに何も聞いてへんの?」

 ドッペルゲンガーの問いに、ボクはうなずいた(だんだん冷静になってきたのを感じる)。

 そのとき、

「昴ぅ、どうしたの、何かあった?」

 母さんの声が聞こえてきた。

「ほんまに、何も聞いてへんみたいやなぁ。――下行って、聞いてき」

「その前に……あなた、誰?」

 ボクは、恐る恐るきいた(そういえば、まだ鉄アレイを持ったままだ)。

「私は、岩崎心(いわさきこころ)や。今日から瑞緒心になるけどな。これから、よろしくたのむで、昴」

 岩崎心と名乗った、ボクのドッペルゲンガーが、ボクの肩に手を乗せてきたので、ボクはその手を(鉄アレイをゆかにおいてから)払った。その手は、とてもあたたかく、きれいな人間の手だった。



「母さん、どういうこと?ボクにそっくりじゃん。あの岩崎心ってやつ」

「似てて当然。あなたは、双子だったんだから」

 母さんが、びっくりするようなことを言った。

 ボクが……双子?

「心は、あなたの双子の妹。父さんが単身赴任したときに、心もついていったんだけど、転勤と出張が多すぎて、大阪のおばあちゃんの家に預けられたの」

「出張って……父さん、ガス会社って言ってなかったっけ?」

 ボクの問いに、母さんは首を振る。

「父さんの仕事先は、丹波(にわ)グループ電子機器部門。父さんはそこの部長」

 ぶっ、部長!?父さんが?(どんな人なんだろう……ボクの父さん。あとでドッペルゲンガー(こころ)に聞いてみよう)



 シャァァァァァ……

 お風呂場に、シャワーの音がこだまする。

 ふーっ、気持ちいい……

 ボクから、鼻歌が漏れる。曲は、だいぶ前にやってたNHKのドラマのテーマ曲「名探偵は人生を答えず」だ。

 気分がよくなってきたので、歌詞までもが口から出る。

 ♪ランララ、ラ、ラ、ラララララ……

 気持ちよく歌ってたら、ふいにお風呂場の扉が開いた。

「ちゃお!」

 ……岩崎心(ドッペルゲンガー)が、現れた。

 コマンド1 水をかける、をボクは選択し、実行。

 シャァァァァァァ!

 水を向けた瞬間、ばん!と扉が閉まった(なかなか、すばしっこいやつだ)。

 そのあと、扉の向こうから声が聞こえた。

「あんた、すぐ怒んなぁ。もうちょいと心を広うせな。あ、心っちゅうのは、私の名前とちゃうで。」

 いわれなくてもわかるわい!

 まったく……

「で、なんか用なの?」

「うん」

 心(と、よぶことにした)の返事が返ってきたので、ボクはシャワーを止めた。

「あんた、オカルトサイトやっとるやろ?」

 オカルトサイト?――ああ、教授との共同サイト(同じクラスの人だけが入れるサイト。身の回りにおきたことの謎の究明を中心に、ボクと教授が活動している)のことか。

 うん?なんか引っかかる。ま、まさか!

「心!ボクのサイト見ただろ!」

「見やなサイトやっとること、わかるわけないやん」

 しゃあしゃあと言う心。こ、こいつ!

 ボクは、素っ裸のまま(タオルでどこも隠さず)風呂場を出る。あの野郎(こころ)には、ちょっとびしっとやっとかないと、あとあと面倒だ。

 風呂場を出たところにある洗面所に居る心の、むなぐらを思いっきりつかむ(ぶんなぐるのは、そのあとの態度で決めることにしよう)。

「ちょっ、なんなん。いきなり……」

 少しも悪びれてない心。こいつ、人のプライバシーを侵害したことの罪の重さを、ぜんぜんわかってない。くらわしてやらねばいかんな。しかるべき報いを!

 ボクがそう決めた時、心がニュッと笑った(むなぐらをつかまれたままなのに……)。

「なに笑ってんの?」

 ボクが言い終わる前に、心の左手がボクの胸に伸びて、ぎゅっとつかむ。

「きゃっ!」

 ――普段は絶対に出ない高い声が、ボクの口からもれる(同時に、むなぐらから手を離してしまった)。

「何するんだよ!」

「べっつにぃ〜?」

――そのあとの騒動は、思い出したくないので書かない。母さんに止められて、やっとおさまったということだけ書いておこう。



 夕食を食べて、お風呂にはいった後、ボクは自分の部屋にこもって、人狼城の恐怖を読むことにした。ちなみに、今まで読んだのフランス編まで(次は探偵編)。

 本を読んでいる間も、あいつの顔が頭から離れなかった。あの、いっつも笑ってる、小憎たらしい顔が……(顔だけは、ボクと一緒だけど)

 それにしても、初対面の人間のパソコンを見たりするなんて、一体どんな神経してるんだろうね?(答え――たぶん、レンコンみたいに太くてスカスカの神経をしている)。

 …………さ、あんなやつの顔(ボクの顔?)を思い出しても、いらいらするだけだし、本に集中しよっと。



 ――しかし……

 その決意は、5分もたたないうちに吹き飛ぶことになる。

 それを、ボクはまだ知る由もなかった。



 5ページくらい読み進めたとき、部屋の扉が開いた。そして、扉の影から出てきたのは、ドッペルゲンガー(こころ)……

 ボクは、勝手に部屋にはいってきた心を、視界に入らないようにして、読書を続ける。

 でも……それは次の瞬間、視界に入れようと思ってもはいらない状況になった。なぜなら、心がボクの背中に寄りかかるようにして座ったからだ。

「こんどは、何の用?」

 ボクは、ばん!と本を閉じて、かなり不機嫌な声で言った。

「あんた、ミステリー好きなん?」

「……」

 ボクの気持ちを、まったく分かってなさそうな声で、心が聞いてくる。大阪人って、こんなに人間味のない人達なんだろうか?ボクは違うと思ってたけどなぁ……

「なんなん?質問くらい答えてくれてもええやん。もしかして、胸つかまれたこと根にもっとん?」

「……」

 それもある。けど、ボクが一番怒っているのは、人のパソコンを勝手にのぞいたことだ。

「……露骨にシカトすんなぁ、あんた。――わかった、あやまっとくわ。すんまへん」

 心が、ボクの背中から降りて、素直に頭を下げた。……これで、すこしゆるしてやろう。

「ほんで、最初の質問に答えてほしいんやけど」

「ミステリーは、大好き。ちなみに、あんたは大っ嫌い!以上!!」

 ボクはそういって、そっぽを向いた。

「なんや、おもろないやつやなぁ。せっかく事件を持ってきたったのに」

 事件?この言葉に、ボクの耳が反応する(自慢じゃないけど、ボクは耳が動く)。

「どんな事件?」

 ボクは、心のほうを向いて、後ろで鉄アレイの準備をして、訊いた。

「やっと、まともに口利いてくれたな。

――こっち系の話やけど、あんたは大丈夫やよな?」

 心が、手首をだらんとたらしたしぐさをする。つまり、

「ひらたくいえば、幽霊?」

 ボクの問いに、心はこっくりとうなずく。

「ききたいやろ?」

 心の問いに、今度はボクが、こっくりとうなずく。

「それやったら、あんたの彼氏紹介してくれん?」

 これには、うなずけない。なぜなら、

「ボクには、彼氏なんかいないので、紹介できない。だから、あんたの話を早く聞かせてくれない?」

 ボクのこの言葉に、心は目を丸くした。……驚くような事でもないでしょ。

「あんた……彼氏おらへんの?」

「うん」

「じゃあ、おんなじ顔しとる私に、彼氏できる確率は……?」

「ゼロ!!」

 ボクは、間、髪をいれずに即答した(いや、ボクに彼氏がいないのは、顔に原因があるんじゃないって、よく言われる)。

「……私、ねるわ」

「ちょっとストップ!」

 ボクは、立ち去ろうとしている心の首をつかむ(ぎゅぅうぇっ、っていう声が聞こえたが、気にしない)。

「……いたいやん。はなしてぇな」

「こっち系の話をしてくれるまで、はなさない」

 ボクは、力を抜いた手首を前に突き出す。

 心は、はぁ……とため息をつき、おとなしく床に座った。

「それじゃぁ、今からゆうわ。

――いっちゃんはじめに言うとくけど、私は犯人と動機はしっとんねん。やから、トリックだけといてや。

 これは、ある温泉旅館でおきた事件や。

 私らのおばあちゃんの家の近くに、その温泉旅館があるんやけど……そこに、女の人の幽霊がでるぅゆう、噂が立ったんや。

 なんでもそこは、昔、連続通り魔があった場所やったらしいんやけど、その女の人ちゅうのが、幽霊になって歩いとるみたいなん。

 まぁ、そらおいといてやな……

 噂がほんまか、私も確かめに行って、なんと運がええことに、その幽霊、見られたんや。でもな、なんかオカシかってん。頭でっかちで、体がちっさいんや。じべたにはりついとるみたいやったで、ほんまに。

 え?誰と見にいったんやって?えーっとな、私と、友達2人。ほかにも、団体さんがおったで。

 え?今度は、いつ見に行ったんやって?うーんと、冬やな。湯気がすごかったで。

 ――うん、こんだけやな。なんか聞きたいことあるか?」

 心の長い話が終わった。

 なるほどね……たしかに、普通の人が聞けば、不思議な話だ。でも、よく考えれば誰にでもわかる。

 ボクは、推理を成り立たせるために、手を上げて質問する。

「犯人と、動機は?」

「近くにのマンションの3階に住んどる大学生。映画とっとった時に、騒がれて、応募する8ミリフィルムがダメになった、っちゅうのが動機らしい。

 ま、今はその幽霊を目当てに来る客も、おるみたいやけどなぁ」

 肩をすくめる心。でも、あんたもその一人じゃん。

 でも、そのおかげで、

(パズル)は、できた」

 ボクのこの言葉に、心はとっても驚いたみたいだ。だって、目が、満月みたいにまんまるになったもん。

 あなたも、この謎、解けましたか?




 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ