お会計させていただきます4
あけましておめでとうございます パート2
後輩ちゃんと一緒に店の清掃をしていると、小学生くらいの女の子が来店してきた。
ふわふわのセミロングと赤いリボンのついたウサミミがキュートで、ぽわぽわしたオーラを纏っているように感じる。
うん、ぶっちぎりで可愛い。略してブッカワ…………まるで物価について言っているように聞こえたので略すのはやめようと思った。流行に乗るのも、自分の得手不得手を見極めてからでないといけないのかもしれない。
そんなアホなことを考えていると、女の子もといお客様はきょろきょろと店内を見渡し、窓を拭いていた私を視界に入れるなり、ぴょんぴょんと跳ねるように近づいてきた。髪とウサミミとスカートがふんわりと揺れる姿がとても愛くるしく、保護欲を抱きそうになる。ぐうの根も出ないほど可愛いとはこのことか。略してぐうかわ、ってやつだ。
手を伸ばせば届く距離で立ち止まったお客様は私を見上げると、
「来てやったぞよっしー! お茶会しようず!」
「当店にイートインのコーナーはございませんよ、お客様」
ファンシーな見た目とは裏腹に毒特なトークでナンパしてくるおマセさんを営業スマイルと共に一蹴する。
あと、よっしー言うな。
「えー、そんなこというなよぉ。焼いてくれたクッキー食べさせてよぉ。あーんしてよぉ」
「クッキーならあちらのお菓子コーナーにございます。私の手作りはありませんし、あーんしません」
私の手作りクッキーを食べられるのもあーんしてあげるのも妹と後輩ちゃんだけだ。
「ちぇっ、けちだなよっしーは。略してけっちーだよ!」
勝手に人にあだ名をつけたお客様はぷりぷりと頬を膨らませたかと思うと、ぽんと手を叩いて、
「まぁいいか。新作の紅茶とサンドウィッチくだしぁ!」
純粋無垢な笑顔でそう賜った。赤い瞳が、太陽を受けてキラキラする雨粒をつけたプチトマトのように輝いている。うん、詩的表現もダメだな。慣れないことはやっぱりしない。
とりあえず、目の前のお客様の要望に応えるとしよう。
「こちらが今月の新作のサンドです。紅茶の新作はございません」
「ほむ、じゃあいつのもので行くか。よっしー、お会計!」
会計を終えると、お客様はどこからか取り出したピンクのハートポーチに商品を入れ、手をぶんぶん振って走り去っていった。
「んじゃまた来るなー!」
「またのご利用をお待ちしております」
一礼して、お客様を見送る。
あ、畦道で転んだ……田んぼに落ちて……あがってこない。
「助けに行かなくていいんですか?」
整理中の戸棚から視線を外さない後輩ちゃんが声をかけてくるけど、業務確認のようなもので、本人も私の答えなんぞわかりきっている。
「行かない。行ったら相手の思うつぼだよ」
「お茶会、誘われてますからねぇ」
「お茶会なら私は身内とするよ。という訳でチートちゃん、後でお茶会しよう!」
「嫌です。あとチートじゃないです、千歳川です。それと掃除の続きをお願いします」
後輩ちゃんは私を冷たく突き放し、作業に戻ってしまった。
「ウサギは寂しいとダメなんだよ?」
「ウサギは縄張り意識が強いですよ」
結局、後輩ちゃんとお茶することはできなかった。ぐすん。
今年もどうぞよろしくお願いします パート2