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「無理矢理追い出すことなんてないのになぁ」
優さんは悲しいよ、と頭上で優が泣き真似をしながら蓮の頭の上に顎をのせてぼやいた。
白いソファーの上にどっかりと座る優の、その膝に座っている蓮はちゃっかりとカップケーキを食べ終え、保護者を独り占めな現状に満足していた。
頭にある重みも、腹部に回してくれている手も嬉しい。
そんなに広くはないリビングに大きく目立つソファーは優の特等席である。
と、言っても自室に帰りたくない症候群の優が就寝時時間以外は蓮や律と一緒にいたいと駄々をこねたからで。
けれどそれは保護者と言う立場からの気遣いだから、蓮としてはそれに応えたいと思うし、事実世界で一番安心できるのは優の傍。
白いテーブルを挟んで棚の上。そこからががが……と調子の悪い赤いラジオが甲高い周波数を叫ぶ部屋で蓮は優を見上げた。
お?と笑う紫暗色の瞳は深い深い心のよう。
暗くも優しく受け止めてくれる、唯一の色。
だから蓮は今生きているのだとらこの瞳を見るといつも思う。
痛感する。そして痛々しいほどに鋭い傷が蓮を癒していく。
妙な喩えではあるが、優の瞳はそんな瞳だった。
「優さん」
「はいはい?」
「眠らなくて大丈夫なんですか?」
昼過ぎて、今。朝に感知した悪魔の『全て』を叩きつけられるように認知した彼は頭を押さえて過呼吸を起こしながら倒れた。
それを見ていただけに……毎回のことながら心配は尽きない。
優が背負うは『悪魔の心』
悪魔は『強すぎる想い』から生まれる存在であり、その元は人間や動物、植物だって然りだ。
優は悪魔が生まれたと同時にそこに至ってしまった経緯を感じとる。
それは蓮にはまだわからなくて、現在の蓮の悩みごとのひとつなのだが、優は自分のことのように悪魔の『想い』をその身一つに受け止める。
だから体や心に大きな負担を強いて、倒れてしまう。
その優の様子から粗方の悪魔の力を計り、蓮は悪魔の居所を探しては『散らす』
今日の悪魔の翼の数は四枚だった。
優の負担は相当に重たかったはずだ。




