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彼が私をダメにします。  作者: 十帖
第二章
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そしてもう一度繋がるの、絆は

最終話になります。

 ホテル爆破事件から一週間、警視庁も警察庁の人間も不眠不休で働く日々が続いたらしい。レイと琴はというと、朔夜の父が経営する伽嶋病院へ搬送され入院することになった。


 琴は二日もすれば退院出来たが、無茶をしたレイは一週間たっても病室に縛りつけられ退屈しているようだった。


 そして今現在――――……レイの見舞いに病室へ足を運んだ琴は、ベッドにかけるレイと一緒に、怖い顔をした朔夜によってお説教を受けていた。


「どれだけ無茶をしたか分かっているのか?」


 朔夜は元々堅気に見えない容貌なので、眦を吊り上げた姿は泣き出しそうなほど怖い。林檎を剥く手を止め、琴は小動物のように震えた。それとは対照的に、レイは露骨に鬱陶しそうな顔をしていた。


「同じ説教を何度もして、飽きないんですか伽嶋。耳にタコが出来ます」


「ほお……?」


 朔夜の血管が切れそうになったところで、琴が


「ご、ごめんなさいサクちゃん……! 私たち反省してます……!」


 と謝った。


しかしレイがまだ何か朔夜に噛みつこうとしたので、琴はその口に林檎を突っこむ。


「美味しい。さすが琴だね」


 瑞々しい林檎を咀嚼して微笑みかけるレイに、琴は苦笑いを返した。それにしても……。


「サクちゃんに怒られたの初めてだー……」


 朔夜は基本的に琴に甘いので、怒鳴られたことがなかった琴は落ちこんだ。消沈する琴を見た朔夜は、流石に怒りすぎたと思ったのか決まりが悪そうに頭をかいた。


「こうやって怒れるのも、あの爆発からお前たちが無事に生きて帰ったからこそだな」


 火の海と化したホテルの外からただ無事を祈るしか出来なかった朔夜はひどくもどかしかったことだろう。レイとは違う意味で大切な人である朔夜に心配をかけたことを、琴は反省した。


「ありがとサクちゃん、心配してくれて。レイくんも感謝してるよ。ね?」


 レイの手を握って同意を求めれば、レイは面白くなさそうにそっぽを向いて「まあ、伽嶋には世話になりました」と言った。


 今回の件で一番迷惑をこうむったのは朔夜だ。しかし優しい彼は、琴とレイの繋がれた手に視線を落とし、切れ長の目を柔らかく細めた。


「……もうひやひやさせられるのはごめんだが、『絶対的な絆』を見られて良かった」


「あ……」


(そうだ……! 私とレイくんの絆……!)


「絆?」


 不可解そうに首を傾げるレイの手を、琴はますます強く握った。


 途切れたと思っていた絆は、細い糸一本で何とか繋がっていたのかもしれない。もしくは、切れた糸を結び直せたのかも。お互いの努力で。


そう思うと、今更再び懐へ舞い戻ってきた溢れんばかりの幸せを、琴は強く噛みしめた。


「――――うん。うん、サクちゃん。絶対的な絆だよ。見てて」


 きっとこの先も、困難は待ち受けている。その度にレイとすれ違ったり、衝突したり、別れ話に発展することもあるのだろう。


 それでも、そんな時には思い出そうと琴は心に決めた。レイを失うかもしれないと思った時の恐怖や、助けてくれた時の安心感。そして、今この手に感じる温もりを。




 朔夜が帰ると、再び二人きりになった。窓の外の木々は紅葉し、気持ちの良い秋晴れだが風は冷たく、冬の到来を知らせていた。


「琴」


 窓の外を眺めていた琴を、少し強張った声でレイが呼んだ。


「明日退院するんだ」


「本当? おめでとう。何時かな? 明日は学校だから――――……」


「学校が終わったら、病院に来るんじゃなく家で待っててほしい」


「……え……」


「僕たちの家で」


 退院してからここ一週間はずっと、朔夜の家に世話になっていた。琴が返事をせずにいると、レイは珍しく緊張した面持ちで言った。


「琴の両親には沢山謝って了承を得てる。後は琴さえよければだけど――――……また僕と一緒に住んでくれないかな」


「私……」


「あの日、琴に別れを告げた日――――……話しあおうとすることから、僕は逃げた。自信がなかったから。でも今は違う。これからは琴が不満に思っていることを直していくつもりだ。もちろん、譲れないこともある。分かり合えないことも。でも……今は琴と、分かり合えなかったっていう事実だって欲しいと思うんだ」


「レイくん……」


 伺いを立てるように、そっとレイの手が琴の頬に触れる。琴はその手に自分の手を重ね、茶目っけたっぷりに笑った。


「私、レイくんの家に帰るつもり満々だったんだけど、ダメかな? ……きゃっ! レイくん! 肋骨折れてるんだから安静にして……!」


 がばりと覆いかぶさるようにレイに抱きしめられ、琴はくすぐったそうな声を上げた。


 自分はお伽噺のお姫様ではなかった。だからハッピーエンドを迎えた後にも恋には続きがあって、好きなだけでは上手くいかないこともあると知った。場合によっては別れもあると泣いた。


 しかし、ぺたんこな後頭部がコンプレックスの小さな女の子はもういない。お姫様ではなかったが、今まさに好きな人に見合う大人になろうと自分を磨き、花開こうとしている琴の帰る場所はとっくに決まっていた。


 それから事件の後処理がひと段落し、離れていた時間を惜しむようにレイが琴をどろどろに甘やかし一人じゃ何も出来ないくらいダメな子にさせようとしたのは、また別のお話。


以上で二章は完結となります。途中一章を下げるなど勝手をしたにもかかわらず、ここまでお付き合いくださった方々には本当に感謝してもしたりません。ありがとうございます……!


三章については、現在連載中の「どスケベ妄想少女は思うところがあるらしい」が完結以降投稿を開始したいと予定しています。私生活がバタついているので、予定は未定ですが……(^^;)

なので、もしこっそり完結マークが外れていることがあれば「ああ、また更新を始めたんだな」と温かく見守っていただければ幸いです。もしかしたら番外編はひっそりと更新するかもしれませんが、とりあえずは完結とさせてください。ここまで琴とレイの物語を読んで下さった方々に最大の感謝を。ではまた^^

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