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兵士の場合

「えっ! 本当ですか?!」

「ああ、頑張ってくれ」

「はい!」


 やったぞ! 俺はこの国の兵士になって数年キツい訓練にも耐えて、ついに大役をもらえた!

 それも、勇者様を召喚する儀式の間を守るという、数百年に一度あるかないかというようなものすごく重大な任務。

 これが浮かれるなって方がおかしいくらい重大な任務だ。ああ、でも、こんなに浮かれていたらアラン様に怒られてしまう。

 アラン様は今回召喚される勇者様と一緒に魔王討伐に向かわれる由緒正しき騎士の家系の方で、御自身も騎士として優秀な方で王の覚えもめでたく近々第三王女様との御婚約も、と噂されている。見た目も家柄も良くて完璧な婚約者までとなったら男の敵となっても良さそうなのに人望まであるんだから全くもって羨ましい方だ。

 当然アラン様も召喚の儀式に立ち合うし、絶対に手を抜けないと思っていた時期もありました。



―――



「ちょっとぉ、ここどこなのよぉアタシ大事な話してたのよ!?」


 ……あれは一体? ええっと、俺たちは勇者様を召喚する為に城の地下にある召喚陣のある部屋で魔術師たちが召喚陣を起動させる為に後ろで待機していて、魔術師たちが魔力を流したまでは普通だった。

 だから、現れたのは勇者様で間違いないのだろう。だろうが、何故だろうアレを勇者様とお呼びしたくはない。俺以外にも現れたアレに動揺した奴が多いのか、地下室内はざわめきと先程までのカビ臭い匂いとは違った甘ったるいような、けれどそれにしてはキツいような匂いが充満していて正直ちょっといや、かなりキツいが、根性で我慢する。

 とりあえず現れた奴の説明でもしようかな。そうでもしないと落ち着けそうもないし。

 あれは多分勇者様(?)で仕留めた獲物、しかもかなり大物の獲物と見える獣の毛皮を肩から羽織り、逞しそうな体を覆っていて、かなりの実力がありそうだ。確か前回来た勇者様は強かったけれど、弱そうな15、6才くらいの子供だったそうだから上はかなり不安そうにしてたとか文献に残っていたとか、今回、俺を作戦に参加させてくれた隊長が言っていたから体格だけならばあの勇者様に上は文句はないだろうが見た目がなぁ。

 そして勇者様の脚の網はなんだろうか? 猟をする時に間違って嵌ってしまてのだろうか? いや、嵌ったのならば靴の中には網が入んないよな。慌てて履いたとかか? 網を?

 それにしても、勇者様の脚の網の下から絡まった脛毛が見えて少々、いや、かなりげんなりしてしまい、気力が下がりそうになったが、俺はこの国の兵士だと奮い立たせ勇者様の顔を見てうっと小さく呻いた。 服はキラキラした刺繍が縫われてるのはまだいい。丈がやたら短く脚は隠して欲しかったなと思わず遠い目になってしまったが、それはまあ視界に入れなければ問題ない。……うん。そうだよそれが勇者様の国の服なんだから多分変じゃないんだよ。だけれどもだけれどあの顔は一体なんなんだろうか?

 厚く塗りたくられた化粧? 化粧なんだよな? 仮面じゃないよな? いや、あんな気持ち悪い仮面あったら作った奴絶好殴る。厚く塗り過ぎたであろう化粧に勇者様の本来の顔が全く想像出来ないんだけど……一体勇者様はどうしてあのような珍妙な化粧を施す必要があったんだ?

 うーん。声と体格からすると男なんだろうけど、化粧してるからもしかして女性とか? いや、でも、あれが女だったら泣く。

 やたらとクネクネと動いて気持ち悪い。あれは特殊な魔物を誘き寄せる為の儀式の途中で呼び出してしまったとかだろうか? だとしたらその魔物がここに現れたりするんじゃないのか? 大丈夫なのか?

 しかし、あんなに厚く化粧をする必要がある魔物って何だ? 思いつかない。

 そして、勇者様が来てから不可思議な匂いが充満しているからか気分が悪くなって来た連中がちらほらと顔色を悪くしてぐったりとしている。正直俺も限界だ。

 一旦この場所を離れて別室で勇者様に説明なりなんなりして俺や体調が悪くなっている連中を休ませてくれと進言しようとした時に空気を読まない魔術師の一人が叫んだ。


「あ、あの、あなた様は勇者様であらせられますか?!」


 そいつはキツい匂いに鼻を摘み涙目になりながらも恐る恐るといった体で聞いた。が、体調が悪くなりつつある奴らからしたら馬鹿かお前は!!

 俺たちを休ませろ!! 何考えてやがるんだ!!


「え?!」


 ああー。

 どうすんだよ話終わらないのかよ。


「突然お呼びだてしてしまい大変失礼致しました。私は勇者様とご一緒に魔王討伐の旅に出る予定の魔術師のセオストロと言います。勇者様にも色々とおっしゃりたい事はあると思いますが、ここではなんですのでよろしければ別室でご説明させていただけないでしょうか」


 セオストロ様!! あんたは神か!

 アラン様と違いセオストロ様は平民出身なんだが、平民にしては高い魔力を保有し非常に優秀な方で、若干18才ながらも魔術師の中でも次期魔術師長になるのではと噂されている方だが、魔術師長になるには若すぎるとの声も上がっていて、アラン様と同じくらい有名で今回の魔王討伐へアラン様と勇者様の旅の仲間として行くからと勇者様召喚の儀を指揮を行った出世頭だ。

 どこかの貴族の庶子なのではないかと噂になった事もあったが、本人はそれを完全否定している。 そんなセオストロ様が俺たちの危機を救ってくれるだなんて……!

 多分この場に居る殆どの奴がセオストロ様のお姿に後光がさして見えていただろうぐらいありがたい助言だ。

 セオストロ様の言葉に扉近くに居た奴がサッと扉を開けると新鮮な空気が差し込み思わずホッと息が溢れた。

 勇者様はしばらくセオストロ様の顔を見て、室内の面子を見て俺の方へ歩いてきた。

 って、俺?! 俺なんかしたか?! 勇者様が召喚されてからの事を振り返ってみたが思い当たる節がない。強いて言うなら脳内で色々と考えていただけだけど、まさか顔に出てたとか?!

 そうこうしてる内に俺の周りから人が居なくなって俺を中心にぽっかりとした空間が出来上がっていた。

 ヤバい! なんか分からないけど今逃げなきゃ一生後悔する気がする。今更だが、俺も逃げた方がいいんじゃないのかとようやく思考が追い付いた時にはキツい匂いの勇者様が目の前に立って居た。


「あ、あの……?」


 セオストロ様の困惑したような顔と自分じゃなくて良かったとホッとした顔の奴らに今笑った奴らは後で後悔させてやると決め一人一人の顔を睨みつけたとき勇者様が口を開いた。


「あああぁん! 何よこの子!! めちゃくちゃタイプなんですけど!」

「へ?」

「声も良いわぁ! 可愛くて食べちゃいたい!」


 !! 勇者様だと思ったが、魔物の類いだったのか?!

 慌てて抜剣すれば魔物はきょとんとした顔をして俺を見ていた。そして、今回警備に就くようにと言われた奴らも俺とおんなじように抜剣していたが、何故かアラン様は抜剣していなかった。


「なぁに? どうしたのぉ?」

「うるさい魔物! 人間の言葉を喋るな!」


 早く倒さなければと気は焦るもののキツい匂いに足元がふらつく。


「止めなさい! この方は正真正銘の勇者様だ!!」


「しかしセオストロ様! こやつは今俺の事を食べると!!」

「あの召喚陣は勇者を呼び出す為のものです! 決して魔物を呼び出す為のものではない! これ以上の狼藉は我ら魔術師に対して敵意ありと見做しますが?」

「……申し訳ありません」


 セオストロ様の迫力に剣を手にしていた者たちは剣を下ろした。


「あらん? アタシ何か勘違いさせちゃったのぉ〜? ごめんなさいねぇ」

「いえ、お気になさいませんように。勇者様がこの者を気に入ったというならばこの者を護衛に付けますが」

「護衛?! いやん! なんだかアタシ超重要人物?? 店の皆が知ったらあんたの顔どっちかって言ったらモンスターじゃないのって爆笑されちゃうわぁ」


 セオストロ様の無情な言葉にくらりと目眩がした。

 勇者様がおっしゃっている事は全く分からないが、これからもこの変な勇者様と顔を合わせなくてはいけなくなった事だけは分かった。

 同僚たちから不憫そうな目が向けられているが、変わってやろうというような奴は居なかった。

 俺が、がっくりと肩を落としてるとアラン様が来て「さっさと歩け」と冷たい声音に絞首台に向かう囚人のような気持ちになる。

 途中勇者様から「よろしくねん」と片目を瞑って挨拶されたけれど、今の俺からしたら本当に残念で仕方がない。

 いや、待てよ。勇者様は強い。強いならば俺にもっと強くなる方法を教えてくれるかもしれない。


「勇者様、その毛皮は」

「ああ、これ? かったのよ。めちゃくちゃ高かったんだけどねぇブランドのだから触り心地もいいしローン組んじゃったけど、やっぱりかって正解だったわ」

「狩ったんですか?!」


 ブランドと言う名前の魔物か。聞いた事ない魔物だが異世界の魔物ならば聞き覚えがなくて当然か。


「それは大変でしたね」

「そうなの大変だったのぉ」


 そこでふと気付いた。


「あの、失礼ですが勇者様武器の類は?」

「へ? 武器?」


 きょとんとした勇者様に思わず目を見開く。

 まさかこの大きな毛皮の主を素手で?! すげぇ!


「勇者様とりあえずこちらの部屋に」


 アラン様が勇者様を呼んだので話はそこまでしか出来なかったが、セオストロ様の図らいで勇者様の護衛になったんだ。これから時間はたっぷりあるんだし勇者様に強さの秘訣を教えてもらえる時間だっていっぱいあるさ。

兵士のターン勇者にちゅーされて終了にしようと思ってたのによくある勘違いものに……

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