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鈍色に曇る小刀を右手に、深い灰色とも言える黒色の髪を持つ少女は物憂げをその幼い顔に彩った。
ひび割れ、廃れた……と印象を持たれるだろうレンガの地面を黒色の瞳に映し、しばらくしてゆっくりとその大きな瞳を閉じる。
ふぅ……と桜色の小さな口から生まれた溜め息の名前は「わからない」と言う感情。
少女はレンガ道の最奧、今しがた自分が『散らせた』悪魔と呼ばれる者が背負っていた翼を背中から刈り取ったばかり。
それは少女たちの役割で、他にするものもいなくて、自然と、当たり前のことになっていた。
さあぁ……と舞い降る風に少女は瞳をゆっくりと開き、空を仰ぎ見る。
「…………今日の悪魔は…若葉色だったなぁ……」
どんよりとした灰色の空に、刹那で描かれた羽根たち。
刈られた悪魔たちの、成れの果て。悪魔はその背に広げた翼を刈り取られると散り散りの羽根となって消えて逝く。
空に刹那咲くこの羽根を見るたびに、保護者の言葉を思い出す。
『蓮。蓮?良いかい?どんな時でもーーーー』
「こころを忘れちゃいけないよ。…………優さん…」
蓮は、今日もわかりません。
蓮と言う幼い少女は小さな小さな黒い鞘に小刀を納めて小さく呟いた。
その声音は年相応の女の子にふさわしい音であり……しかし例えるのならば、それは水辺にさ迷う一輪の花のような……そんな印象を相手に朧気にでも抱かせる音色だった。
若葉色の羽根が空に遠くなるのを最後まで見ることなく、蓮はレンガ沿いの道を戻る。
膝下まである長い黒いブーツを鳴らした。
「今日も今日とて辛気くさい表情おめでとう、蓮」
「……また意地悪言う…」
むぅ……と蓮は頬を膨らますと、奥道から出てきた自分を出迎えた少年に意地悪くそう言われた。
どよりとした曇り空と纏う黒いスーツに全く似合わないさらりとした金髪に碧眼の少年はかさりと大きな紙袋を鳴らして蓮の頭を乱暴に撫でる。
この手の大きさが、目の前の少年が男の子であると言うことを差し引いてもやはり年上の存在であるのだと再認識させられて、蓮は悔しくなる。
この手は自分よりも長くあのひとの傍らに立っているのだ。
鮮やかな林檎が覗く紙袋を見るところ、蓮が悪魔を消え逝かせている間に、この少年はお使いと言う名の買い物をしていたのだろう。
呑気なものだ。意地悪のひとつを返したところで罰は当たるまい。