二
* * *
その後、リンが目を覚ましたのは、冷たい床の上だった。
「ん……」
薄らと目を開け、リンは身じろぎする。
寝転ぶリンを取り囲むようにして、幾人かの人が立っているのが見えた。
ぼやけた影が像を結び始め、漸く何が起きたのかを悟る。
一際冷たい目でリンを見下ろしている女には見覚えがなかったが、こんな時代に珍しい真紅の法衣は、リンがよく知っているものだった。
「ど、……して……おか、さま……」
口を開けて眠っていた時のような、いがらっぽさが喉に絡みつき、リンは激しく咳き込む。
女は感情のない目でそれを一瞥し、傍らに立つ青年に何事かを命じた。
青年がリンの近くに膝をついて、そっと抱き起す。
水の入った杯を唇に押し当てられ、受け取ろうと手を伸ばしたリンは、両手首に枷が付けられていることに気付いた。
体中に重くのしかかる倦怠感は、寝起きのせいだと思っていたけれど、どうやらこの枷に込められた魔封じによるものらしい。
リンを抱き起した青年の、灰茶の髪と濃紫の瞳に安心して、リンは口を開く。
「ここ……どこ? ヨナ、レグルスは……?」
ヨナに尋ねたつもりだったが、それに答えたのは、酷薄な笑みを湛えた女の声だった。
「死んだよ。残念だったねえ、これでもう、本物のアクイレギアに戻るには王太子を殺すしかなくなった。わたくしたちに従うのなら、取り戻す手伝いをしてあげるけれど?」
「……死ん、だ?」
瞑目したリンに、女は冷やかな声で返した。
「エリヤ。教えてさし上げなさい、誰が彼を殺したのか」
話を振られたのは知らない名前の人だった。
だからリンは、女の周りに並び立つ内の誰かが口を開くと思ったが、聞こえてきたのは極近い場所からの、聞き慣れた声だった。
「リン、ごめんね。僕が撃ったんだ」
「え……?」
たちの悪い冗談かと思ったけれど、「兄」は訳もなくそんなことを言ってリンを傷つけるような人ではない。
戸惑うようなリンの視線を受けて、ヨナはもう一度言った。
「僕が、彼を撃ったんだよ、リン」
そんな惨いことを言いながら、ヨナの掌は優しくリンの頬を撫でる。
唇を戦慄かせ、呆然と瞳を揺らしたリンに、彼は重ねて言い募った。
「心配しないで。君に危害を加えるつもりはないから。僕に従って。……ね?」
「おやおや。女なら誰にでも優しい男はこれだから。入れ込みすぎないでちょうだいよ」
揶揄するような言葉を吐いて、赤い服の女は可笑しそうに身体を揺する。
そうだ、彼女からは見えないのだ――甘ったるい声色にはそぐわない、恐ろしく冷静な彼の眼差しが。
表情と感情と声色が一致しない、と常々レグルスに評されていた違和感の塊は、リンにだけ聞こえる無音の声で囁いた。
(どんなに手を汚しても、たとえ一生許されなくてもいい。……今度こそ、守るよ)
決然とした濃紫の瞳は、リンではない誰かを見つめているようだった。




