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私のお母さんは…

作者:

 「わたしのおかあさん」

一年二組 さとう ひびき


わたしのおかあさんは、天かいのせんしでした。

大むかし、まかいと天かいの、大せんそうのときに、おかあさんはたくさんのこうせきを上げたけど、おかあさんの力をこわがった天ていと、ま王にはねをもがれて、ちじょうにおとされてしまいました。おかあさんは、まあいっか、といって、ちじょうでしりあったおとうさんとけっこんしました。

 わたしが生まれたころ、こんどは、天かいとまかいが一しょにちじょうをせいふくしにきたので、おかあさんが一人でおいかえしました。このことは、人げんのごく一ぶのえらい人しかしりません。

なので、おかあさんはいまはせんぎょうしゅふだけど、たまに、アルバイトで天かいやまかいのせんしをおいかえしています。おかあさんのアルバイトの日は、ゆうはんが、とってもごうかになります。

わたしも大きくなったら、おかあさんみたいなやさしくてつよいせんしになりたいです。





「は~い。佐藤さんありがとう。みんなも佐藤さんに拍手。」


パラパラと拍手が響く。


「で~も!先生、お母さんに昔のことを聞いて作文を書いてきてくださいって言ったよね?お話を作ってきてくださいって言ったなら、この作文でもいいですが、次はキチンと本当の事を書いてきてくださいね~。」


にっこり笑って、担任の吉村先生はやんわりとそう言った。


「嘘じゃないです!お母さんは…」

「だぁってお母さんが天使なんてウソだ~!!ひびきは嘘つきだ~!!」

「違うもん!嘘じゃないもん!お母さんは天界の民?っていう人だったんだって!」

「う~そつき!う~そつき!」

「はーい、達也君!ダメですよ!そんな意地悪言っては!じゃあ、次はそんな達也君読んでください!」

「は~い。……ぼくのお母さん……」


授業が粛々と進んでいく。

私は、お母さんにちゃんと聞いて、お母さんの昔話を書いたのに…と、納得いかないが、ここでケンカをしてもお母さんもいないし、不利だと思う。

グッと我慢してみんなの発表を聞くのはとても苦痛だった。






 あれから、たっちゃんは私を見るたびにからかってくる。

私は嘘をついてないのに、皆は私を嘘つきだと思っている。でもそれも今日までだ!!

今日は待ちに待った、参観日!!大事なことだからもう一度言うけど、参・観・日だよ!

みんなにお母さんを見せたくて、私は朝からウズウズしていた。

 5時間目は一組から四組までの合同の体育で、運動場で行う。マット運動、50メートル走、跳び箱、鉄棒を、クラスで10分毎に全てを巡る。

5時間目が始まって、10分経って、最初の種目だった50メートル走が終わった。

他の子のお母さんたちは拍手したり、写真を撮ったり、応援してくれてるのに、私のお母さんはまだ現れない。もしかして、またアルバイトが入ったのかなぁ?でも、何も今日じゃなくても…お母さんのアルバイトはその性質上、いつでもどこにいても突然呼び出される。だって、天界と魔界の戦士なんて、予告して攻めてくるものでもないし、その強さは人間の軍より遥か上の相手だから、お母さんしか対応できないし。でもさ。やっぱりさ…


なんてウジウジしている間に、もう最後のマット運動になってしまった。たっちゃんなんか私を見てニヤニヤしてるし…く~や~しぃ~~~!!!

そんな感情を噛み締めながら、でんぐり返ししていると、私の上を結構大きな影がすごい速さで通った。

最後も綺麗にピンと立って、ポーズ取ったのに、誰も見てくれていない。


みんなにつられて私も空を見上げると、でっかい黒いドラゴンに乗って手を振っているお母さん。私は、やっと来てくれたお母さんにうれしくなって、お~い!とか叫びながら手を振り返した。そしたら、皆、突然ギャーギャー言い出して、逃げ惑いだした。

とりあえず屋根のあるところって、雨も降っていないのに体育館や渡り廊下に逃げていく。


あれ?今更?みんな、あまり見ない光景に呆然として対応が遅れたらしい。

影が濃くなって、目線を皆からお母さんに移す。すると、バフゥゥゥンと砂煙を上げて5メートル以上あるドラゴンが目の前に降り立った。


グォアァァァァァ…


いきなりの大声に耳がうゎんうぁん鳴ってる。


「ハイハイ。ドウドウ。」


お母さんの声が聞こえた気がしたけど、耳がボンヤリしてるから気のせいかもしれない。

砂煙を避けるために閉じていた目をそおっと開けると、お母さんがすごくいい笑顔でドラゴンの首をトントンと叩いていた。あれ!テレビで見たことある!馬が飼い主にあれをやってもらうと気持ちよくてご機嫌になるんだよね!


私は、ドラゴンをじっくり見た。なんか、鳥っぽい。トカゲチックなイメージを勝手に持っていたけど、口はインコの嘴みたいに上の方が長くて、下口をカバーするような形だけど、その横から鋭い牙が上向きに生えているところは鳥じゃ無い感がすごくする。

普通の鳥なら、鶏冠とか飾り羽とかのある所には棘があって、口を開けると舌は猫みたいにトゲトゲがある。肌は蛇っぽいし、羽はコウモリっぽい。尻尾は正面のこちらからは見えないけど、目は、金の輪が黒で塗りつぶされてて、中央が縦に赤い縦線が入っている。


「ごめんねぇ!間に合った?」

「もうおわったよぉ!」

「ごめんごめん。でも、ひびきのでんぐり返しは特等席からじっくり見たから!上手にできるようになったね!」

「うん!」


お母さんは私の頭をポンポンと優しく叩いてくれる。

いつの間にか傍に来ていた、たっちゃんが私の手を横からギュッと握っている。


「あら?達也君?こんにちは。おばさんの事覚えてる?幼稚園でも一緒だったもんね。」


そうなのだ。

なんとも、不本意甚だしいが、私とたっちゃんは幼稚園から一緒の幼馴染なのだ。


「ほらね!たっちゃん。お母さんは天界の民だったんだよ!でもお母さん、いいの?ドラゴンで学校着ちゃって?すごく目立ってるよ?」

「ドラゴン?あぁ!この子は一応鳥類なんだけどなぁ…まぁいっか。うん、それなんだけど、何回追い返してもダメで対応が後手後手に回っているうちに、今度テレビでUFO特集組まれて、そこで今までのママのバイトの風景が言い逃れできない程度に流れちゃうんだって。だから、隠す意味はなくなるらしいよ。一応、一般人として生活出来るようにマスコミは押さえてくれるらしいけど、どこまで言うこと聞くか分かんない人種だから、気を付けてくださいねって、呼び出されたのよ。何も今日じゃなくてもいいのにね。ホント気の利かない…」

「へぇ、ねぇ、私も触っていい?噛まない?」

「この子大人しいわよ。乗ってみる?」

「ううん。乗るのはいいや。名前は?」

「魔軍から奪ったから名前ないんだよねぇ。ポチでいいよね?ポチだよ。」


チラッとドラゴンを確認すると、満足そうにうんうんしてる。ポチでいいんだ…

ってか、鳥っぽいドラゴンじゃなくて、ドラゴンっぽい鳥だったんだね。知らなかった。


「これから、我が家で飼おうかと思って。お父さんが毎日車に乗って行くから、買い物とかに便利だし。」

「でも、こんなに我が家広くないよ?」


ポチの大きさを指して言うと、お母さんはさも何てこと無いように答えた。


「ポチは体の大きさが変えられるのよ。大きさに応じて体力や持久力も変化しちゃうけど。だから室内で飼えるわよ。」

「へぇ。」


そんな、和やかな会話がなされている時だった。

バァッサバッサと羽音が大きく聞こえてきた。


「申し上げます。エレナ様、どうぞ、また我が軍に上っていただきたく…」

「ヤダ。」


お母さんは、バッサリと全部聞く前に、大きい羽根で飛んで降りてきたオジサンに断っちゃった。

どうやら、前回の大戦から、暫くはお互い様子見してたけど、お母さんがどちらにもつく気が無いって分かったら、また覇権争いし出したんだって。エレナはお母さんの名前。

お母さんの見た目は綺麗な多国籍美女って感じだから、エレナって名前がすごく似合う。

お母さんは、何か考えてたけど、ニィヤァっとチャシャ猫みたいに笑って応えた。


「ん~。なら、条件付きで戦争止めてあげるよ。」

「はっ!何なりと。」

「んじゃ、条件は後でね。ひびき、お母さんちょっと行ってくるわ。今日の夜中には帰るから、晩御飯はお父さんと外食でもしといて。ひびきは、犬派?猫派?」

「え~?えっとぉ、犬?かな?」

「あら?ホントにぃ!きょう君は猫だったのよ~。分かったわ!お土産持ってくるから楽しみにしててねぇ!」


戦争止めるのと、犬猫どちらが好きなのかと、何の関係があるんだろう?

あ、きょう君は私のお兄ちゃん。丁度6歳違うから今年から中学生なんだけど、結構しっかりしていて、カッコイイ自慢のお兄ちゃんなの!

お母さんは、ポチで行くのかと思ったら、ポチは私たちのボディーガードとして残るんだって。

いつの間にか、カラス位のサイズになったポチが肩に留ってた。

爪が食い込むこともないし、重くもないから、気がつかなかったよ。


「じゃぁ、少し嵐がくると思うけど気をつけてね。」


不穏なことを笑顔で私に伝えて、お母さんはフワッと空に浮いた。

羽無いのに!と愕然としている天使のオジサンを横目に、光の加減で見えたり見えなかったりする、七色にキラキラ光るスワロフスキーのシャンデリアみたいなお母さんの羽を見た。

なぜこんなことができるのか、お母さんもよくは分からないらしいけど、羽をもがれて地上に向かって落とされた時、落ちたら痛いじゃん!って頑張ったら出たんだって。 

もう、我がお母さんながら、規格外だね。

一個一個のキラキラはちっさいのから大きいのまでバラバラなんだけど、お母さんの背中で纏まって動く姿は圧巻だ。

 大きく手を振って見送った私に、先生が恐る恐る近寄ってきっかり3メートルは離れた所から、今日はもう授業終わりだから、着替えて気を付けて帰りなさいって声をかけてくれた。見ると、たくさんいたクラスの子たちもその親も、ものすごく遠巻きにしながらこそこそ帰っていく。

横で茫然としたままだった、たっちゃんもフラフラと帰って行った。

何だか色々あった内に、チャイムを聞き逃したみたい。

こうして、私の小学校初の授業参観は幕を閉じた。




ポチと家に帰って、リビングで宿題のプリントを済ませると、私も疲れていたのか眠ってしまったらしい。


ふと気がつくと、体に毛布が掛かっていて、お兄ちゃんがすごくちっさい音でテレビを見ていた。カーテンが閉まっているのもあるが大分暗い。電気つけようかとも思うけど寝起きで体がだるいから暫くこのままで良いかとも思う。テレビの音に紛れて入るけど、お母さんの言った通り嵐なのか、時折激しい雨が屋根を叩く音が聞こえてくる。


「お兄ちゃんおかえり。」

「あぁ、ただいま。今日は大変だったんだな。」

「ん?あぁ、参観日。お母さんから聞いたの?」

「ううん。テレビ。」


ほら、と指されたテレビを見ると、誰かの親が撮ったのか、ブレブレのホームビデオっぽい動画で私やお母さんがポチを挟んで会話している姿から、オジサンと飛んで行っちゃったお母さんの姿までが映っていた。


「あれ?お母さん、マスコミ相手には一般人だからって何とかしてくれるらしいって言ってたのに。」

「ふうん?」


気にするでもなくお兄ちゃんがそう答えた所でお父さんが帰ってきた。


「ただいまぁ!お~い、外出られないから、お弁当買ってきたよ~。」

「まだ、外いるの?」

「おかえりなさ~い!」


どうやら、一般人に対する配慮など無く、マスコミはこの大雨の中、外で我が家を見張っているらしい。


「あれ?ポチは?」

「あぁ、こいつ?ポチって言うの?」


お兄ちゃんの手にはカラスサイズの手乗りポチ。


「うん。お母さんが付けたの。可愛いでしょ。」

「う~ん。鳥ならピーちゃんでも良くない?」

「まぁ、普通の鳥でもないし良いんじゃない?」


着替えから戻ってきたお父さんの一声で「まぁいっか」になって、皆でご飯を食べた。

私は参観日の話を最初から事細かに話した。

犬派、猫派の所で、お兄ちゃんが「あれ、俺猫って言ったっけ?」とか言った気もしたけど、気にしない。


みんなでワイワイご飯食べて、私はポチとお風呂に入って、皆でテレビ見て、遅くならない内に寝た。

夜中に、なんだかおっきな雷が落ちたような気もしたけど、一瞬フッと目が覚めたのか、夢だったのかは分からない。



朝起きると、リビングに真っ白な猫と、真っ黒な子犬がいた。

猫は子猫って大きさでもないけど、成猫って程貫禄は無い。

子犬はフガフガとボールを噛んでいる。


「かわい~!」

「あら、起きたの?ひびき。」

「うん。おはよう。この猫ちゃんとワンちゃんどうしたの?」

「あぁ、あんまり奴らがしつこいから、人質として、天帝の三女と魔王の五男を、地上の平和を学ばせるって名目で預かってきた。これで、地上は攻められないし、天帝も魔王も迂闊なことはできないでしょ?うふふ。」


お母さんが手を振ると、ポンと音を立てて猫と犬がお姉さんと男の子になった。


「わぁ!佐藤ひびきです!よろしくね。」


お姉さんはにこっと笑ってくれたが、男の子にはプイッと横を向かれてしまった。

お姉さんはちょうどお兄ちゃんと同じ年くらい。男の子は私と同じ年くらいに見える。

また、ポンと鳴って、白猫と黒い子犬に戻ったところで、朝ごはんを食べにダイニングに行く。


「まだ、言葉が分からないから、常識を教える前に言葉からなのよ。しばらくはこの姿のほうが害が無いでしょ。」

「大丈夫なの?」

「えぇ、天帝と魔王の子の中で最も優秀な子を貰い受けてきたから。第一子は残したんだから問題ないわ。」


跡取りの中で一番優秀な子ってだけで結構な問題だと思うのだが…気のせいか…?

朝ごはんのソーセージがパリッと口の中ではじける。この味だ~い好き。

私の足元から、じーっとこっちを見ていた子犬についついソーセージを一本与えてしまう。

ハグハグと口に入りきらないソーセージを持て余して、両手?両前足?でキチンと端を持って綺麗に食べている姿は、とても犬っぽくない。

勝手にご飯あげてお母さんに怒られるかな?と様子をうかがっても別に気にした様子もなく、笑ってくれたので良かったのだろう。


「お兄ちゃんとお父さんは?」

「ん?二人とももう出たわよ。マスコミは蹴散らしといたから、ひびきは暫くポチと登下校してね。何があるか分からないから。」


と言って、見た手乗りポチは昨日よりさらにサイズダウンして鳩サイズになっている。

これならただのインコでも通用する気が…しないでもない。牙さえ隠せば…たぶん。


「お父さんたちは大丈夫なの?」

「あの人たちは、おっきいし男だし、意外と強いから大丈夫よ。さぁ、遅刻する前にさっさと出発!」

「はぁい!いってきまぁ~す!」




「なぁんてことがあったよねぇ!お義姉ちゃん。」


目の前には、コロコロと走り回るたくさんの子供たち。


「こら!イチ!ジン!喧嘩しない!ミツ、シノとイツのお世話お願いね~。

そうね~あれから色々あったものねぇ。長いこと猫で生活してたから、人型に戻っても毛づくろいしそうになって堪えるのに苦労したわ。」

「え~すぐに馴染んでたように見えたよ!旦那なんて、未だに突然足で耳の後ろを掻きだす時があるから大変だよ。」

「ぷふ~」


 腕の中の小さな黒髪の赤ちゃんが気持ちよさそうに体勢を変える。


「うふふ、お父さんになったんだから、そろそろその癖も直してもらわないとね。」

「ホントだよ~アオが真似しちゃったら大変。」

「あ!ババちゃまだ!」


イチ君の大声でお兄ちゃんの子供たちは一斉に走りだす。7歳を筆頭に5歳双子、3歳双子の3男2女がポテポテと駆け出す姿は鼻血が飛び散るくらい可愛らしい。


「おお、相変わらず元気だね。お土産に地上の駄菓子を持ってきたよ。麩菓子っていうんだよ。皆でお食べ!」

「あいがと~」


チビたちがワラワラと麩菓子に群がったのを避けて、お母さんはいつもの笑顔の目じりにに少しだけ皺を乗せて、それでも綺麗な姿で私の子を抱っこしてくれた。


「良く眠って、いい子だねぇ。頑張ったね。ひびき。これからは子育て頑張るんだよ。」


やっぱり、お母さんには誰も叶わないよねぇなんて思う私はとてもマザコンだと思う。


End





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― 新着の感想 ―
[良い点] 斬新な発想とスラスラ読める文体がとても良かったです。色々とバックストーリーが気になります。
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