幕間 三
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影の中から音もなく現れた青年に、ロビンは別段驚いた様子も見せず、振り向いた。
「悪い魔法使いみたいな登場の仕方ですね」
それはどうも、とどうでもよさそうに笑った青年は、ロビンの勧めた椅子に腰かけ、ゆったりと足を組む。
王太子の前でその態度はどうなのかと初めはロビンも思ったが、今となってはもう慣れた。
振る舞いがどうであろうと、彼は優秀だ。
「父上の具合は?」
「順調ですよ。なかなかしぶとい方ですね、貴方のお父上は。妃殿下の方は心身ともに傍迷惑なほど儚くていらっしゃったのに」
「……そんな母上をああなるまで追い詰めたのはどこのどなたでしたっけ?」
苦笑を漏らしたロビンに、青年は肩を竦めて見せた。
大げさな所作が実に彼らしい。
窓辺の花瓶にふと視線を移し、青年は何気なく呟いた。
「おや、薔薇ですね」
「……ええ。良い花でしょう? 城下の花屋で、ご主人に頂いたんですよ」
青年はその言葉に、さっと顔色を変えたようだ。乾いて掠れそうになる喉を唾で潤し、ロビンはできる限りゆっくりと、口の端を持ち上げる。
「エレナ、さん、でしたか。お美しい方ですよね、エリヤさん?」
「……ははあ、妙に機嫌が良いと思えば。褒めないで下さい。すぐ調子乗るんです彼女」
呆れ声でぼやき、青年の顔は笑みに近い形に歪んだけれど、瞳は油断なく輝きロビンを射竦める。
少しは「効いた」ようだ、とロビンは胸の内で嘆息し、相手の言葉を待った。
やがて、長く細い息を吐き出して、青年が目を伏せた。
「あの店はね、特に冬場の品揃えが素晴らしいんですよ。店主の趣味もいい。冬になったら彼女に花束を作らせて、墓参りにでもお行きなさい。きっと妃殿下もお喜びになる」
「冬? ……命日、ですか?」
「ええ。お母上に素敵なお返しが頂けるかもしれませんね。僕の勘はよく当たるんです」
悠々と組んでいた足を、溜息と共に組み替えて、青年は独り言のように呟いた。
「黙って待っていても全て手に入ったろうに。何がご不満ですか、王太子殿下」
張りつめた沈黙が続いた。嫌な汗が首筋に滲み、髪の貼り付く感覚が気持ち悪い。
その不快感ごと飲み込んで、ロビンは青年の濃紫の瞳を睨み返した。
「全て? 冗談でしょう? 僕は父上とは違う。……半端な勝利は認めませんよ」




