03 最大級の宿敵の挑戦状 ③
刹那、私は立体プロジェクターへと転移していた。
あの75番室よりもさらに一回り大きい、別の部屋みたい。対になって置かれた立体プロジェクター自体も何だかよくわからない機械がたくさんついていて、ゴージャスだ。そういえば感覚もいつもと違うかも……。
っていうか、まだココロの準備も何も出来てないのに!
あの自己チュー博士、と呪詛を垂れた途端、向かいのプロジェクターが目映い光を放つ。
「わ!?」
思わず閉じた目をゆっくり開くと、
そこには、もう一人の立体映像が立っていたんだ。
私よりも、背が高い。
身体のラインも私より緩急があって、自分が子供に見えてきちゃう。身に纏ったその衣装は私と似て電飾状の輝きを放ってるけど、何て言うか……すごく扇情的。
これが、五歳の年齢設定の差なの?
「防護電場貫通、成功。再現度98パーセント達成。転移完了です」
「よし、何とかなったな」
どこからか聞こえた電子音声に、機械の谷間に立つワンの声がぐわんぐわんと響いて重なる。その声で、やっと私は事情が分かってきた。私は今、私のサーバーとは別の場所にあるエイカのサーバーのビルへと出向いているんだ。
「初めての対面になるね。“姫音ミライ”、“薦音エイカ”。気分はどうだい?」
「……あなたが、ミライ」
向かい合った私たち。
口火を切ったのは、反対に佇む立体映像──エイカだった。
「会うのは初めてだね。私が、薦音エイカ。あなたの後継として開発された、[VoICeS:neo]。これから宜しくね、
ミライ!」
最後の三文字を一度切って言うと、エイカは穏やかな表情で私をじっと見る。私も、自己紹介しなきゃ。
「…………き、姫音ミライです」
「固くならないでよー」
おどおどとしか喋れない私を前に、手をヒラヒラ振るエイカ。「そっか、急に呼び出しちゃったから何が何だか分かんないよね。ごめんね、活動が本格化する前にどうしても会っておきたかったんだ」
違う、違うの。
なんかこう……もっと違うキモチなんだ。
仲良くしたい。
したいのに、もっと暗くて訳の分からない感情がそれを邪魔する。
「………どう、呼んだらいいですか?」
エイカを前にすると、どうしても敬語になっちゃうな。エイカは何か言おうとしたみたいだったけど、一瞬口をつぐんでそれを飲み込んだ。
「何でもいいよ、薦音でもエイカでも。と言うか、敬語なんか使わないで。年齢は私が上でも、経験値はミライの方が上なんだから」
それはそうなんだけど……。
まだ落ち着くところを見つけられない、私のココロ。エイカはそこへ、容赦なく釘を撃ち込んでくる。
「でも私、負けるつもりなんてないからね。二年間のアドバンテージなんて、すぐに埋めて見せる。今にきっと、ミライより売れっ子のアイドルになってみせるよ。
お互い、頑張ろうね!」
……情けないな。
その最後の一言が、私とエイカの年齢差を何よりも教えてくれたんだ。
エイカは私よりもずっと、オトナだった。
私なら、相手を慮るような言葉なんてきっと言えない。でもエイカはオトナだから、勝負に関係ない所ではちゃんと平等に見られるんだ。
そう思った途端だった。
急に、剥き出しの私のココロが穏やかな感情に包まれていくような感じがした。
そうだよね。エイカがオトナなら、私は子ども。設定がそうなっているのならそれで、割り切るしかないよね。
「うん」
私も笑った。
「よろしくね、エイカ!」
私はコドモ。
それでいい。
満足したようにニヤって笑ったエイカは、
ワンに言った。
「あ、もういいよ。メインサーバーに返してあげて」
「分かった」
え?
え!?
ホントに私の顔が見たかっただけだったの!?
一言も喋る暇を与えられる前に、私の意識はあっという間にメインサーバーへ戻されちゃった。
本当に少しだけの面会は、唐突に終わってしまった。
「…………トモダチ……か…………」
トモダチって、何なのか。
まだ私は、答えを出せそうにないな。ぐったりと座り込んだ私の抱いた感想はただ、それだけだった。
エイカの存在が、私の存在を根底から揺るがすことになるなんて未来は、
考えたくはなかった。