1-7
ぶんぶんと必死に首を振る蓮を助けたのは第三者だった。
「!」
ぴくり、と律のものではない足音を耳にした蓮は瞬く間に顔を氷のように凍てつかせ、さっと律の背に隠れた。
おや、と言う中年男性の声が律を挟んで蓮の耳に届くが、蓮は律の腹部に両腕を回し押し付けるようにより一層しがみつく。
やれやれ、と律の溜め息だけが蓮の中へ入っていった。
「おっさんは今日も蓮ちゃんに嫌われたなー」
「こいつの内弁慶は今にはじまったことじゃないよ。でも、ごめんね?」
「いーや。別に良いけど。お兄ちゃんに苛められていた蓮ちゃんにさくらんぼでもとおもってなぁ」
「ありがとうおじさん。じゃあこれは優しいお兄ちゃんがもらっとくよ」
お前さんにやったんじゃないよ、とからから笑う恰幅の良い中年男性の笑い声にしれりとした態度で応じる律の話し声が頭上から降ってくる。
それに、蓮は心の奥底から嫌悪した。
蓮が許すのは律と保護者の声音だけ。
それ以外は、いらない。
だっていつ『散らせる』対象になるのかわからないのだから。
そんなのの声を覚えていようとするなんてただ重たくなっていくだけ。
だったら聞かない方がいい。
だったら覚えない方がいい。
ごく普通に、どうでも良い世間話をする兄。
これは出来て当然のことなのだろうけど
(早く……)
早く、早く早く終わってくれないだろうかと蓮は切に祈り、望む。
律の背中で黒い瞳を固く固く閉じる。
見ないように。
聞かないように。