財務官の場合
おかしい。
「ううーん?」
「おい、また悩んでんのか?」
「いや、だって」
「相手はあの勇者様だろ? 少しぐらい変なのは仕方ないって」
勇者様は異世界人だからといってもとても変わっていると思う。
同僚がまだ何か言っていたが、手元の資料を見つめ考え込む。
「やっぱ気になるから行ってくる!」
「えっ、ちょ、おい!」
勇者様が来てから装備やらお披露目の為に衣装を整える為にとお金が使われているのは分かる。でも、分かるけど納得がいかないんだ。
同僚たちは漏れ聞こえてくる大男女だのとてつもなく強いのに、いざ戦闘となると護衛の後ろに隠れたりするという勇者様の噂に不思議がっては居るが、自分のように危機感を持っている者は居ない。
勇者様が来てから何故か化粧品だの真新しいドレスだのがいくつもいくつも山のように納品されている。
勇者様は男性だからそんなもの要らないとの進言しに行った奴は勇者様の迫力とかなり強い腕力にやられ今も寝込んでいるという。
だが、しかしこのまま勇者様に好き勝手され続ければ勇者様に割り振られている予算をあっという間食いつぶされてしまう。そうなった場合苦労するのは我々財務官!
だから進言しに来たのですが……。
「まあ! なんていい男なんでしょう。ねえ、こっちに座ってちょうだいな。あ、ねえ、お茶よお茶! はやくしてよね! もう、気が利かないんだから」
「あ、あの勇者様……」
どうしようなんか色々怖いんだけど。
侍女の人たちも、一人だけ勇者様に文句を言い返してるけどそれ以外は青白い顔をしてふらふらしてる。
一度休暇取らせて気分転換させた方がいいかな。そうしないとなんか今にも倒れそうだし。
そうすると新しい人を手配しないといけないけどそこはまあ、侍女長様に頑張っていただこう。
「それでぇ、今日来ていただいたのは何だったかしら? アタシとデェトしてくれるだったかしら?」
「いえ、違います」
でぇととやらの意味は分からなかったけど、何となくヤバそうだと思って否定すれば勇者様はつまらなさそうな顔をしていた。 なんだか分からないけれど、助かったと思った。
「今日伺ったのは勇者様の予算についてです」
「予算?」
今までそういった事は聞かされていなかったのかきょとんとする勇者様。
まあ、当然だよな。普通いきなり召喚された人が裏側まで見通せるかと言われたら否と言うしかないし、俺たちだって見せようとはしない。
だが、しかしこの勇者様服だの美容だのに予算を掛け過ぎていて武器や防具の方の予算が今だって圧迫されそうになってるんだ。今ここで引いたら負けだ! 頑張れ俺!!
「はい。実は」
そうやって切実に語ったのにも関わらず勇者様は興味なさそうに爪の手入れをしている。
勇者様の手強さに前突撃した奴もさぞ苛立った事だろうと考えていれば、ふと勇者様の逞しい二の腕が目に入った。
ああ、そう言えばこの逞しい肉体で今も起き上がれないんだっけと思ったらゾッとした。
変テコな格好をしていて飄々とした掴みどころのない変た……いじゃなかった。変わった変わった……ダメだどう見ても変態だわコレ。
だって、男が女の格好をして爪の手入れするか? 女言葉で男を誘うか? 俺なら無理! もし、出来るって人が居たら俺勇者様に結婚を申し込むよ!!
「あのう……」
「ハッ!」
……意味が分からなくなってた。
侍女の方が心配そうに見てる。室内を見れば金の話になった途端つまんなさそうにしている勇者様と心配そうにこちらを見てる侍女さん。
大丈夫まだ俺は普通だと思うものの先ほどの異様なまでの取り乱し様に狼狽えてしまう。
「勇者様、勇者様には興味のない事なんでしょうが、こちらとしては非常に大変な事なんです」
「そう言われてもねぇ。だって、アタシこっちに来たくて来た訳じゃないし、大事な話してたのよ? それなのにねぇ、旅に出ろですって? どうしてアタシが? って感じなのよねぇ」
やっぱり嫌がらせ目的か! とは思うものの確かにこちらが無理言っておいでいただいたのだこちらが意を汲むべきかもしれない。
「そうですよね。すみません上にもう少し予算を割けないか聞いてみます」
「あら、本当? 助かるわぁ。じゃあ、あなたの頑張りに免じてアタシも頑張っちゃおっと!」
「ありがとうございます」
彼が彼女はただの浪費家と気付くまであと少し。
「勇者ー!!」