2-9
名前からか、優は蓮が笑うと『綻んだ』と称する。
蓮の花ように綺麗に、天上の笑顔で在りますようにと蓮の名前はつけられた。
だけども、灰色のように黒い瞳に髪。
悪魔と言えど命を『散らして』いるのだから、優の願うような言葉には応えられそうもない。
日々、悔やむことばかりで嫌になる。
それすらも包んでくれるのがこの心色のような、春みたいなひとで、誰にだって想いを繋ぎ祈るようなひとで。
「優さん」
「はいはい?」
「蓮は、優さんだけを守ります」
「………………律は?」
誓いを捧げて、返ってくるのは少し困ったような空気。それからそれを払拭してのちょっとだけ冗談めいた問いかけ。
僅かに開けた間は、悲しいんだと蓮は悟った。
優が悲しいことは、蓮が家族以外を蔑ろにすること。
わかっているのだけど、それはどうしたって揺るぐことはない。
優の、立場を考えれば……その力を考えるならどうしたって、どうやったって、天地がひっくり返ったって。
変わることはない。
「……律くんは強いから、自分で守れますもん」
「あぁ……蓮は律にけんかで勝ったことないんだっけ?」
「…………」
返す言葉もなく優の膝の上でむくれる蓮。
ぷうぅ……と頬を膨らませてぷいっ、と優から顔を背けると優はあはは、と柔らかに笑った。
優の人差し指につんつんと膨らんだ頬をつつかれながら改めてこれが『当たり前ではないかもしれない日常』なのだと、蓮の中に沁みる。
この町のひとたちは『悪魔』のことを表だって知らない。
あれだけものが壊れたり、誰かが怪我をしていたりするのに知っているものは『極僅か』だけ。
だから、きっと……こう言った仕事をしている蓮たちは風当たりが悪いはずなのだ。本来は。
常識知らずな蓮にだってそれくらいの想像力はある。
そうなればきっと悪魔を『散らす』蓮よりも、悪魔を『感じる』優は……。
そう考えて、いつもぞっとする。
悪魔は元から『悪魔』だったわけじゃない。
だから、いつこの町の人間が、動物が、植物が何かを強く想って『悪魔』と化すかわからない。
そうなればまた優は体調を崩す。
蓮の頬をつつくこの指の暖かさ。
(早く……)
悪魔なんて滅べば良い。
この暖かさを崩す悪魔なんてーーーーーー




