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碧眼の……義理とは言え兄と言う存在にぐしゃぐしゃに撫でられた髪をごく自然な動作で整えながら、蓮は憎まれ口を叩く。
「……律くんの戦力外」
ぽつり、と溢す小さな小さな嫌味。
だって、これは嘘ではない。
スーツを着崩した金髪の……律と言う兄は今回に限らずではなく、悪魔を『散らす』と言う仕事に関して戦力外なのだ。
体を動かし、小刀を握るのは蓮の役割。
律にはその役は負うことは出来ない。
決して体が弱いわけではないのだけれど……けれど律には出来ないのだと蓮は『あのひと』から聞いている。
わさわさと少しばかり癖っ毛な自分の髪を一苦労して戻したと言うのに、静かにきれいな笑みに……どこかしら不穏な色を混ぜている律と眼があってしまった。
ささやかな仕返しをしておいて……加えて分かっていたことだったが、蓮はぎくり、と身を引いた。
律が悪魔を『散らせる』と言うことにおいての戦力外だと言う事実は嘘なのではないのかといつもいつも思う。
紙袋の中で律の歩に合わせて笑った林檎が蓮に危機感を与えた。
かつ、と黒い靴がレンガを鳴らすとさらりとした流れ星のようにきれいな金髪が流れて、蓮の上に影を作る。
律の人影と言う、蓮の強敵。
絶対に絶対に絶対に、律は弱くないのだと、この瞬間にいつも胸のうちで叫ぶ。
だって、この五つ年上の兄に蓮はけんかで勝てたことが一度もない。ぐわしっ、と無造作に掴まれた頭から攻撃の匂いがした。
「よく回るお口だこと。ねぇ?はーすーちゃん?」
ぎぎぎぎ……と頭を軋ませる腕を蓮はまだ残っている反抗心でがしっ、と両手で握って押すように引き下げようと試みる。
女の子のようなこの華奢な腕のどこにこんな力があるのか。しかも手加減してくれているこの握力のどこに弱さがあるのか、蓮には皆目検討がつかない。
「言葉の使い方間違ってるよだ。律くんのおばか……痛い痛い痛いっ!」
「そう言うのは屁理屈って言うんだよ?良かったねぇ蓮。ひとつお利口になれて」
お兄ちゃんにありがとうは?と一見きれいなこの笑顔には悪意しかない。
虐待だ。児童虐待。と言う訴えはこの兄には通じないことを蓮は痛いほどよく知っている。
と言うか本当に痛い。現在進行形で痛い。