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「………うー…」
こればかりには反論できないで蓮はただちいさく唸るしかない。
紛れもない事実であるから。
律はドアノブを捻りながら鉄の扉、上の方をごんごんと軽く叩く。
この家は、古い。
だから歪みやらなんやらがとても酷くて、玄関の扉を開けるのに一苦労するのだ。
蓮には背伸びしたって届きはしない上の上の方。
地味に地味に、少しずつ場所を変えながら叩いていく律が生む音が、ごんごんと鳴らし続けていた音から「くわぁん」と言う間の抜けた音が鳴る。
「あっ」
「お、あったあった」
ひとつだけ音が違った場所と捻ったままのドアノブをぐぐーっ、と目一杯に押す律を見ながらいつも違う音の発生源を必死に蓮は覚えようとする。
ぎ……ぎ……ぎ……と、歪に耳に痛い音を押しながら律は家の扉を開く。
とても古い家の扉は、住人にしかわからないコツでしか開かない。
因みにこれは内側からも然りであり、蓮がひとりで出掛けようとするときは家の窓から出ていく羽目になる。
いつか台を使って違う音を見つけることは出来たが、身長が小柄故に器用に開けることは出来なかった。
耳に痛い音が鳴り終わったと同時に蓮は律の脇を潜り抜けてぱっ、と駆け足に家の中へと入った。
あ、と言う少々苛りとした声が律が蓮へと発せられた。
が、そんなこと気にしない。
ぴょいっとブーツのまま家の中へと飛び込み、からっと勢いよく玄関正面の扉を開いた。
その扉一枚の向こう側には直ぐにキッチンがある。
ふわりと香る、甘い甘い林檎の香り。
それに砂糖の匂いも混ざって、胸が甘いものでいっぱいに満たされる。
キッチンに立っていたのは肩からちょろりと流した黒い髪。
男性でありながらも艶めいた風貌の、男性がそこに立っていた。
暗さを帯びた紫色のたれ目がふにゃりと蓮を迎える。
ああ、帰ってきた。
蓮は心からの安堵を得る。
自分を育ててくれたひと、唯一無二の大事な親である彼。
甘い香りに家を満たして待ってくれたそのひとに、蓮はーーーーーー




