白山羊さん、お手紙書いた。黒山羊さん、餓--
小さな白山羊さんは、山の向こう岸にいる黒山羊さんへ一通の手紙を渡そうと思いました。なので小さな白山羊さんは、郵便配達の皇帝ペンギンさんに頼みました。
「何故我輩が下々の手紙を届けに行かなくてはならないのだ」
でも、皇帝ペンギンさんは尊大な態度でお断りしました。
小さな白山羊さんは悩みます。どうしよう、このままでは黒山羊さんの誤解を解けない。謝れないよ、と。
仕方ないので、小さな白山羊さんは山越えを決意しました。ぱっからぱっから山道を進み、順調に山を登ります。ですが、山の頂上付近に付いたところで歩みを止めました。山の頂上付近は老朽化した吊り橋があり、そこには白山羊さんの天敵が鎮座していたからです。
白山羊さんは思いました。これはまずい、と。
なので一旦引き返し、白山羊さんの兄弟に頼み込みました。結果、中くらいのお兄さんと大きいお兄さんが了承してくれました。
小さな白山羊さんと中くらいの白山羊さんと大きい白山羊さんは、一致団結して老朽化の進んだ吊り橋までやってきました。
まずは大きい白山羊さんから通ります。
「ここは通さん。此処を通りたければ身を寄越せ」
遠雷のように轟き響く声が出ます。が、大きい白山羊さんは言います。
「わたくしめなど食べても足りないでしょう。私の次に来るものは私より身が大きいのです。だから、わたくしめを食べても味気ないでしょう。だからわたくしめを通してくださいませんか?」
「ふむ、よかろう。次の者はちゃんと来るのだろうな?」
「ええ、もちろんですとも」
大きい白山羊さんは、通ります。大人な体格なのに、すんなりと通りました。
次に、中くらいの白山羊さんが行きます。
「お前か?」
天敵は疑問視しながら言います。それはさっきの山羊より小さかったからです。
「そうだよ。何か問題でも?」
「ではお前の身を寄越せ。それが先ほどの奴との約束だからな」
天敵は大口を開けて言います。が、中くらいの白山羊も言い返します。
「何だって!? あのくそ兄貴、そんなこと言いやがったのか!? なんてひどいやつなんだ!」
中くらいの白山羊は言います。
「なぁ、あんた。俺なんか食べても身なんて少しもありゃしない。だったら、次に来る白山羊のほうがいいぜ」
「それは本当なのだろうな?」
訝しげに天敵は訊ねます。
「そりゃ、勿論。保証するぜ。だから通してくれよ」
天敵は渋々と、そしてどこか嬉々として了承した。
最後に小さな山羊さんが通ります。
「おお大オオ大オオ大オオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
天敵は小さな白山羊に向かって吠えます。小さな白山羊は天敵のあまりの形相と大声で恐れをなして腰を抜かしました。
「お前が、お前が、お前が、お前がかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
怒り狂う声で言います。白山羊さんはか細い声で訊ねました。
「な、何故怒っているのでしょうか……?」
と、白山羊さんが言うと、天敵は答えます。
「お前の大きな兄は言った。わたくしめの次に来るものは身が大きいと! 次に来た先程より小さな中くらいの兄は言った。俺の次に来る方が大きいと! それが、なんだ! お前が一番小さいではないか!? これはどういったことだ!」
小さな白山羊は言います。
「そんな、兄がそんなことを言うなんて!」
むせび泣くように言いました。が、天敵は怒り狂います。
「もう我慢ならん。お前で十分だ。俺はお腹が空いているのだ! お前を食ってやる!」
「お、お断りします。それでは!」
小さな白山羊は脱兎の如く逃げました。
それはもう必死で食われまいと。
お蔭様でどうにか逃げ切りました。
小さな白山羊さんはトボトボと自分の小さなお家へと帰っていきました。
黒山羊さんから手紙が来ました。
『そうか、そうだったんだね。誤解していたよ。君の手紙を最初食べてしまいたい気持ちになったけど、我慢してちゃんと読んだよ。君の考えは良く分かった。でも、読み終わったらちゃんと食べました。結構美味しかったです。お兄さん達にもよろしく』
そう書かれていました。
けれど、小さな白山羊さんは思います。
あれから兄達は帰ってきていません、と。