お会計させていただきます5
本当にお待たせいたしました。申し訳ありません。
「来たわよ!」
自動ドアを潜り抜けて、勝気な雰囲気のお客様がご来店された。
見た目は私よりも年下に見える、十代半ばくらいの女の子で、長く伸ばした髪の毛が照明を反射して大層眩しい、とてもとても可愛らしい顔立ちのお客様。
彼女は私を見つけるとふふんっ、と不敵に笑い、真っ直ぐこちらへ向かって―ずんずんと大股に速足で詰め寄ってきた。
「ねぇ、今日はアイツはいないのかしら?」
「今は少し席を外しておりますが、何か御用でしょうか?」
「いいえ、むしろ好都合ね!」
お客様のいうアイツこと後輩ちゃんは、現在休憩室でお昼寝でもしている頃だろう。起こすのは少し気が引けるので、特に用事がないならよかったけれど、にやりと悪い笑みを浮かべるお客様を見て、やっぱり起こしてこようかと頭の片隅で思ったりした。
嫌な予感がしながらも接客スマイルを崩さない私に、お客様はビシィッと指を突き付けてきた。
「アンタ、これからちょっと新作のゲームしてきなさい!」
「遠慮させていただきます」
間髪入れずに一蹴する私の反応など予想の範疇内なのか、お客様は笑みをさらに濃くする。
「大丈夫大丈夫。お仕事終わった後でいいから。ねっ、ちょっと手伝ってよ」
「申し訳ありませんが、この後も私は用事がありまして」
妹と一緒にモン○ンしたり、ご飯の用意したり、妹とお風呂入って洗いっこしたりと大忙しなのだ。
流石にこれ以上は押し問答になるだろうと予想し、適当に切り上げるかと考えていたところで、ふと体がふわりとした感覚があった。遅くまで妹とア○ム銀行に通っていたのがダメだったかな? なんて思いながらも表には一切出さず、何故か固まっているお客様に一礼する。
「それでは、私はこれで―」
「ちょちょっ、待ちなさいよ! っていうかレジスト?!」
慌てて私を引き留めてくるお客様。その顔には「信じられない!」と書いてある。
「どうしてよ? 貴女の知っているゲームよ? 貴女のお気に入りのキャラクターが出てくるのよ? しかも恋愛できちゃうのよ? 友達作れるのよ?」
「私がそのキャラクターをお気に入りでも、ゲームはゲームです。それに……」
「それに?」
「そのキャラクターたちが好きなのはヒロインやヒーローであって、私ではありません。妹ちゃんが好きなのはお兄様で、お侍さんが好きなのは巫女様なんです」
ここまで拒絶されるとは思っていなかったのか、ぽかんと口を開けて凝視してくるお客様。
そう―どれだけ私がそのキャラクターを好きでいても、当人たちが好きなのは同世界の住人。顔も知らない奴がいきなり目の前に現れて好意をぶつけてきても困られるのが関の山だ。
というか、私はお気に入りのキャラはいても、それはア○ルーやピ○チュウみたいなマスコットキャラなのだ。
そも、ゲームのキャラと恋愛できるからやれ、と言われても、リアルで彼氏いない歴=年齢の私がそこでうまいこと恋愛できるかと言われたら首を傾げる。
というかね、
「ゲームはゲーム、ということで、私は謹んで辞退させていただきます」
「いやいやいやいやいや、ゲームって言ったけど、それはわかりやすく言ったのであって、っていうか貴女わかってるでしょ私の言葉の意m―」
「うるさいですね……」
お客様が「?!」と声にならない悲鳴を上げて硬直し、見たくないけど見ないといけないと言わんばかりに目線を私の後ろへと送る。
振り向かなくても、そこに後輩ちゃんが立っているのがわかる。眠りを妨げられたせいですこぶる機嫌が悪いことも声音と雰囲気から察した。
「またお客様でしたか……今度は何用ですか?」
「ひぃ?! わ、わわわたしはただ、この子に、ゲームを手伝ってもらおうかと……」
「一人用のリアルオンライでですかぁ?」
後輩ちゃんのどす黒いオーラと共に、店内にお客様の悲鳴が響き渡ったのは、それから三秒と経たない僅かな時間だった。
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