05 最果ての傷心の決意 ⑥
ふと見かけた動画サイト。
そこには、元気にステージの上を舞い踊る私が映し出されていたんだ。
いつの映像だろう。投稿日時を見ると、二年以上前の日付が書かれている。
そうか、これ……まだ私が駆け出しのアイドルだった頃のものなんだ。
歌手としてデビューしたはいいものの、何も分からなくて右往左往していた、あの日々。
全てが新鮮で、ドキドキで、楽しかった日々。
もう二度と、戻っては来ないあの日々。
懐かしい、とは思わなかった。むしろ、ついこの間のことのような気がする。スポットライトの眩しさ、会場のものすごい熱気。何もかも、この身体はまだちゃんと覚えてる。
あの頃、私にとって歌は何だっただろう。
今みたいに、辛くって、大変な思いをしながら歌うものだったかな……。
違う。
ぜったいに違う。
歌うって、もっともっとずっと楽しくて、楽しくて、楽しくて、とにかく楽しいことだったはずだよ。
ファンのみんなと一緒になって、精一杯、出せる声と力を振り絞って、そうして得られる快感を楽しむことだったはずだよ。
……今の私に、そんな楽しみ方は出来ないや。
このボロボロの身体が紡ぐ音色は、ため息や汗や涙ですっかり錆び付いちゃった。
思った通りの音程を出すことさえ、出来なくなっちゃった。
もう、誰かを感動させる力なんて残ってない。
私の三年間が、こんな形で終わってしまうなんて、
嫌だ。
嫌だ……。
嫌だ…………!
「……っ……ひく…………っ……」
いつの間にか涙が、頬に何本もの轍を作っていった。
分かってる…………。
もう、遅い。取り返しのつかない失敗をし続けた私に、もう引き返せる道は残ってないことくらい…………。
どんなに足掻いても、私に下された調律停止の決定は覆らない……。二度と直してもらえないこの喉では、前よりいい歌を歌うことなんて出来ない……。
「……っやだ……よ…………!」
……それでも、諦めたくなかった…………。
諦めなきゃ、きっといつかはまた笑ってステージに立てる。
「……歌いたい……!まだ、歌いたいよ……っ……!」
そう…………信じて、いたかった……。
人間の干渉出来ない、孤独な広い広い空間の真ん中で、一人膝を抱えながら私は泣いた。
声が枯れても、目が痛くなっても、構わなかった。個別像体が見ていたとしても、泣き止む気なんてなかった。
時が許すのなら、いつまでも、いつまでも…………。
終わらせよう。
涙の合間に、そんな念が踊った。
こんなに辛いなら、もう、終わらせよう。
何もかもが、無かったことにしよう。
そうすれば、個別像体たちは消える恐怖から解き放たれる。歌えない恐怖から解き放たれる。
私がエイカとの関係で悩むことも、自分の存在の所在に迷うことも、もうなくなるんだ。
そうだよ、それがいいよ。
耳元で誰かが囁いた。
涙を拭い、
ゆっくりと時間をかけて立ち上がった私の瞳に何が映っていたのかは、
きっと誰にも分からない。