02 幕間――とある会議の議事録――
「……そうなんですよ。昨日一日で寄せられた苦情が、去年の八倍の57件にも上っておりまして……」
「原因については分かっているのですか?技術部門の方からの説明は久しく受けていないように記憶しているのですが」
「……つまり、纏めさせて頂いても構いませんか?コールセンターの方で一番多い質問は、[ミライの性格が時々狂う][BGMに音割れが生じる]の二点ですね」
「まあ、そういう事になりますね」
「いま手元にある資料で答えられる範囲ですと、恐らくはサーバーの拡張で解消するしかありませんな。現在のところ、登録ユーザーは五万人超。瞬間最大同時ログイン数は一万九千を記録したこともある。その段階で何が起こっているのかは、正直言って規模が大きすぎますので私ども技術部門にも分かりませんが、恐らくは演算結果を各ユーザーのパソコンに転送するシステムが混乱しているのだと思います。通信衛星の方はどうしようもありませんから、後はサーバーの通信設備の拡張以外に対策しようがありませんから。財務部門さん的には対策費幾らまで出してもらえますか?」
「そうですね……せいぜいが十二億と言った所でしょうか」
「それは例の計画も含めて?」
「いえ、あちらは含んでないですね。向こうについては六十億円相当の投入を見込んでいます」
「でしたら、こういうのはどうです。我々技術部門の算出した概算だけで、あの檜原村のサーバービルディングの工事を行う費用はざっと二十億となっている。まず捻出は不可能です。この際現行の修正案を破棄し、例の計画に全投入してしまうのは。もう二年経ちましたけど、営業部門さんも最近は苦労されてるでしょう?」
「先日、外部のPも交えての戦略チームを立ち上げましてね。売り込みについてはさほど……。ただ、企画モノがやや低迷気味という印象です」
「どうですか、ここで新たな風を送り込むというのは。二極化した方が話題にもなると思いますよ」
「私は賛成させてもらいます。急速に人気を伸ばしているとはいえ、売上はそこまで凄まじいモノではありません。銀行さんの顔もあまり良いものではないですし、なるべくカネは使いたくないですから。それに、カネをかけたってよくなると断言は出来ないのでしょう?」
「そうですね、十二億では施設の拡張で精一杯かもしれませんな」
「ならば、いいではありませんか。新しく創って潤うなら、その方がいいですよ」
「財務部門さん、ちょっとそれは彼女に対して酷い言い方ではないですか?まるで人間じゃないみたいに」
「はは、何を仰有る。事実彼女は人間ではないのですよ?」
「それは、そうですけど…………。まあ皆さんがそうまで云うのでしたら、私どもとしましても反対する事はないですね」
「では、決まりということで社長に報告させて頂きます。技術部門さんの何方か、今度の役員会と株主総会にも出席して頂けませんか?」
「私が行きましょう」
「分かりました。では、これにて今日の部門長会議はお開きに……」