03 最大級の宿敵の挑戦状 ②
私が悩んでる間にも時はあっという間に流れて、
もう“薦音エイカ”の発表会。
インターネットでその様子は生中継されていて、私もそれを覗くことが出来た。
どこでやってるんだろう。私の時みたいに、サーバーの入ってるビルかな。そんなことを考えながら画面にログインした瞬間、私の予想は根底からひっくり返された。
──ウソでしょ!?ここ、幕張メッセじゃん!!
『本日はお集まりいただき、ありがとうございました。それではこれより、我がキセノン社が新たに開発した次世代VoICeS「薦音エイカ」の発表に参りたいと思います!』
すごい歓声に、混乱しかけの私はなんとか落ち着きを取り戻した。ああ、あの人って私が発表された時も司会をしてた人だ。
「それではご覧ください、これが今の日本最高クラスの技術の結晶です!」
彼の挨拶で幕がバッと落ちた。報道陣のカメラのフラッシュが一斉に瞬いて、画面が真っ白になる。
光がやんだ時、そこには立体映像がその姿を映していた。
うわっ…………。
思わず、声が無くなった。
なんてスタイルのいい人なんだろう。
なんて衣装の可愛い人なんだろう。
『はっじめましてぇー!』
彼女──“薦音エイカ”の挨拶に、画面の向こうから歓声が聞こえた。この音量にこの響きかた、後ろの方に一般のお客さんがいるんだ。
……何だか、私の時と何もかもが違わない?
『薦音エイカでーす!みんな、これからよろしくねっ!』
指を立ててかっこよくポーズを決めると、エイカはテレビカメラに向かってウインクした。また上がる歓声。
私の時はあんまり色々させてもらえなかったのに。
やっぱり間違いないよ、私とは待遇がぜんぜん違う。
そんな確信めいた思いがした。
「主像体、何見てるのー?」
個別像体が一人、私の膝に飛び乗ってきた。
「ああ、041084……。私たちの新しい仲間が、公開されたんだよ」
「ふーん……」
041084はトロンとした目で私の頭にリンクする。私が見ている映像がそのまま、彼女の頭へ流れ込む。
「……なんだか、オトナだね」
そう、小さな声で呟く041084。
『如何でしたでしょうか!これぞ現在のトレンド、あの“姫音ミライ”をも遥かに上回る高性能さが実現する新バーチャルアイドルなのです!』
司会の人の叫びに、圧倒的な歓声が会場を満たしていく。私のライブの時のように、それはリズムを刻みながら、雰囲気を下から持ち上げてゆく。
楽しそうだな。
気持ち良さそうだな。
あそこに、私も立ちたかったな。
「…………ああ」
いま、やっと分かった。
これが、
“嫉妬”っていうキモチなんだって。
……はっと気がついたら、私はすごい表情で手を握りしめていた。
不安げに私を見上げる041084の顔を見て、慌ててそれを崩す。
「ごめんね、怖かったよね」
そう声を返すと、041084はすぐに笑顔に戻った。
「……ねえ、主像体。さっき私、また新曲作って貰ったんだよ。「明光」Pは失敗作だって悔しそうに言ってたけど、私はすっごいキモチよかったんだよ」
「そっか……」
私の投げ遣りな返事に、何か思うことでもあったのかな。041084は、ニッと笑った。
「主像体がライブ終わった後、すっごい楽しそうにしてた理由が、ちょっと分かったかも!私、いますっごい“たのしい”よ!」
最後のひとことに、ドキリとした。
そうだった、危うく忘れるところだったよ。
私は、アイドルなんだ。歌えさえすれば、みんなを笑顔に出来さえすれば、それでいい。それで十分なんだって。
「…………ありがとう」
そう言うと、041084はきょとんとしたみたいに目をしばたかせた。
この時、私は悟ったつもりになってた。
実はぜんぜん分かってなんていなかったんだって思い知らされることになるなんて、思いもしなかった。
次の日の事だった。
翌日の東京ドームライブに備えて待機してた私の回線に、ワンが話しかけてきたのは。
『薦音エイカと引き合わせたい』
彼はそう言った。
『一応、挨拶した方がいいだろう。というかエイカが顔を見たがっていたのでね』
「はぁ」
新しい振り付けの記憶に専念したかった私の返事は、自然と気のないものになった。ワンの耳は、そんな私の気持ちまでは捉えてくれない。
『もう回線を繋ぐ準備はおわっている。じゃあ始めるぞ』
「え!? ちょっ……!!」
ヴォム!!