2-8
だから、蓮は悪魔を好ましく思わない。
大切なこのひとを苦しめている悪魔なんて、いなくなればいいと心から願う。
だから日々、小刀を握っているのだけれど、悲しいかな守りたいと言う蓮のこの心は刃にしかならない。
こう言った刺々しいものが悪魔を生んでしまう材料のひとつになってしまうのが歯痒い。
だから、優先順位をつける。
優と律が傷つかなければどんな罪悪に染まったって蓮は構いやしない。
生憎ながら、優のように優しい想いは持ち合わせていないのだから。
嫌いなものとどうでもいいものしか転がらない世界に心のように繊細で、蝶のように羽ばたく二人だけで良い。
蓮が守るべきなのは優と律だけだ。
それら以外は必要ない。
んむー……?と少しぼやけたような声音がほやほやに揺らいで、それから頭に安堵の摩擦。
優に頬擦りされているのだと、気付くより先に嬉しいがやはり勝った。
きゅー……と腹部に回されている暖かな両腕が大好きだと言う感情を泉のごとく湧き上がらせてくれる。
ぐりぐり、と蓮も自ら優の頬へその心を贈った。
頭の上からしあわせそうな、優しい空気が流れる。冬なのに、優の傍だけはまるで春のようだ。
そんな錯覚を思わせる程に、優と言う存在はとてもとても絶対で大きい。
はいはい、とわざとらしく困った色を声に塗って、顎を離し、今度は手を乗せてくれる。
ゆったりと髪の流れと同じ方向に撫でてくれる、律よりも大きくて、なのに少しばかり弱々しい手が気持ちいい。
「元気だって優さん言ったろー?蓮も律も優さんに過保護じゃないかい?優さんはそんなに頼りないかい?」
んー?とあやすように、じゃれるように言う言葉はわかっているくせにわざと訊いてくるいつもの言葉だ。
言葉の跳ね方も、声音もいつもと同じ。
良かった。本当に大丈夫のようだ。
頭を撫でられながら蓮は保護者に包まれてふにゃりと笑顔になれた。
「お。蕾が綻んだ」
良いお顔、と優は春のように笑った。




