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一番賑やかな通りを過ぎて、十分ほど歩いた所に蓮たちが住む家がある。
レンガの道に寂しく立つ楓の木。
ひゅう……と吹く冬の風に、枝の先が小刻みに揺れていた。
葉のないその空虚な姿に、ああ冬なのだなと思い知らせれて、蓮は苦々しさを喉に感じた。
蓮は、冬が嫌いだ。曖昧なのに苦く深く刻まれた記憶が泣いているから。
いつだって、冬の間はただ泣き続ける。
冬なんて大嫌いだ。
蓮はこの季節いつも心うちで叫ぶ。
冬は好きかと問われれば迷わずに首を横に振る。
冬なんて、なくなれば良いのに。
「あー……寒い…」
本当に寒い、と笑いが出そうなまでな棒読みが家の前でそう呟き、蓮を静かに降ろした。
寂れた色のレンガに覆われた、古い借家。一軒家。
どこからでも泥棒さんいらっしゃい、と一見どこからでも安易に入れそうな蓮の家は実はセキュリティが万全な家だった。
他の住宅街から離れて、ひとつだけぽつんとある家の回りは荒れに荒れていて、とても見られたものではない。
草は伸び放題で、蓮より高い草も存在するくらいだ。隠れることなんてどこにでもある。
しかし、それでもやはりセキュリティは万全だった。
律が寂れた銀の錆がついたドアノブに手をかける。
「これがなかったら私も一人でお出かけ出来るのになぁ…」
「あー……少なくとも今の身長のままじゃ無理だなぁ」
小さいから、蓮は。と言って律は小さく笑った。




