00 POWER ON~01 PRESS START
こんにちは、かんならねと申します。
今日から新作をアップしていきます。
この作品も、前作同様、完成したものを5,000位で区切ってアップしていきます。
一応、毎日更新予定です。
タイムリープやループ物が好きすぎて自分でも書いてみたという作品です。
良かったら、お付き合いくださいませ。
ほかの完結済み作品も見て貰えると、嬉しいです♪
↓ ↓ ↓
デルタ・スクランブル
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2016/11/13完結
その勇者、盗賊につき
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SSS ~スペシャル・スペース・スペクタクル~
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時空交差点~フタリノキョリ~
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00 POWER ON
外壁を覆う幾重ものトタンと端材。周囲の廃屋同様表札も何も無い。こんな場所に人が居るなんて、そして何を作っているかなんて、たった二人の住民たちしか知らない筈だった。
「何でここがバレたんだ? こんなタイミングで来るなんて!」
ベニヤの隙間から外の様子を伺っていた青年が舌打ちをする。ボロボロのベニヤの内側は、不釣り合いなほど立派な防弾ガラスと強化ブロックで守られた空間だ。直ぐにはこの施設内に侵入できないだろう。だが、あくまで直ぐにはというだけだ。このまま籠城していてもやがて降伏を余儀なくされることは想像に難くない。
「多分、奴らは知ってたんですよ。今日僕等がこれを完成させるって」
部屋の中心で青ざめながらも先程完成させたばかりの機械を操作する親友が、青年の疑問に仮説で答える。
「って、お前は何をしてるんだ?」
武器を用意しようと振り返った青年は親友の行動に声を荒げる。けれど、親友は相変わらず顔色は悪いものの落ち着いた表情で青年に向き合う。
「これを動かすんです」
「は? まだテストも何もしてないじゃねぇか!」
「それでも今、行くしかありません! 早く乗ってください!」
言い合いをする青年の耳に、地面を磨り潰すような重いタイヤの音が響く。恐る恐る隙間から覗くと旧式のキャタピラ戦車が視界の端に映る。
「くそっ、キャタピラじゃねぇか! あんなので突撃されたら強化ブロックなんてひとたまりもないぞ」
「揉めてる暇はありません。早く中へ!」
話し声が遮られるほどの爆音が鳴り響く。キャタピラの強引な突入によって建物入り口が破壊されたのだろう。間髪入れず、沢山の足音がどんどん近づいてくる。
「お前はどうするんだよ?」
「テスト無しの一発勝負です。確率を高める為にも誰かが外からも操作しないと。そして、その操作は僕のほうが正確です」
「だからって……」
「君と言い合いするの、これが最後なんて嫌ですよ」
親友は柔らかく微笑むと、その表情に似つかわしくない力強さで青年を大型機械の中へ放り込む。
「ちょっと待て!」
放り込まれた勢いで尻餅をついてしまう。そこへ軍靴を踏み鳴らしながら沢山の兵士が室内へ駆け込んでくる。
「いたぞ!」
「起動中だと!?」
「バカな。行かせてはダメだ!」
起動し始めた機械に驚いた兵士たちが火器を構えた瞬間、白い煙に包まれる。
「適当に作ったワリには良い煙幕ですね」
手榴弾型の煙幕を投げつけた親友が青年に微笑みかける。青年も身体を起こしながら微笑み返そうとしたその瞬間、
「――!」
親友の足に青い光が貫通した。
「ぐっ……」
親友が足を引きずりながら操作盤に向かう。親友が一番左のボタンを押すと、青年を乗せた機械の扉が閉まり始める。すぐさま操作を続ける親友が兵隊たちに拘束される。
「おい! やめろ! オレはもう誰も失いたくない!」
青年の叫びも虚しく、閉まり始めた扉は止まらない。完全に扉が閉まりきる直前に親友の声が響く。
「それは、僕だって同じです。だから行け! 行って全てを取り戻してこい!」
01 PRESS START
煌めくスポットライト、鳴り響く音楽。そして、何万人もの歓声。様々なパワーが渦巻く武道館の中心で彼女は歌っていた。全ての音楽が、全ての歓声が、彼女へと集約する。
――超人気アイドル歌手、月乃芹歌。
彼女は一年前に圧倒的な歌唱力で衝撃のデビューを果たした、今最も注目を集めるアイドル歌手だ。亜麻色の髪と意志の強そうな瞳が印象的な歌姫はオレと同い年。今年高校に進学したばかり。といっても、雑誌のインタビュー記事によると、多忙故に殆ど通えていないようだが。
「セリカー!」
この会場に辿り着くのにとてつもない倍率を潜り抜けなければならず、今この場に立てているだけでも幸運なのはオレ自身も痛感している。高校生になってから何度もコンサートへ応募したが、当選したのは今回が初めてだ。
そんな会場で、前から三列目。目の前で憧れの歌姫が熱唱しているこの状況で、興奮しないわけがない。オレ、一刻颯人もわずか数メートル先にいる歌姫の名前を叫び続ける。更に曲調に合わせてオレンジのサイリウムを振りまくり、歌姫の振り付けに合わせてその場で一緒に踊る。寮生活の中、ルームメイトにバレないようにこっそりアイドルの振り付けを練習するのは大変だったが、この会場での一体感に達成感を覚える。
連続したアップテンポな曲が終わり、照明が少し落ち着いたものに変わる。
それに合わせて歓声が少しずつ治まっていく。ただし、大声こそ上げていないが、決して観客の気持ちが下がってきたわけではない。次に始まる曲を予感した沸々と沸き起こる期待の空気が会場を包む。ゆっくりと間を置いて、前奏が始まる。
「この曲は……」
BLUE ROSE。
歌姫のデビュー曲。曲のタイトルに合わせ観客が皆、青いサイリウムを掲げる。最近はアイドル路線がより強調されたアップテンポでポップな曲が多いが、デビュー曲はバラードだ。最近の曲も勿論好きだが、オレはこのデビュー曲が一番好きだ。
BLUE ROSE
何も持たず
何も得られず
うずくまっていたあの日
たった一つ見つけた
それが、そう、歌うこと
たったそれだけ
でも、それだけで
世界は色を持つ
不可能を可能に変えて、咲き誇る
青い薔薇
奇跡の名前を持ち、咲き誇る
青い薔薇
連れて行って
奇跡の向こう側
そう、貴方と
「…………」
オレは青いサイリウムを握りしめながら、一番好きな歌を聞き入ることしか出来ない。
青い薔薇。それはオレにとっては特別な意味を持つ言葉。どちらかと言うと嫌いだった言葉だが、月乃芹歌の歌を聞いてからは好きになった。可愛らしい外見からは想像もつかないほどパワフルな歌声。曲の盛り上がりも最高潮。一気にラストのサビへと差し掛かろうとしたその時、
「きゃっ!」
小さな驚く声が聞こえた。それは歌姫が発した声。ほんの一瞬だったから、殆ど誰も気づかなかったようだ。しかし次の瞬間、会場が一層大きな歓声に包まれる。
『すげー!』
『曲に合わせて青く光ってるわ!』
『どういう仕組みなんだ?』
僅かな悲鳴の後、突如歌姫の身体が青く輝き始めた。
最初は照明の演出に見えたが、照明の加減が変わっても、彼女の身体は輝き続ける。周りの観客はすごい演出だと大歓喜だが、オレは思わずサイリウムを落としてしまった。
光った時、彼女は驚いた声を上げ、そして周りを見渡した。つまり、意図した演出では無かったのだ。可愛らしい容姿故に見た目から入るファンも少なくないが、彼女はあくまでも歌に対して真摯である。よっぽどのことが起こったから、歌の途中で悲鳴を上げてしまったのだろう。
曲はそのまま流れ続け、彼女は光ったことなんて気にも留めないふうに歌い続ける。でも、オレはそんな平然の中にも不安がにじみ出ている彼女の瞳から、目が離せなかった。
「まさか、青い薔薇……」
「あっあの、落ちましたよ」
呆然とステージを見つめるオレの袖を、小さな手が引っ張る。ファン層は広いと思っていたけど、こんな小学校低学年くらいの子供まで見に来ているんだな。
「ん?」
袖を引っ張る少女に視線を向けると、
「ひぃっ!」
まるでナマハゲにでも睨まれたように、少女の顔が強張る。すぐ隣にいた少女の母親がぎこちない微笑で会釈し、少女を肩に抱き、極力オレと距離を開ける。
「ったく」
呆れたように呟くと、少女の母親がビクッと肩を震わせてしまった。これ以上刺激しないよう、オレは無声音を心がけて溜息を吐いた。
全く、そこまで怯えることねぇだろう。こっちはほぼ無害な高校生だっつーの。
確かにオレ自身、自分の人相が良い方では無いことくらいは分かっている。ややタレ目だが、好戦的な輩と目が合うと十中八九喧嘩をふっかけられる、カタギに見えないと専らの評判な瞳。口は微笑もうとすると、筋肉が強張り、引きつったような笑みしか浮かべられない。しかも、それが他人から見ると、悪巧みしているように見えるらしい。声も数年前までは素晴らしいソプラノボイスだったのに、声変わりが完璧すぎて、同級生の中でもかなり低いほうだ。もう音楽の時間に主旋律を歌う機会は無いだろう。まぁ、元々主旋律担当じゃなかったけど。
所謂ヤンキーと誤解されがちなのだが、至って真面目ってほどじゃないけど、少なくともヤンキーよりは真面目くんたちのポジションに近いんじゃないかと思っている。
そんな感じで、このように誤解を受けやすい容姿については自覚がある。
っつーわけで、コンサートの帰りはマスクと、黒だと夜は困るので黄色のサングラス。それに、コンサート会場で買った月乃芹歌のロゴ付きキャップを目深に被り、極力目立たないように寮へと戻ることにした。
*
「颯人起きろ!」
コンサートの翌朝。月曜日の朝は可愛らしい幼馴染にでも起こしに来て欲しいところだが、残念ながら全寮制の学園に通うオレの視界に入るのは、同じ部屋でクラスメイトのドアップ。ギョロッと大きなつり目にとんがり気味の口元。それに、鳥の鶏冠のような一部だけ突出したヘアスタイル。見飽きた顔だ。
「なんだよ、翔太。オレのベッドによじ登ってくるなって言っただろ?」
「下から声かけても全然起きないからだろ」
並の人間なら涙目で逃げ出す程度の不機嫌な顔で不満を伝えるが、お調子者のこの友人は全く気にもせずに返答する。
小学校からの付き合いの向井田翔太が話して分かるタイプじゃないことは、オレも重々承知しているので、言葉ではなく数字で訴える作戦に変更する。本当は手だって布団から出したくないが、仕方ない。大きく溜息を吐いて枕元の時計を掲げてみせた。
「まだ、六時じゃないか。あと三〇分は寝られる~~」
「こいつ~~」
「翔太、ちょっと変わってください」
下からもう一人のルームメイトが翔太に呼びかけてきた。
「おう、優樹からも言ってやってくれよ」
「はいはい。よっこいしょっと。ほら颯人、起きてください」
「あと少ししたら起きるから、寝せろよ」
翔太に代わって二段ベッドの階段をよじ登ってきた桜井優樹が、名前の通り優しく声をかけてくる。こちらは翔太とは打って変わって、切れ長で涼しげな目元にスッと通った鼻。やや長い前髪がサラサラと揺れる正真正銘の美男子だ。だけど、こちらも小学校からの付き合い。すっかり見飽きた顔だ。というわけで、寝起きの悪さは専売特許とばかりにオレはもう一度布団に埋もれてしまう。付き合いが長いせいなのか、こいつらの性格のせいなのか、オレが凄んでも二人共全くビビリもしねぇ。優樹がやれやれと呟く。布団を被っていて見えないけど、多分いつも通り肩を竦めているのだろう。
「全く、月乃芹歌の引退会見終わっちゃいますよ」
――え? この優男、今、何つった? 誰が引退だって? いやいやいやいや、流石に聞き間違いだろう。
言葉が上手く出ないオレは、寝ぼけた頭を一気に覚醒させて布団から顔を出し、友人を見つめる。
「颯人が大好きな月乃芹歌が引退会見を……うわっ!」
聞き間違いじゃないことを理解したオレは、優樹の脇から強引にベッドを飛び降りる。大した高さではないけど、少し足が痺れてしまった。しかし、そんな瑣末なことに気を向けてはいられない。
「おっ、颯人やっと起きたか」
「どけ!」
テレビの前に座っていた翔太を押しのけて画面に食い入る。
流れていたのは朝のワイドショー。普段だったらペットの紹介コーナーの時間だが、放送内容が変更されたようだ。急ごしらえを感じさせるテロップには太ゴシック体の赤い文字でデカデカと、『超人気アイドル歌手、月乃芹歌が緊急引退会見!』と、打たれていた。
え? どういうことだよ? だって、昨日コンサートに行ったばかりなのに。
「どうして引退されるのですか?」
「学業に専念するためです。以前から本人の強い希望でしたので」
画面の向こうでマスコミからの質問に応えるのはマネージャーらしき女性。当の歌姫は唇を噛み締めて俯いている。
「では、昨日のコンサートでどうして発表されなかったのですか? 今後のツアーはどうされるのですか?」
「申し訳ありませんが、今後のツアーに関してはチケット代の返金にて対応させて頂きます。また、昨日のコンサートもかなりの倍率での入場になってしまったので、会場に入ることの出来なかったファンが大勢います。そういった事情により、全てのファンに同時に引退を発表したかったという意向もありまして、今回はこのような対応をさせて頂きました。ファンの皆様、そして関係者の皆様への連絡が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。この場をお借りして謝罪させて頂きます」
「月乃さんご本人のコメントを頂きたいのですが。学業が一段落したら復帰する意志はあるのですか?」
その言葉に、ずっと俯いていた歌姫が初めて顔を上げる。ステージで輝いていた昨日とは打って変わって真っ青な顔で発言者の方へ視線を向ける。
「直ぐにでも――」
「では、以上を持ちまして会見を終了させて頂きます!」
歌姫が喋り出すのに被せるように、マネージャーが大声で締めの挨拶を始める。歌姫は何か話したそうだったのに、舞台袖から何人もの大人が現れて彼女を強引に連れて行ってしまった。騒然とする引退会見の会場では同じような質問が繰り返され、やがて中継はスタジオへと戻ってしまった。
映像が切り替わってもオレは暫く動くことが出来なかった。
「颯人、ファンでしたもんね。驚いたんじゃないですか?」
コップにお茶を注ぎながら優樹が声をかけてきた。
「……ってか、何でファンだって……」
知っているんだ? という言葉はどうにか飲み込んだ。歌姫、月乃芹歌のファンはそれこそこの国中に溢れている。実はデビュー当初からのファンだったが、あまりのブレイクぶりからまるで流行に乗っかちゃっているみたいなのが嫌なので、ファンだということは一応秘密にしている。CDやその他のグッズだって引き出しにしまっているし、昨日のコンサートも寮から出る時と帰る時は、目立たないように黄色いサングラスにマスクという完璧な変装だったというのに……。
「ん? 颯人って誰かのファンなのか?」
どうやら、翔太の方は気づいてないみたいだ。オレの努力も五〇パーセントくらいは無駄にならずに済んだようだ。
「何でもないですよ。それより月乃芹歌が引退なんて、驚きましたね」
一応、優樹も翔太に進んでオレの趣味をバラすつもりは無いらしい。話題をテレビへ戻してくれる。翔太もあからさまに落ち込んだ顔で画面に視線を向け直す。
「学業専念の為、引退なんて言われているけど、ワイドショーじゃ電撃結婚でも有るんじゃないかって言われてるな」
「んなわけねーだろ!」
思わず大きな声を出してしまい、気まずい空気が流れる。
「……ワリィ。早く朝飯食いに行こうぜ。今行けば混まないだろ」
そんな気まずさを振り払うように、もう一度オレから口を開くと、ルームメイト二人も同意してくれた。
朝食は大好物のぶり大根だったが、今日は全く喉に通らなかった。