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ぷるぷると首をさすりながら、声も出せないでいるあたり本当に本当に痛かったのだろう。流石にやり過ぎただろうか、とも蓮は思ったが今まで蓄積されて来たちいさな意地悪を一括返済したのだと思えば罪悪感は自然と薄れていくものだ。知らない知らない。
水のような碧眼にうっすら涙を浮かべた律がぎり……とそれはそれはお怒りの色で蓮を睨み付けてくる。
罪悪感はないが、危機感は流石に感じた。それはもうひしひしと。肌にひりりと焼けつく程度には。
ぱっ、とネクタイから手を離して胸のあたりで弁解するかの如くひきつった笑顔で首をひたすらに横に振り続ける。
いや、わかっているのだけど。
このあと強烈な雷が落ちてくることはわかっているのだけど。
「だ……だだだだっ、だってっ、律くんが意地悪言うから……」
「……ほぉう……?それで蓮ちゃんは律くんの首をへし折ろうとしたわけか」
なんて大袈裟な。そう反論したかったが口走った言葉が非常に悪かった。
ゆんらりと目元に凶悪な影を据える律には今何を言っても敵に塩を贈るだけにしかならない。
がさがさと紙袋を漁る律の手。
「!」
蓮の体は全身全霊を持って寒気と恐怖を伝えた。
これは、大変危険なものだ。蓮の最も苦手とするものが出てくる。
探った手が上に上がってくる。紙袋と言うオブラートから、
黄色い、魔王が。
てかーっ、と恐ろしい光を放っている気がするのは蓮が特にそれを嫌っているからに違いはない。
そう、黄色い魔王。
「今日は林檎とパプリカだからね?それはそれは色鮮やかに仕立ててあげる」
「やだやだやだっ!邪道ピーマンだよそれっ!」
「あー、首痛かったなぁ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!今日はたくさんお手伝いするからっ!だからっ」
魔王だけはぁー……と必死に、これ以上ないくらいに蓮は懇願する。
蓮に食べ物の好き嫌いはない。黄色い魔王ことパプリカを除いては。
どうにもあの歯応えがいやなのだ。蓮自身謎ではあるが、どうしてもあの歯応えは受け付けない。生理的に仲良くなれる気がしない。
そんなものを夕食に出されては堪ったものではない。