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頭が割れる。冗談抜きで。
「大人げない!痛い!痛い!大人げないーっ!」
「よしよし。十七才はな、まだ大人じゃないんだ」
またひとつお利口になれたな、といたずらに笑って律は蓮の頭から手を離してくすくすと踵を返して歩き始めた。
じうじうと余韻の残る痛みを引きずりながら蓮も黒のワンピースと、その上からかけている黒のケープをたゆらせて律を追いかける。
帰る場所はどうせ同じなのだ。ここで別々に帰るのもあほらしい。
相手は蓮よりも背が高い上に足が長い。小柄な蓮とはコンパスが違いすぎるから少しでも間をおいてしまうとあっと言う間に距離が離れてしまう。
ととと、と小走りに流れ星色の金髪を追いかけて、少し背伸びして買い物袋の中を覗く。
見えるのは、律の歩に合わせてかさりかさりと鳴る林檎。林檎。林檎。
もちろん、林檎の他にもその中には入っていたが、林檎が七割を占めていた。
蓮の表情が苦いものに変わる。
冬に諦めて色褪せた草の色のように。
「……今日も林檎がいっぱいある…」
「おー。甘いものは最高だろ?」
「ご飯が毎回毎回アップルパイなのは成長期によくないよ」
「良いだろ?他にもジャムにだってなるし、焼き林檎にもなる。蜂蜜と煮ても旨いし、漬けても旨い。何よりもあのひとが大好きだからな」
林檎を語る律がふ、と溢した笑顔は蓮に向ける意地悪なものではなくて、優しいもの。
律が大量に林檎を買い占めるのは育ての親であるひとが大好きだからだと、蓮は知っている。
蓮だってそのひとのことが大好きだからよくわかる。
『仕事をしたら甘いもの♪』
それが優しい優しい保護者の口癖だ。物心ついたときから何かと林檎を使った料理を出してくれ、それを口にしていた。
だから蓮だって林檎が嫌いだと言うわけではない。ただ時々は林檎を食べない日が欲しいだけだ。
色褪せた……もとは純白だったのであろう店たちが並ぶひとつを指差して蓮はささやかな訴えを試みる。