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05 最果ての傷心の決意 ⑤





 ────「はっ…………!」


 気がついたら、私の意識はサーバーの中へと戻されていた。すごい数の個別像体(シリアルコード)たちが、横たわる私の身体を見下ろしている。

「……大丈夫……ですか?」

「頭、まだ痛くない……?」

 口々に言う彼女たち。まだふらふらする頭を振る私に、一番前に座ってた039392が、

「……主像体(ママ)、ライブ中に倒れたんですよ。ライブ用特設演算コンピューター(サーバー)の事故で……」


 原因は、ここ数週間続いていたトラブルだった。

 対処のために毎日CPUはフル稼働で計算をこなし、その忙しなさゆえに劣化の加速にも気づかなかったのだ。ライブ中、メインサーバーのCPUはついに熱暴走を起こし破損、隣接していたライブ用特設演算コンピューターが大ダメージを受け停止(ダウン)したという。それが、あの時私が感じた強烈な“頭痛”だったんだ。


主像体(ママ)がダウンした瞬間に会場の立体プロジェクターも受像を停止したから、お客さんにはただパって消えただけだとしか見えてないみたい。その後はエイカさんが、アドリブと独唱で何とか乗り切ったって…………」

「さすがに技術のスタッフさんも来たんですけど、主像体(ママ)が目覚める前に帰っちゃいました。もうこれっきりにしてほしいな、とか言いながら……」

 個別像体(シリアルコード)たちの顔を眺めるうちに、ようやく掴めてきた気がした。そうか、私……

「失敗……しちゃったんだ…………」


 三年間の喜びも感動も何もかもが、がらがらと軽い音を立てながら崩れ落ちていくような気がした。

 私は歌手として最悪の失敗をしてしまった。その自覚だけが、濁流になって私の心を覆い尽くすんだ。


「……取りあえず、様子見も兼ねて一週間は療養だって」

 誰が言ったのかも、思い出せない。




 お客さんたちは、どう思ったんだろう。


 もう、ミライ(こいつ)はダメだ。きっとそう思ったんだろうな。

 みんなを幸せなキモチにしてあげられなかった。私、アイドルだったのに。




 案の定だった。

 インターネット上でのあの日のライブの言われようは、散々だった。私がトラブル続きである事は脇に追いやられ、音が外れてから消失するまでの部分(シーン)だけがあっちこっちで独り歩きしてる。

 [駄目だな、こりゃ]

 [やっぱり時代はエイカでしょ]

 [しょうがないだろ、ミライはもう古いんだから]

 そんな意見に、賛同のコメントがいくつもついていた。


 私の時代は、終わった。


 そのフレーズが、一番堪えた。




 一週間、何もしてはいけない。

 ううん、今はもう何かをしたいとさえも思えない。

 個別像体(シリアルコード)たちのいなくなった暗い部屋(サーバー)の中で、私はただ黙って流れていくインターネットの情報を眺めていた。

 もう、先がどうなるかなんて何も分からなくなった。最後の(ユーザー)さんにも見捨てられて、独りぼっちになる未来しか、見えなかった。


 いつから、こうなっちゃったんだろう。

 どうして、こうなっちゃったんだろう。


 エイカに会って、この思いの丈を明かしたらどうなるんだろう。ううん、ダメだ。私に許されてるのは、私との専用回線を持っている人との交信だけだ。



 なら、私には何が残されているの?






「………………あ……」


 ふいに、掠れた声が出た。





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