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ファイナル・コンティニュー  作者: かんな らね
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02 FIRST CONTINUE(その2)


「で? アンタがマネージャーなわけ?」

 芹歌がこの世の終わりみたいな表情をオレに向ける。

「しょうがないだろ」

「しょうがないでマネージャーを引き受けないでくれる? 全く」

「…………」

 正論すぎて言い返せん。教室は小道具や衣装係が占領しているので、オレは芹歌と屋上で秋風に吹かれている。十一月のワリに今年は結構暖かい。ブレザーを羽織っていればまだ全然寒さは感じない。

「取り敢えずセットリスト見せて」

「おっおう」

 手を伸ばして芹歌にレポート用紙を渡そうとしたら、僅かに指先が触れてしまった。

「きゃっ」

「あっ、ワリィ」

 そんなに嫌がらなくても良いじゃないか。オレも手を引こうとしたが、それじゃあレポート用紙が渡せないし、そのままレポート用紙を差し出し続ける。芹歌もその様子を見てしぶしぶとレポート用紙を受け取る。レポートに目を通すと、太陽の光のせいもあって芹歌の長い睫毛がより強調され、濃い影を落とす。マッチ棒も乗りそうだな。

 勿論つけ睫毛でもないし、見たところこの学園に入ってからはノーメイクで通しているようだ。ということは、このバサバサしているのは自睫毛なのか。すっぴんでも恐ろしいほど可愛いじゃないか。畜生。

「何、ジロジロ見てんのよ」

「見てねぇよ」

 嗚呼、これで性格も可愛かったらどれほど良かったことだろうか。

「ふぅん。まぁいいわ。それで、このセットリストは颯人が考えたの?」

 相変わらず書類に目を落としながら芹歌が尋ねてくる。

「ああ。なんか変だったか?」

「いいえ。……えっと、そうね。ある意味変かもしれないわ」

「えっ?」

 曲の順番もトークのタイミングもかなり考えて作ったんだが。やっぱりプロの目には適わないのか……と、少々心配になり芹歌を見つめると、芹歌がばっと顔を上げた。

「凄く良く出来ているわ」

「だからってそんなに怒るなよ、オレだって一生懸命……って、凄く良く出来てる?」

「そう言ってるでしょ。このままツアーで使いたいくらいよ」

「お世辞か?」

「どうしてあたしがアンタなんかにお世辞言わなきゃいけないのよ。それにしても颯人、あたしの曲聴いたことあるでしょ?」

「まぁ、あんだけ売れてりゃあな」

「そんなにわかな聴き方でこんなセットリスト作れないわよ」

「しつこいな、オレは作れるんだよ」

「へぇ、あくまでも認めないつもりね。いいわ。文化祭までにあたしの歌、しっかりと聴いてファンだって認めさせてあげるわ」

 まるで雑誌の表紙みたいに完璧なポージングでビシッと指さされる。

「えっ……」

 僅かに、そう、本当に僅かにだけど、その口元が微笑んでいて、憎まれ口を叩くことはおろか、目を逸らすことすら出来なかった。



「今日はカレー二日目だ。やっぱりカレーは一日置いたほうが美味いな。だがシチューは作った当日のほうが美味いっていうのが不思議でならないよな」

 仁夜先生の昨日の晩御飯トークで十一月六日、火曜日が始まった。

 オレも丁度同じことを疑問に思っていたので、うんうんと頷きながら仁夜トークを珍しくちゃんと聞いてしまった。本当に不思議だよな。ハヤシライスとかはどうなんだろう?


 午前中の授業はあっという間に終わり、午後からは今日も準備。今日はこれから衣装係との打ち合わせだ。何点かのデザイン画を見せてくれるらしい。

 教室の片隅にオレと芹歌と衣装チーム三名が集まる。確か衣装チームのリーダーを務める浅野典子は超立体脳ソリッド・ブレインという能力を持っている。服だけじゃなくて、あみぐるみやバッグなど小物も含めて何でもデザイン画を見て、そのイメージ通りに物凄く素早く作れるという能力だ。だからこんなにギリギリのタイミングで衣装の打ち合わせでも間に合うのだ。芹歌もその辺のことは軽く聞いているらしいので、慌てた様子はない。因みに他の鈴原香菜と石田雪乃はデザイン系の能力者だ。超色彩感覚スーパーカラー完全美的感覚パーフェクトイメージを持っている。

「私たちで芹歌ちゃんのイメージを表現してみたんだけど、どうかな?」

「わぁ、素敵ね」

「すげー」

 色とりどりのデザイン画が机に広げられる。キュートだったり、シックだったり、様々なデザインでどれも芹歌に似合いそうだ。本当は全部着たところを見たいが、衣装を着替える余裕はないので、基本一着にしないといけない。後はマントとか他の小物で変化を付ける予定だ。しかし、どれも凄く良くて、芹歌も決めかねているようだ。そんな様子を見て衣装チームリーダーの典子がオレに視線を向ける。

「ねぇ、一刻いっときくんはどれが良い?」

「はっ?」

 急に話をふられて困ってしまう。正直全部着て欲しいけど……一着で芹歌の幅広い楽曲にマッチさせることを考えると、

「これかな」

 服のラインは基本シンプルで、スカートの部分が幾重ものフリルになったミニワンピースを指差す。

「って、芹歌もか」

 丁度、オレが指差すのと同じタイミングで、芹歌も同じデザイン画を指差した。互いの人差し指がほんの少し触れる。てっきり昨日みたいに避けられるかと思ったけど、そうはならなかった。

「あたし、颯人がこれを選ぶって知ってた気がする」

「え?」

「もしかしたら、芹歌さんの能力は予知能力プレコグニションかも知れないですね」

「うわっ、優樹!? 何だその紙束は? それに翔太まで」

 いきなりオレの背後から声が聞こえたので振り返ると、二人のルームメイトが書類束を抱えながら立っていた。

「だから超多忙なんですってば。これは各クラスの申請資料です」

「で、俺は優秀な右腕としてスカウトされたのさ」

 ふっふっふと翔太が得意げにふんぞりがえると、

「うわっ!」

バサバサと悲しげな音とともに書類が散らばる。

「「あ~」」

 オレも芹歌も呆れた声しか出ない。

「全く、翔太は。何が右腕ですか。サボりすぎてみんなに怒られてたからこっちの手伝いをさせる口実で連れ出してあげただけですよ。ちゃんと働いてくださいね」

「うぐっ、あっちで女子に叱られている方が楽だったかもしれない」

「えっと、話を遮っちゃってごめんね。あたしの能力って予知能力なの?」

 いつも通りのバカ話を繰り広げるオレたちの会話を、芹歌が遠慮がちに遮る。

「え? ああ、確証があるわけじゃないですよ。ただ、いくつかか不思議な点があったので、芹歌さんの能力が予知能力なら理由が説明できると思っただけなんですよ」

 優樹が書類を空いた机に置きながら答える。どうやらもう少し詳しい質問を求められると考えたようだ。案の定、芹歌は少し悩んでから次の質問を始めた。

「例えば?」

「そうですね、どうして転校初日から颯人の名前を知っていたんですか?」

「あっ……」

 芹歌が短く声を上げる。確かにそれはオレも気になっていた。まぁ、日常に流されてすっかり忘れかけていたんだが。

「それに、颯人は何かと芹歌さんと一緒に居ること多いですよね、何か心当たりとかありませんか?」

「ああ、そう言えば」

 言われてみれば思い当たる節はいくつかある。

「さっき優樹が言った、転校初日からオレの名前を知ってたし、喧嘩に巻き込まれて屋上に行こうとしたら、それも知っていたみたいだし。それに、今だってオレがどの衣装を選ぶか分かってたんだろ?」

「えっ……ええ」

 頷く芹歌自身、思い当たるフシが他にも多々あるのだろう。

「まぁ、能力はいずれ分かるだろうし、僕が言った予知能力も可能性の一つくらいに思っておいてください」

 急な話に困惑する芹歌に優樹が優しく微笑みかける。くっ、イケメンは笑顔で他人を安心させられるのかよ。オレなんて微笑んでみろ。女子供なら泣き出すぞ。



 そんなこんなで文化祭準備期間はあっという間に過ぎていって、いよいよ本番当日。舞台袖で忙しそうに駆けまわるクラスメイトを横目に、芹歌と並んで座る。上手くスケジューリングできたので、リハも何回か行った。だけど、なんと芹歌はラストのBLUE ROSEを一回も歌わなかった。

「芹歌、BLUE ROSEはリハしなくて良いのか?」

「うん。この歌は特別だから」

「やっぱりデビュー曲だからか?」

「それもあるけど……。今、市販されているあたしの歌の中でこれだけなの。作詞も作曲も自分でしたのは」

 確かに二曲目からはよりアイドル路線が強調されて、曲もポップなものへと変化している。たまに作詞で芹歌の名前は見かけるけど、ほとんどは著名の作詞家や作曲家に手がけられている。

「この曲は一番気持ちが高まった時、そのまんまの気持ちで歌いたいの」

「そっか……。良い曲だもんな。オレも一番好きな曲だ」

「やっぱり、ちゃんと聴いてるんじゃない」

「えっ、あっ、ちがっ……。ゴホン。よくテレビで流れていたからな」

「ふぅん。結構往生際が悪いのね」

「何とでも言え」

 気まずくなって思わずソッポを向く。くそっ、やっぱりファンだってバレてるのか。でも、今更ほいほい認められないし。かといって全然興味ないとか心にもないことを言うわけにもいかないし……。などと、柄にもなく葛藤していると、

「ぷっ、くすくす」

芹歌が急に笑い出した。

「何だよ?」

「だって颯人、子供みたい。あははははは」

 何やら歌姫様のツボに入ってしまったらしい。ってか、こいつが馬鹿にした笑いではあるが、オレにこんなにはっきりと笑顔を向けたのって初めてじゃねぇか? 笑いすぎて目尻に溜まった涙を拭うその仕草すら可愛いから質が悪い。

「ほら、そろそろ時間だぞ」

 絶対に顔が赤くなっていると思うので、ぶっきらぼうに壁の時計を指差す。

「あっ、そうね。じゃあ手、貸して」

「手?」

 コイツ何言ってるんだ? 恥ずかしさでオレを殺す気か?

「円陣組むのよ。ほら、他のみんなも」

 周りのバンドメンバーやスタッフにも声をかけて、あっという間に大きな円陣が出来る。

「あれ? 翔太は?」

 優樹がキョロキョロと辺りを見渡す。当日は舞台袖で飲み物とか用意する係だった筈の翔太が見当たらない。

「んじゃ、美空にでも代わってもらえば……って、美空は照明係か」

 きっともう体育館二階の端っこでスタンバってるんだろう。ここにはいない。

「まぁ、水なんてペットボトルの二、三本置いておいてくれれば良いわ」

 急なトラブルに周りが慌て出す前に芹歌が頼もしく微笑む。そんな様子に流石プロだなぁと感心してしまう。その時、慌ただしくクラスメイトの一人が駆けつけてきた。

「おい、どうしたんだ? そんなに慌てて」

 芹歌が一度円陣を解いたので、クラスメイトに問いかける。だけど、よっぽど急いできたんだろう。息が上がっていて上手く喋られないみたいだ。

「これ、飲んで」

 芹歌が自分の脇に積んであるミネラルウォーターのボトルをクラスメイトに手渡す。

「ぜぇぜぇ。サンキュ。……そんで、誰か手、空いてねぇ?」

「どうした?」

「裏方で人手が足りないんだよ」

 この慌て様からして、相当ヤバイんだろう。

「……じゃっ、じゃあ、オレが……」

 どうせマネージャーなんて舞台が始まったらあんまりすることもないだろうし、裏方手伝いに立候補しようとしたその時、

「よし、浅野、行ってやれ」

 仁夜先生がオレの言葉に被せながら舞台袖に現れた。

「え? 私ですか?」

「だって、衣装係ってもう仕事無いだろ? 手伝ってやれ」

 いつも生徒に勝手にさせている仁夜先生だが、本番直前で時間がないこともあってか。テキパキと指示を出していく。こういう姿を見ると、いつもヌボーっとしているけど、やっぱり先生なんだなぁとしみじみ思う。結局、裏方も何とかなりそうだし、再び円陣を組む。芹歌が深呼吸してからよく通る声を張り上げる。

「よし、気合入れてくぞ~!」

「「「おおーーーっ!!!」」」

 それに合わせて、他のメンバーも声を張り上げる。よし、きっと成功する。

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