お会計させていただきます8
6と7の内容が被っていました。申し訳ありません。
お会計させていただきます7の方を変更しました。
「動くな! 金を出せ!」
いらっしゃいませの挨拶の途中で、来店されたお客様は持っていた物干し竿を私に突き付けながら叫んだ。
なんだろう……これ。ジーンズとワイシャツ着て、サングラスとニット帽を装着した長身のお兄さん……じゃなくてお姉さん? どっちにも見える珍客に、私は首を傾げた。
「おい、聞いてるのか? いいから金を出せ! ありったけだ!!」
「申し訳ありませんお客様。お金でしたら、あちらのATMコーナーでお引出しができますが」
「む、そうなのか? しかし、どうやって……」
「お持ちのクレジットカードを拝見してもよろしいでしょうか? ご利用可能でしたらご説明いたしますので」
「う、うむ、わかった……」
先ほどまでの威勢が消え、おとなしくなったお客様が懐から取り出したカードを受け取り、私は確認もせずお客様にそれを突き返した。
「申し訳ありません、ここでそのカードはご利用できません」
「何!? バカなことを言うな! 登録カードが使えない店など今時聞いたことがないぞ!」
「申し訳ありません、何分田舎のコンビニでして」
「田舎だろうとどこだろうとネットワークは広がっているはずだ!」
知らんがな。とはとても言えないので、とりあえず接客スマイルを崩さずに対応を続けることにしよう。
「ええい、使えないなら仕方がない! とにかく金を出せ! 後で倍にして返す!!」
「それはフラグですよお客様」
「いいから出せ! 私には今必要なのだ!」
物干し竿を再び私に突き付けるお客様に、私は笑顔を向けつつ、レジの中身を手早く確認する。
「二十万ほどしかありませんが……」
「それだけでいい! あるだけでいいから出せ!」
「わかりました。ですがお客様」
私は突き付けられている物干し竿から目を背けず、レジの確認ついでに取り出したそれを見せつけた。
「はん、何だその球体は?」
「はい、こちら元○玉と言いまして、当たると大変なことになる防犯グッズとなっております」
「元気○……だと?!」
「はい。当たるとそれはもう、この世のものとは思えないえぐいことがお客様の身に降りかかることとなりますが、よろしいでしょうか?」
「ば、バカな、やめろ! い、いや、○気玉とはあれだろ?! タツマの部屋の書物で読んだことがあるぞ! あんな奥義を貴様のような小娘が使えるはずが……チャージはどうした?!」
「じゃあ使いますね。さようなら」
「まままままま待て待てぇ!! 落ち着け、わかった、やめるから落ち着いてくれ!」
あんたが落ち着けと言いたいけど、とりあえず物干し竿をこちらに渡してもらってから、カラーボールを持った手を下げた。
「しまってくれないか、それ……」
「申し訳ありませんお客様。お客様は素手で泥棒の一人や二人、くびり殺せるくらい強そうなので、私も手放すことができないのです」
「だ、だが、もし爆発したらどうするんだ……? お前も、この店もただではすむまい!」
「この店を守るためです。もしいざその時となったら、お客様と刺し違える覚悟でしたから問題ありません。威力は抑えてあるので、そこまで被害は広がりません。ご心配なく」
心にも思っていないことを笑顔で告げると、お客様は顔を真っ青にして戦慄し始めた。
「こ、この小娘、只者ではない……!」
「時給三ケタで働くコンビニ店員ですが」
「嘘だ! タツマもそんなことを言って私をフルボッコにしたり、敵方の騎士団を壊滅させたんだ! ○気玉を持っている貴様がただの道具屋の娘であるはずがない!!」
涙目になって、「どうしよう、どうしよう」と途端に狼狽え始めたお客様を見て、ざまぁと思うこと半分、どうしたのかなと心配二割五分、どーでもいいけど鬱陶しいなという気持ちがもう二割五分という塩梅で、私は声をかけることにした。
「お客様、先ほどからお金を必要とされているようですが、何か事情があるのですか?」
「……ああ」
涙をぬぐい、目を潤ませながらもお客様は私の顔をしっかりと真正面から見据え、ガバッと頭を下げた。
「頼む! 助けてくれ! タツマが、タツマがあ!」
「……それで、先輩は私に碌な説明もせずに休憩室から引っ張り出してきた挙げ句、勝手に自転車こいで大上さんの家に行ったわけですか」
氷点下の目線で隣に立つ私を見上げる後輩ちゃんに、私はいたたまれない気持ちになって顔を逸らそうとするけど、回り込まれてしまった。
「ごめんって。だってあのお姉さん……じゃこの前のお姉さんとかぶっちゃうか」
「どーでもいいです。大上さんのハーレムリア充よりも、先輩が勝手に仕事ほっぽりだしていったことの説明をお願いします」
「あ、はい」
結局、男装だったお姉さんを愛用のママチャリの後ろに乗せて向かったところ、予想通り風邪をひいて寝込んでいるバカがいた。その隣でこの前のお姉さんが一生懸命看護しているのを見て、言いたかったことはひとまず飲み込み、持ってきた薬を飲ませてやることにした。
「うん、後はゆっくり休んでればすぐにぴんぴんした状態に戻るから」
「ありがとうございます……」
「すまない、とんでもない迷惑をかけてしまった……」
眠る阿呆を優しく見守る献身的なお姉さんと、縮こまってしゅんと正座する男装のお姉さんからお言葉をもらい、私は「いいよ」と手を軽く振って家を出ようとした。
「あ、待ってくれ!」
「はい?」
「その、あの……私が悪かった……だから、タツマやミューにはどうか今回の薬の請求はしないでくれ! 私が全部引き受けるから!」
一生懸命に私にそう頭を下げる男装のお姉さんに、私は肩をすくめて見せる。
「わかりました。では、薬や飲料、迷惑料込みで、二,二二八円ですね」
「二千……ッ?! わ、わかった……今すぐは無理だが、用意する」
「あれ、店員さん。そんなに安いんですか?」
「ミュー?! 二,二〇〇だぞ?! それを安いなんて……!」
「アイリス様、落ち着いてください。二,二〇〇は二,二〇〇でも、二,二〇〇トールちょっとですよ?」
「はぁ?! な、なんでそんなに薬が安いんだ?! 子どもの小遣いで買えるじゃないか!」
「そういうものです。あ、アイリス様のお小遣いから持ってきますので、ちょっと待っていてくださいね」
「お小遣い? え、ミュー、ちょっと待て。お小遣いってなんだお小遣いって!」
などと騒がしい男装お姉さんことアイリスさんを放っておいて、耳をピコピコさせたお姉さんから薬と体力回復のための飲料代を受け取り、私は今度こそ店に戻った。
「そして今に至るという訳よ」
「なるほど、わかりました。いろいろと言いたいことはありますし、店長にチクッてしまおうかとも思いましたが、まぁわかりました」
「弱みを握られた!?」
「握りました。さて、それでは商品の整理からお願いしますね」
「うぉぉ……」
「ところで、大上さんは何人連れ込んでいましたか」
「二人。荷物と部屋割りから見て後もう一人はいるはず」
「氏ねばいいのに」
「私もそう思う」
一緒に補充作業を行いながら、私と後輩ちゃんは頷き合うのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。