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侍女の場合

「さあ、はやくしないと勇者様が来ちゃうわよ!」

「はい!」

「お召し物はどうする?」


 同僚の一人が何枚かのシャツを持ったまま困ったように言う。


「確か勇者様は体格のよろしい方だと伺っているわ」

「なら、大きめのものでいいかしら」


 そう言って彼女は王宮内では質素な、街へ行けば一目で高価な物だと分かるような男性用の上着をいくつか持ち上げた。


「そうね。ああ、もしかしたら勇者様はお腹が空いているかもしれないから厨房に行って用意するように言っといてくれない?」

「分かったわ」


 今回勇者様付きになった侍女は私を含め三人。皆気立てが良くてしっかりしている者たちが選ばれた。

 そんな私は、三人しかいないけど勇者様付きのまとめ役。少し前に勇者様が召喚されたと連絡が入り慌ただしく最終確認をしている。

 侍従から窓は大きく開け放つようにとは言われているが、正直風があるのであまり開けたくはないだけど、そうも言ってられないわよの。一応上司だし。

 そうやって慌ただしく過ごしているとアラン様とセオストロ様がやってきた。

 お二人揃って見られる事はあまりなく。滅多にない機会に私たちは色めき立ったが、肝心の勇者様はどちらにいらっしゃるのだろうか?


「あーん。ちょっと待ってよぉー。二人共歩くのはやーい!」


 ?

 今のは? 私よりも色めき立っていた二人も今の不思議な声に怪訝そうな顔をした。男よね? でも喋り方は女性のような? アラン様とセオストロ様をちらりと見れば、お二人共涼し気な顔をして立っていたので、一瞬今の声は空耳だったのかと思った時にその方は現れた。

 頭がくらくらするようなねっとりとした濃厚な香りに包まれた大柄な男性? その人の服は見た事もない上に、この国の女性ならいや、もしかしたら男性もかもしれない眉をしかめられそうな程丈の短い衣装をお召になっている。

 もしかしたらこの方が勇者様なのだろうか?

はあの濃い化粧を落としたくて仕方がない。化粧落としなんて誰か用意しているかしら?

 そこで、勇者様が羽織っている毛皮が目に入った。あの毛皮なんの生き物の毛皮かしら? 触ったらとっても気持ちよさそうよね。勇者様にお願いしたら触らせてくれないかしら?


「今日から勇者様のお世話係となりました者たちです。城内で困った事がありましたらこの者たちにお尋ねします」

「分かったわ」

「よろしくお願いします勇者様」


 同僚と一緒に頭を下げれば勇者様が目の前に立った。


「あんたたち地味ね」

「は?」


 はて? この格好は城から支給された淡い水色の制服だけれども、街じゃ可愛いと評判なんだけど。髪はこれから勇者様の入浴のお手伝いをしなければいけないから引っ詰めていたのが悪かったのかもしれない。


「……勇者様お疲れでしょうからこちらで先に湯浴みの用意が出来ていますので」


 顔は引きつってなかっただろうか。私だって女の端くれ地味と言われてキズつかない訳ない。

 だけど、そんな私を気にした風もなく勇者様が何か言おうとしたが無理やり浴室に勇者様を押し込んだ。

 そして残ったアレン様とセオストロ様をキッと睨んだ。


「いや、あの、すまない」

「あの方は俺らとは違う世界の人間だ。こちらの常識は追々教えていくから今日のところはどうか抑えてくれ」

「ねぇー! これどうやって使うのぉー? シャワーからお湯出ないんだけどー! これってかけ湯? かけ湯なのぉ?」


 アレン様とセオストロ様が何か言っていらしたけれど、それより勇者様が呼んでいる。もう一度お二人を睨んでから勇者様に浴室に向かい設備の説明をさせていただいたのだけれども勇者様はあのお二方のどちらかに来て欲しかったとのたまいやがった。

 先ほど地味と言われた事にカチンときてたこともありつい勇者様に乱暴な口調になってしまった事は否めないけれど、まさかそんな些細な事で逆襲されるとは思ってもみなかった。


「……今なんと?」

「だからぁ、そんなダサいの着たくないって言ってんの! もっと可愛いの持ってきてくんなきゃ嫌よ」


 確かに勇者様の好みが分からずにいくつか服を用意させていただいたけれども、それを全部可愛くないの一言でばっさりと切り捨てられてしまった。


「ではどのようなものがよろしいでしょうか?」

「そうねぇ……色はなるべく派手なのがいいかしら? それにせっかく異世界に来たんだからこちらのドレスが着てみたいわ! お願いできる?」


 勇者様が色々注文を付けている声がどこか遠くで聞こえる。

 いや、ドレスってあんた……。一緒に働いている二人も絶句。

 勇者様がお風呂に入ってる隙に持ってきた化粧落としで塗りたくった化粧を落とした勇者様のお顔はどっからどう見てもおっさんだった。

こちらの人よりも印象に残らないような良く言えばこざっぱりとした悪く言えばのっぺりとした顔をしている。

 そんな勇者様がドレスを着たい……。


「ええっと、勇者様、申し訳ございませんが勇者様は……男性ですよね?」


 何かの間違い……いや、勇者様は確かせっかくの異世界とおっしゃっていた。なら、いつもとは違う自分を演出してみたいとかかもしれない。

 だとしたら、ドレスを用意した方が? いや、待て私。城内どころか国内にも勇者様の体格に合わせたドレスなんてないはず。今から仕立てたとしても何日か掛かるわ。


「男?」

「ひっ! すみません。なんでもありませんわ!」


 頭の中であれこれと考えていたら先ほどまでの高い声とは違いもの凄く低い声ですごまれ引きつったような声が漏れ素早く謝った。


「あら、そう。それから化粧水と乳液持ってきてくんない? 流石にこの歳になると若い頃のようにはいかないのよね〜」

「はい!」


 とりあえず、勇者様にはドレスを作るとなると時間が掛かるのでその間は普通の服を着て欲しいと説得に説得を重ねなんとか了承してもらえたが、すこぶるてこずったので賃金上乗せを交渉してこようと思います。

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